13話:炎火、そして終わり火
俺は、夕暮れの教室でユキネを待っていた。すると、急に、大きな魔力を感じ取った。しかも、かなりの高質量(魔力に質量は無いのだが)。
気がついた瞬間には、すでに走っていた。屋上、ユキネと佐薙がいるはずだ。となると、其処を狙った敵の奇襲か、話がこじれて戦闘になったかだ。なら、どっちにしても急がないと危険だ。
屋上に上る階段を半ばくらいまで上がったところで、佐薙の声が聞こえた。
「コレで、終わりよ!『炎熱流技』《炎の星》!!」
やばい、直感で分かった。かなりの威力を持った技だ。ここにいても、その熱量を感じ取れるほどに、圧倒的な力なのだ。
「何やってんだ!お前らぁあ!」
怒鳴りながら、ドアを蹴破りはいる。
其処では、フェンス際でよろめいてるユキネと魔法を放とうとしている佐薙だった。
「『暗黒流技』《全てを呑む闇》!」
流技とは、強い魔法の系統上位技で、闇系統なら暗黒、火系統なら炎熱、氷系統なら氷結といった具合になっている。流技には、流技で対抗しないと打ち消しづらい。俺の魔法だと通常魔法でも打ち消せるのだが、この危機的状況なら、流技を使ったほうが圧倒的に速いのだ。
天空に生まれた灼熱の光球に向かって、俺の下から放たれた、黒いものが、広がり、伸びて包もうとする。ただ、流石は流技、俺の流技を受けてもなお、進もうとする。
「ちょっと、ショウキ君!邪魔しないで!」
「おい、喧嘩は止め、」
「「誰のせいの喧嘩だと思ってるの!?」」
えっ、ええ~?なんだよ。え?俺が悪いの?
「話が見えないんだが、俺が悪いのか…」
「う、うるさぁああい!」
うおっ、拳(炎を纏った灼熱の、だが)が勢いよく飛んでくる。チっ。今かすったぞ!殺す気か!
「殺す気かっ!」
「うらぁあ、うりゃ!死ねぇえええ!!!」
避ける、避ける、避けまくる。つーか、当たったらマジ死ぬぞ。
こうなったら、俺も反撃するしかない。なるべく危害を加えないように、加減をして、急所(死ぬ場所ではなく、気絶するための)を狙うしかない。影で剣を繕い、それで一撃で突く。
しかし、佐薙は、当たる寸前に瞬時に方向転換をした。そのせいで、剣先が、軌道を外れ、切り裂いた。切り裂いた布の奥から少し(日に)焼けた肌色のモノがあらわになった。そこまで大きいわけではないが、それでも確かな膨らみがあり、柔らかそうなそれに、俺は目を奪われた。
佐薙は、顔を薄紅に染めて、俯いていた。が、それはほんの僅かな時間だった。そして、不意に顔を上げて、拳を振るわせた。
「し、死ねぇえええええええ!!!」
「うおっ!」
先ほどよりも威力を強めた拳が、周りの空気ごと俺の近くの空間を奪い去る。危なすぎる。しかも、佐薙の胸に眼を奪われていたため、一瞬、反応が遅れた。
ゴォウと、俺の前を通り過ぎた拳が、急に方向を変えて、俺にぶつかりに来た。やばい、魔法を、と考えたが、夜の魔法では対応しきれない。夜では、炎を向こうか出来ても、炎の勢いを利用して噴射の力で加速した拳までは防げない。なら、と、俺は拳を受け止めた。
「なっ!?どうやって!?」
俺は別段体を鍛えているわけでもないので、普通にやれば、受け止めた時に俺の手は、腕ごと吹き飛んでいたはずだ。
ジュワッ言う音がして、煙が少々上がる、しかし、コレは、別に、俺の手が焼けてるわけではない。俺の魔法が、佐薙の拳を止め、炎も消したのだ。
そして、炎が消えると同時に俺の使った魔法は跡形も無く消える。コレで、俺の隠し技は、誰にも気付かれていないはずだ。
「どう、やったの?今の一撃は、通常の手では打ち消せないはずよ」
自分の羞恥など忘れて、聞いてきた佐薙だが、律儀に答える必要性は無い。ので、適当に誤魔化してあしらう事にした
「見えてるぞ、それ」
「ふぇ?」
大胆に露出した部分を指摘して、俺は、そっぽを向いた。それで、もう、この話は誤魔化せただろう。
まあ、この後、佐薙がどんな反応をするのかは、考えていなかった。結果として、俺は頬に紅葉のような手形を残してしまう羽目になったのだが……。




