38話:銀十字の魔法使い―分裂
Scene龍輝
俺は、目の前の光景に呆然としていた。
「銀十字騎士団」において、喧嘩は日常茶飯事だったが、部屋が丸々一部屋潰れたのは異常だ。
「おい、何があったんだよ。九重!みん!」
「龍輝、みんみんが裏切った!舜がやられた」
なっ、舜がやれた?馬鹿な。力量で言えば、相当強いあいつを倒したというのか?
「それにコイツ、呪印持ってる!」
なに?聞いてないぞ。あいつは、単身魔法使い(師匠がいない魔法使いの総称)だろ。どんな呪印が刻まれているんだ。
一瞬見えたそれは、右半身全てに、黒い羽のような印が刻まれていた。
あれは、まるで、始まりの魔女の印に対するかのようなもの。左半身に【白羽】を宿し、全ての自然を操ったと謳われる最初の魔法使いの真逆の存在かのような。
身の毛のよだつ印だったが、戦ってる九重はその比じゃない恐怖を感じているだろう。
俺は、【黒減】の呪印を浮かばせる。
ここは、どうにかして、逃げるしかない。【黒減】の由来は【刻限】でもあると昔師匠にも言われた。俺は、俺の持つ魔法の中で、唯一の異端を使う。
「銀朱の時!」
俺は、舜と九重と共に、一定距離は離れる場所に転移した。
周りに見える景色がまったく違うものに変わる。しかし、この魔法は魔力を多大に消費する。かつて師匠が言っていた「友人の力を無理やり再現したものだが、やはり魔法と言う枷がつく以上、膨大な力を使わなければならないらしい」と。
俺の視界が暗くなる。どうやら魔力を使いすぎたらしい。
次に意識が目覚めたのは、鷹之町総合病院。この辺で、最も大きい病院だった。顔を横に向けると、九重の健やかそうな寝顔が見えた。
「無事、だったか」
一安心して、窓から外を見ると、昨日まで、「銀十字騎士団」があった場所の上に建っていた会社は、半壊状態で、ヘリや車が、近くを通っているのが見えた。テレビが点いている。ニュースから拾える情報を出来るだけ整理すると、地下で起きたガス爆発により、ビルは半壊。そのほかには被害が無い。
まあ、俺らは、離れた場所に居たから、別の事件として捉えられてもおかしくはないだろう。
「あいつも被害は最小限に抑えたかったのか?それとも偶然か。しかし、報道規制がかかっているからとは言え、ガス爆発ってのはどうだろうか」
「仕方が無い事よ。そもそも、魔法自体が伏せられてるのに、魔法使いが……何て言えないじゃない」
不意に声が聞こえた。九重のものではない。この、美しい声は、間違いない。凛菜だ。
「凛菜。お前、あいつが、敵だって分かってたのか?」
「あいつ、海藤ミクのことかしら」
「そうだ、あいつが全ての元凶だろ」
「知らなかったわ。あの子は、何か隠しているとは思ったけど、別段気にしていなかったから」
やはりか。舜は気づいてやられたようだが。
「舜は、今どうなっている?」
「京堂くんは、一応、息はあるわ。でも予断を許さない状態。集中治療室で今も治療が行われているわ」
舜は無事か。それにしてもアイツ、みんは一体……?あの、篠宮ショウキとも繋がりがあるようだったし。
やはり、篠宮ショウキに、あたってみるか。




