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恐れていた事態


 マヤ様のいとこ殿の家臣とやらは、見るからに冴えない中年のおっさんだった。


 まあ、俺も人の容姿についちゃあんまり言えた義理じゃないが、贅肉の多いかなり頬のたるんだ人である……どういうわけか、魔族の中でアレな人は、このタイプの人が多いなぁ、しかし。

 自分が動かないからかね。


 ともあれ、マヤ様が合流したことで、俺達は問題なくこの軍勢を自分達の指揮下に置くことができた。有名な魔王の娘――ダークプリンセスは下っ端の奴隷にさえその名が轟いていて、指揮官クラスが二人揃って捕まったことで、もはや反抗しようなんてヤツはいなかったのである。


 とにかく、これでやっと事情が聞けるはずだ。

 俺は、ひとまず軍勢をその場に止め、まずは問題の家臣から話を聞くことにした。

 一応、近くに小さな村があったので、そこの馬小屋を利用して審問の場所とした。さすがにここなら、立ち聞きするヤツもいないだろう。





「というわけで、楽しい楽しい尋問の時間ですよ~」


 馬糞と飼い葉の臭いが立ち籠める中で、俺は小さな木椅子に座り、縛られて座り込んだおっさんを見やる。そばには嘘つかれてもわかるように、ミュウが待機してくれている。


「待ていっ。わしを誰だと思うか、貴様!」


 おっさんが早速、吠えた。

「このリューゲルを馬小屋に縛って転がすとは、よい度胸だっ」

「あれ、せっかく貴方の安全に気を遣って二人――まあ、ミュウを入れて三人ですけど、とにかく少人数で話そうってのに、ご不満ですか?」

 俺はわざと意地悪く笑った。

「俺に不満があるなら、マヤ様を呼んで交代しますかねー。今、ちょっと血に飢えて危ないですけどね。ついこの前も、偽の使者を真っ二つにしたし」


「胴体が二つに分かれると、人間はなぜか悲惨に見えますね」


 実にいいタイミングで、ミュウが綺麗な眉をひそめる。

 なんという迫真の演技! 

 いや、本気のセリフかもしれんけど、とにかく効果があった。

「な、何が訊きたい」

 たちどころに折れるおっさんである。信念が足らんぞ。

 いや、名前はリューゲルか? どうも軍属でもなくて、単に魔界の要人の家臣らしいが。


「訊きたいことはわかるでしょ?」

 俺はわざとらしくため息をつく。

「なんでまた、俺達が占領した砦に、偽使者なんか送り込んだんです? というか、ずばっと、今魔界がどうなってるか教えて頂けるとありがたい。こっちもこっそり間諜を何名か送り込んだところですが、どうせなら早めに知りたいですからね」

 ちなみに間諜の件は本当である。

 このリューゲル某の証言だけでは心許ない。実際に自分の味方を送り込んで、事の次第を調べないとな。

 まあしかし、こいつが白状すれば一番早いのは事実である。


「ふふん」

 ……おっさんは、この期に及んで反抗的だった。

「哀れなものだ。もう時代が変わったことに気付かぬか? 魔王がデカい顔で偉そうに命令する時代は、もう終わりを告げたというにな」


「貴方、具体的に説明するって能力がないんですかね?」


 俺の声は我ながら冷ややかになった。

 こう見えて俺は、下っ端のくせに魔王陛下が大好きなのである。

 ……当然、やおい的な意味ではなく。

「俺ならくみしやすいと思わない方がいいですよ。確かに俺は人殺しは好きじゃないけど、ここに来てからもういくさで何人も殺してる。貴方が死者の列に加わったところで、俺の心は全く痛みませんし」

 刀の柄に手をかけると、おっさんは慌てて首を振った。

 まあ、手が縛られているから、それしかできないのだな。


「ま、待て待てっ。する、今説明する。しかし、これはまず前提となる事実を知らない者が大半で、どう説明していいか迷う話なのだ」




「まさかとは思いますが、リベレーターのことですか」


 俺がぼそっと言った時の、おっさんの顔と言ったら!

「なっ」

 白っぽくなった顔で、馬鹿みたいに俺を見つめ返した。

 それどころか、ミュウも小首を傾げて俺を見ていた。そりゃまあ、初めて口にするしな。


「な、なぜおまえごとき下っ端が、リベレーターを知っている!? もう千年も前のことで、知る者も少ない話だぞっ」


 下っ端で悪かったな、という文句は言わずにおき、俺は肩をすくめた。

「いや、実際俺も、話を聞いたのは最近ですけどね。リベレーター、つまり解放者って意味らしいですけど、かつて、この世界にはそういう敵が襲来したことがある。人間でもなく、魔族でもない、全く未知の部族です。『おまえ達を解放してやろう』が謳い文句だったそうですが、彼らの言う解放とは、『生きる苦しみから解放』って意味だった。権力者も民衆も、彼らにとっては等しく殺すべき相手に過ぎず、皆平等に殺されていった……当時の魔王陛下と仲間が、彼らを追い返すまでは」

 俺は細心の注意を払っておっさん――リューゲルを観察した。

 もしも、恐れていたようなことになっているなら、本気でヤバい。


「俺は魔王陛下から直々に、当時の話を聞いた。まあ、他にも他国の戦士からもそれっぽいことは聞きましたけどね。……そこで貴方に本命の質問です。まさかとは思うが、貴方達はリベレーターを呼び戻す手段を見つけたんですか? 遠い昔、一度は世界を滅ぼしかけた、異世界の種族を」


「も、もう遅いわ」

 リューゲルは観念したようにヤケクソの笑みを広げた。



「そうよ、おまえの言う通りだ、小僧。リベレーターと我々とは、既に話がついている!」


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