37話:闇の胎動
オレの動くときがそろそろ近づいてきたらしい。いよいよ、夜のとばりは、降りた。
【終焉】の刻はもうじき訪れる。
世界に終わりを告げさせ、新しい世界を創る。それが、オレの役目だ。
迎えよう、新たな【始まり】を。降ろそう、この世界に【終焉】と言う名の幕を。
オレを止めるのは、【輪廻】か【黒減】か【雷帝】か、それとも、【夜】か。どれがとめに来ようとも、オレは止められない。
滾る力が、右半身に迸る。
【黒羽】が俺の右半身を覆う。
さあ、宵闇は、ますます濃く、世界を黒く塗りつぶすばかりだ。
この【終焉】の魔法使いを、ショーキ、お前は、止められるか。
バンッと勢いよく扉が開かれた。
「誰だ?」
「みん、お前、こんなところで何をやっている」
足元に【黄昏】の魔法陣を展開させた舜だった。
京堂舜。「銀十字騎士団」で俺とペアの魔法使いだ。【典烙】の魔法使い。魔法使いの実力としては、龍輝といい勝負だろう。
「僕の事典に異常を感知してきてみれば、君がいた。それはすなわち、みん、お前が犯人と言うことでいいんだな?」
事典、か。厄介な。
「犯人、なんの?」
「爆破未遂、だな」
ほう、そこまで感じ取れるのか。
「僕の事典が、この周囲で、ものすごい炎の圧縮魔力を感じた。しかし、みん、お前は、何者だ?お前は水嵐の魔法使いと聞いていたが?」
そう言えば、そう名乗っていたか?
「そして、僕の事典も水嵐だと感知している。その時点で、確実に、君は水嵐の魔法使いだった。まさか、複数の魔法を保有するのか?」
複数の魔法と聞いて、この間龍輝から聞いた幼馴染の親友を思い出す。
「ハッ、残念。オレの魔法は一つだけだぜ」
【黒羽】が俺の右半身を舞う。その瞬間、舜の顔が驚きに歪む。
「まさか、お前、」
「そう、オレは、【終焉】の魔法使いだ」
その瞬間、無数の爆炎が舜を包む。
「ガァッ」
部屋の向かいまで吹っ飛ぶ舜。
片付いたか……。オレは、作業を再開しに掛かる。
「うっさいな~!何事よ!」
そのとき、九重が部屋に入ってきた。
「なんなの、さっきからバンバンバンバン!」
そうして、横を見た九重。舜の姿が目に入ったのだろう。
「どういうこと、みんみん」
オレは笑う。
「答えて、みんみん!」
九重は、右腕に黒い渦と円の取り巻く呪印を顕わにさせる。【輪廻】の呪印、か。
一般の魔法とはプロセスが異なり、「起源魔力」から魔力を取り寄せない【輪廻】。その仕組みは、未だに謎だが、今は関係ない。【輪廻】はそこまで攻撃に特化していない。
「消えろ、九重」
オレの爆炎が九重を襲う。
「結ぃ!」
九重が声を上げる。その瞬間、爆炎が、消えた。
「くっ、【輪廻】の魔法か」
魔法陣が展開された様子もない。あの魔法は一体何なんだ。
「雅、来て、【時空剣】!」
空中から突如、一本の剣が現れた。召喚系の魔法か?【輪廻】はどれだけ万能なんだよ!
「チッ」
【終焉】の魔法により、無数の黒い岩が九重に降り注ぐ。
「切り離して!」
九重が剣を振るう。岩が全て消え去った。
何なんだ、【輪廻】の魔法ってのは……。
しかし、倒す準備は、整った。作業完了。パチンと指を鳴らすオレ。
「消え去れ。【終焉の灯火】」
九重の周りを含めたこの部屋そのものが、揺れる。
「なっ、何?地震?」
違う。仕掛けは簡単だ。部屋を通るガス管のあちこちに時限式の魔法を仕掛けた。そして、それは徐々に熱を持ち、いずれ、発火する魔法。
ドゴォン!そんな爆破音と共に、一室が崩れ落ちた。




