3話:編入生
鷹之町第二高等学校。俺が通っている高校だ。
俺は、ユキネを連れて職員室へ行った。職員室の前で、所属クラスと名前を言った。
「二年二組所属の篠宮翔希です。転校生の冬海雪音を連れてきました」
そう言ってからドアを開けて一礼する。
「はいは~い。冬海さんですね。ご苦労様ですぅ~。でも、何でショーキくんが編入生さんを?」
俺は先生からの質問をやんわり躱しながら、ユキネを前に押しやる。
「気にしないでください。ほら、ユキネ」
「初めまして、ワタシは冬海雪音です。これから、よろしくお願いします」
半ば無理やりユキネに挨拶させる。ちなみに、この挨拶は、俺が仕込んだ挨拶だ。コイツのことだから、おそらく、「ユキネ、よろしく」くらいしか言わないだろうからな。
「礼儀正しい子ですねぇ~。……?この子が、編入生の冬海さんですか?」
「ええ。そうですが何か?」
まあ、大方の予想はつくが、おそらくユキネの背の低さに驚いているのだろう。高校生には見えない。普通なら小学校高学年から中学校一、二年生に見えるだろう。
俺も同い年と知った時には、眼が飛び出るほど驚いた。
「いえ、何でもありませんよ」
先生は、何か言いたげながら、何も言わなかった。まあ、言えないだろう。
ちなみに、ユキネの生活用品を買うために、夏休み中に何度か買い物に行ったが、そのときの周りの反応は、様々だった。
しかし、まあ、共通していたことはあった。絶対、ユキネは俺より年下に見られる。しかも、大分年下。
―――閑話休題
「それでは、ユキネをよろしくお願いします」
「あっ、は~い。承りました~」
俺は、教室に入り、席についた。すると、影久が声をかけてきた。
「よう、久しぶりじゃねぇか。夏休み中一切会わなかったから、一ヶ月半ぶりか?」
「そう、だな」
実際の時間として一ヶ月少しあっていないのだが、俺の感覚としては、戦闘が多く、もっと長く感じる。
「おう、そうだ。コレ、土産な」
気が利くな、影久のくせに。そう言って差し出されたものを見る。
「な、何だコレ?」
「ハワイ土産のゴールデンココナッツチョコレートらしきものだ」
らしきものってなんだよ。まあいい。折角だし貰っといてやるか。
そんな無駄話をしている間に時間が過ぎたのか、ホームルームの時間になったらしい。先生が教室に入ってきた。
「みなさん、お久しぶりですぅ~。いや~、夏休み中、みなさんが、怪我もなく新学期に元気にこれてよかったです」
在り来りの言葉を並べながら入ってきた先生の後ろに引っ付くようにユキネがいた。
「それでは皆さんに、編入生を紹介します。さ、どうぞ」
ユキネが一歩前に出る。いつものボーっとした表情で、言う。
「こんにちは。ワタシはユキネ。よろしく」
そんなボソリとした声が教室に聞こえる。普段の教室なら聞こえなかっただろう。そんな小さな声。しかし、いま、教室は無音だ。
全員が全員、ユキネの美しさに目を奪われている。そして、教室のあちこちから地鳴りのような声が上がる。
歓声は大きくなり、男女共にユキネに駆け寄るように集まる。
「ちょっ!皆さん!席についてください!席についてくださ~い!」
先生が頑張って皆に呼びかけるも、その甲斐なく、皆ユキネを囲ったままだ。
「く、苦しい……」
ユキネの声が聞こえた。女子達から「お人形さんみたい」と声が上がっている。そんな中、一人だけ、離れたところにいる奴がいた。アレは、佐薙悠、か?
「スピナリア……」
ボソリと佐薙が呟いた気がしたが、気のせいかもしれない。
「皆さん、席についてください!後で質問する時間をあげますから!」
先生のその言葉に、皆が名残惜しそうに席についた。
「えっと、席はどこがいいですか?」
先生の問いにユキネは一言。
「ショウキの隣」
そう答えた。
それを聞いたクラスメイトに驚愕が走る。おいおい、ユキネよ。あからさまに俺の名前を出すなよ。
「えっと、何故、ですか?」
先生の問いにユキネは、
「隣がいいから。それだけ」
と、言ったのだった。にこりともせず、普通の口調で、あるいは、淡々とそう言った。それに対し、俺は少々困っていた。
パートナーは常に一緒とは言えど、あからさまにくっついている必要は無い。あからさまにくっつかれると、動きにくいうえに、妙な噂が立ちかねない。
まあ、一つよかったのは、異性だということだ。同性でこんなことをした日には同性愛者なんていう、不名誉な濡れ衣を着せられかねなかった。
ホームルームが終わり、ユキネは取り囲まれて質問攻めにあっていた。そんなことは俺には関係ないのだが、問題は、質問の内容だ。先ほどから、主に女子が聞いているのだが、俺との関係やどう思っているのかなんていうことを聞いてくる。そして、問題(というよりは難題)のユキネの回答だが、「相棒」や「愛してる」など、なかなかに危ない発言ばかりである。
そんなことを思いながら、質問に耳を傾けていると、影久が、また妙に鋭い勘を働かせて、ユキネに聞いた。
「なーなー、もしかして、さあ、夏休み中に、ショウキと一緒に遊んだりしてたのか?ショウキの奴、俺の誘い全部断りやがって」
「うん。ずっと一緒にいた」
まともに答えるなよ!誤魔化せよ!
「マジか、マジなのか。ショウキ!?」
「うるせぇ!ちげぇよ。んな、訳がないだろ!」
と大きな声で、どなりつけた後に、小声で、「俺との関係は喋るな」とユキネにそっと耳打ちした。
そんな感じで俺とユキネの学校生活が始まったのだった。