35話:二人の珍客
【雷帝】の呪印を持つ、ウィンディアの魔法は、【雷鬼】の魔法だという。
曰く、「女の鬼は、得てして美しいもの」だそうだ。
【氷の女王】が、そう呼ばれる前に、【吸血鬼】と呼ばれていた、とこの間、ウィンディアが言っていた。それは、どう言う意味だったのか。【吸血鬼】とは、人の血をエネルギーとし、不老不死の肉体を持つ存在。そして、その全てが美貌を持つ。
曰く、「【氷の女王】の家系は、鬼の家系」だそうだ。
確かに、あの人もウィンディアも美しいことは確かだ。それに、あの人は、年のわりに見た目は随分若い。
しかし、一緒に暮らしていた間、牙のようなものは見たことが無いし、血を吸われたことも、当然ながら無い。
そんな現実逃避気味の思考をしながら、目の前の様子を眺める。
どうしてこうなった……!
展開される三つの魔法陣。「紫」と「薄黄色」と「黄銀」。
数分前、発端の発言が佐薙の口から飛び出た。
「だったら、誰が一番か、魔法で決めようじゃない」
何の一番かはよく分からないが、とりあえず俺としなのは反対した。
「わ、私、魔法知らないのに?」
としなのが反論するも虚しく、「あとで何らかの考慮をする」と言うユキネの発言でしなのは引き下がり、今に至る。
「【雷帝】や【雷鬼】、【雷鳴の巫女】と(親に)名づけられた、わたくしの実力、見せてあげますわ」
「炎魔をなめないことね。焼き尽くしてやるわよ」
「変装魔法使いと呼ばれるワタシがどれだけ強いか、思い知らせてあげる」
三人が、にらみ合う中、別方向からの声でこの戦いは、中断させられた(始まっていないが)。
「凄い魔力だと思ったら、大物がたくさんいるわね……。どう、龍輝?」
「ふむ、雷帝、炎魔、変装魔法使いに、氷の女王の弟子と大物が揃っているな。どうりでこの魔力だ」
一人は、黒髪で目つきが少し鋭いイケメン青年。この間会った「銀十字騎士団」の【黒減】。
もう一人は、鮮やかな金髪のロングヘアー(先がカールしているのが特徴)の美人。視なのと同じくらいある胸。痩せみなので、余計目立つ。そんな美人。
「皆さん、始めまして、雷導寺凛菜よ」
雷導寺凛菜……。あの雷導寺凛菜か?
「公式魔術協会長にして、【救世】の魔法使いか」
俺の発言に、凛菜は驚く。
「あら、よく知っているわね……。もしかして、あの人から聞いたとか?」
あの人は、【氷の女王】のことだろう。実際、俺は、【氷の女王】から凛菜の話は聞いていた。
「【救世主】、【慈悲姫】、【無勝無敗の女】、【恒久和平】、【平等愛者】、【愛に生きる女】などの二つ名をつけられた魔法使い。【氷の女王】から、攻撃を受け、唯一、凌ぎ切った者、と聞いてる」
俺の言葉に、凛菜は、頬を引きつらせていた。
「あの人、いろいろと吹き込んじゃって……。言っとくけれど、何割か嘘ですから」
「知ってます」
俺の言葉に、ウィンディアが続く。
「お母様は、性格が悪いですからねぇ……」
その通り、あの人は、性格が悪い。
「え?お母様……ですって?もしかして、雷帝のウィンディアは、氷の女王の娘、なの?」
ウィンディアは、苦笑いで答える。
「ええ。まあ。世間的には名誉なのでしょうけど……誇る気になれませんわ……」
「まあ、そうね」
「ああ、まったくだ。俺もあの人の弟子だ!と誇る気は毛頭ない」
と言うか、誇ったら、(氷の女王を)知ってる人が聞いたら「うっわー、じゃあ、性格悪そう」とか言われるわ!
「凄い」とか言われず、「引くわ~」って言われるに決まってる。




