2話:魔法
何故こんなことになった。どうして、こうなった。
俺の心の叫びは、後悔を表している。早く気づけばよかった。
俺は魔法を使えない。師匠曰く、「精神的なショックで無自覚に魔法を否定している」、とのことだ。
「くそっ、何故ユキネの魔法を見た時に気付かなかったんだ、俺は!」
ユキネの魔法は「変化」。物理的な変化でもたいした戦力にならない。つまり、俺もユキネも攻撃手段を持っていないのだ。
「ショウキ、魔法使わないの?」
ユキネの声に、魔法を使用してみようと試みるが……。ダメだ、使えない。
「ダメだ。俺には出来ない」
「じゃあ、逃げる」
「そうだな逃げるが勝ちだ」
敵を撹乱するように、猛ダッシュで駆け抜ける。狭い路地や暗い道を巧みに利用して、何とか、公園にたどり着いた。
ここなら視界が開けている。
相手は、奇襲を目的としていたようなので、顔を見せることは無いだろう。顔を見せてしまえば、逃げられた時に、再度奇襲を仕掛けることが困難になるからだ。
予想が当たったのか、それとも別の理由か。敵はもう襲ってこなかった。
もう、夜も明けるし、一般人に悟られないように、敵も攻撃を仕掛けてくることは無いだろう。
そう考えた俺は、家に帰ることにした。
「しかし、考えていなかったな。俺たちは、ほぼ攻撃できないってこと」
「なんで魔法使えないの?あなたが使えば良いのに」
「使えないんだよ」
そんなやり取りをしながら家に帰る。幸い、公園から家までは近かったので、それほど時間は掛からなかった。
俺の家は、別段、山奥にある洋館だったり、魔導書がぎっちり詰まった図書館のような家だったりはしない。普通の一軒家だ。随分昔から、俺の家族はここに住んでいたようだが、詳しいことは、俺も知らない。
俺は、家につくと、階段を上がり、自分の部屋のベッドに倒れこんだ。
天井を見上げ息をつく。蛍光灯の微妙な温かさの人工的な灯りがうっとおしく、電気を消した。日の出が近いおかげで、閉めていなかったカーテンからうっすらと光が差し込んでいる。
普通の部屋だ。魔導書なんて置いてない。置いてあるのは、漫画とラノベだけ。黒魔術のための生贄の蛙なんていないし、怪しげな水晶もない。至って普通の部屋。
まあ、部屋の説明なんてどうでもいいだろう。そんなことよりも、数時間後には、高校の始業式が控えているのだ。早く寝なくては。
俺は夢を見ていた。夢の中でも夢だと分かる。明晰夢と言うやつだろうか。
登場人物は、二人。幼い子供が二人出てくる夢だ。
あの日は、暑い夏の日だった。セミがけたたましく鳴いているあの日。俺は親友と、公園で遊んでいた。親友の朱みがかった髪が眼に映える。
俺たちは、ただ、遊んでいただけだった。公園で、いつものように、遊んでいた。
しかし、突如、一人の男が現れた。
「おい、ショーキ。な、何だよ、アレ!?」
「まほうつかいだと、思う」
幼い俺は、親友からの問いに、そう答えた。
「ま、魔法使い!?あれ、が」
親友は、焦るように朱色っぽい黒髪を揺らした。幼い俺は、ただただ、戸惑うだけ。何もできない。
「危ないっ!」
親友が、幼い俺を庇うように魔法を躱す。
親友の肩から鮮血があふれ出す。ポタリ、ポタリと垂れる血が、地面に落ちる。
「だいじょうぶ!?」
幼い俺が叫ぶ。溢れる血は、駆け寄った俺の手に、ベチャリと付着する。
その瞬間、取り巻く幼い俺の雰囲気がガラリと変わった。
弱気な俺を、憎悪、怒り、恨み、辛み、そう言った感情が幼い俺を包んだ。それに、身を委ねた。
「ぜんぶ、全部消えろぉおおおおおおお!」
幼い俺を、黒い影が包む。先ほどまで、夏の日差しが燦々と差し込んでいたはずなのに、気づけば、それは黒くなっていた。そう、それは魔法。
そして、全てが終わった。
ガバッと言う効果音が出るかのような勢いで飛び起きる。
ゴチンと言う音で、何かにぶつかった。それも勢いがよかったため、相当痛い。
「痛っ!」
「痛い……。どうしたの?急に飛び起きて」
ぶつかったのはユキネだった。頭を押さえうずくまっている。
「そういうお前こそ、何で俺のベッドにいるんだよ」
「起こしにきた。もう、学校の時間」
「ああ、そうか。お前は今日から、俺のところの学校に来るんだっけか」
パートナーになったのが夏休みの後半。それから家に住まわせ、襲撃を掻い潜り、今に至る。
パートナーは、常時一緒にいることを前提に、同性の組み合わせが多い。しかし、残念ながら、俺は異性のパートナーだ。
学校、住居、生活、全てを共にしなくてはならない。それゆえに、ユキネを俺の通っている高校に編入させた。
そして、ユキネは、高校生活を楽しみにしていた。
「早く行こう」
「分かったよ。とりあえず、俺の上からどけ」
「うん」
そう言って、いそいそと俺の上からどいた。こういう素直なところはいいと思う。少し無口と言うか、淡白と言うかだが。
「ほら、着替えてこい」
そう言ってユキネを追い出す。
「さて」
呟きながら、一ヶ月弱着ていなかった制服に袖を通す。違和感は無い。流石に去年一年間着ているだけあって、着慣れているのだろう。
俺の家から学校まで徒歩十数分。走れば五分程度だ。急がなくても大丈夫だろうが、今日は、ユキネを職員室に送り届けるという仕事があるため早く出るべきだろう。
「行くぞ、ユキネ」
俺は、着替え終わり階段を駆け下りると、玄関で待っていたユキネに声をかけた。
「うん」
いつものボーっとしたような顔をしていたが、心なしか、声が弾んでいた気がした。