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出世を目指す――その5



その5



 とにかく、ヨルンの協力を取り付けた俺達は、扉から出荷場の中へ入った。

 ここは元の世界で言えば、巨大な牛舎みたいなものである。見た感じは本当にそっくりで、ただ、牛の代わりに奴隷が繋がれているというのと――各奴隷達は木製の壁で仕切られていて、隣と会話したりはできないという、それだけだ。


 あと、入ってるのは(たまに人外もいるが)ほとんどは人間型の奴隷ばかりである。

 そんな仕切りが、見渡す限りずらっとあるので、ある意味では壮観だった。

 牛舎というたとえがアレなら、巨大工場のラインがずらっと並んでいる感じ? まあ、どちらにしても人道的じゃないけど。 

 そんな空間に俺達が入ると、そばの仕切りにいた奴隷達が一斉にこちらを見て、ちょっとびびった。みんな、目ばかりギラギラしてやがるからな。


 それに、汗と排泄物の臭いも。ううっ。

 当然、監督するヨルンみたいな奴隷長も他にたくさんいて、それぞれブロックごとに担当がある。

 自分が面倒見てる(管理してる)ブロックまで行くと、ヨルンは早速言った。




「丁度、俺の担当ブロックに臨時の新規入荷があったんだが、人数はどれくらいいる?」

 ヨルンの質問に、俺は即答した。

「マヤ様から、百名までは徴集ちょうしゅうしていいって許可もらってるんだ。だから、まずはいくさに堪えられる人材を八十ばかり、あと十名は魔法使いがいい。でもって最後の十名は、現役の二等戦士からスカウトする。まあ、奴隷上がりの俺のスカウトに応じてくれたらだけど」

 一気に希望を告げたが、ヨルンが口をあんぐり開けてるのを見て、俺は眉をひそめた。

「どうした?」


「いや、百名っておまえ……そんな人数がいる任務なのか?」


「いるのさ、それが。だからヤバい任務だって最初から言ってるだろ」 

 身も蓋もなく言い切ると、さすがにヨルンは心配そうな顔をした。

 こいつも俺に同行するのだから、当然の反応だろう。 

「なんだったら、さっきの話はナシにしてもいいぞ」

 親切な俺はそう告げたが、ヨルンはこれにはきっぱり首を振った。悪戯小僧のような若々しい顔に、悲壮な決意が浮かぶ。

「いや! どんなにヤバい任務でも、このまま死ぬまで奴隷でいるよりマシだ。こんなチャンスは二度とないだろうし、俺はおまえについていくぜ、ナオヤ」

「そうか……」


 俺が肩をすくめると、ヨルンは気を取り直したように笑い、仕切りの方を振り返った。

「よし、戦闘に向いてそうなヤツは、俺がちゃちゃっと八十名選んでやる。おめーはその間、魔法使いの方を人選してろや。そっちのラインだ」

「お、おぉ」

 つか、マジでラインって呼んでたのか、この仕切りの列のこと。

 まあ魔法で自動翻訳されてるから、俺にわかりやすく聞こえるんだろうけど……それにしても、本気で人権無視だよな。

 魔界で人権なんか持ち出しても、しょうがないとはいえ。




 遠慮してる余裕も暇もないので、俺はすぐにヨルンが指差した列へ向かった。

 そこも他と同じく、細い一本道の通路の左右に、一畳程度の牢屋みたいなスペースがずららっと並んでいる。

 もちろん、このラインは魔法を使える奴隷ばかりなので、狭い牢屋スペースの床には、魔力封じの魔法陣がそれぞれ描き込んである。そこに繋がれてる限りは、魔法が使えないわけだ。

 ちなみに、なぜか魔界では「魔法使い」と言うと圧倒的に女性が多いが、ここでもほぼ女性ばかりだった。

 聞くところによると、「魔法など婦女子の使うもの」という常識が、この世界にはあるらしい。アホらしいとは思うが、文句をつけても始まらない。

 俺としては有能な魔法使いを選ぶのみだ。


 ……とはいえ、見ただけでは正味、全然わからんな。

 それぞれの仕切りには、魔界出身から人間界出身から、果てはどこの種族とも知れない人種まで、多種多彩な女の子(ただし老女もいる)がぺたんと座り込み、覗き込んでいく俺をじいいいいっと眺めている。

 牢屋みたいな仕切りは一畳ほどだと言ったが、そんなスペースだと、か細い女の子といえども、座ればもう身動きとれないような狭さだった。

 しかも、彼女達は皆、首に鉄枷てつかせがつけられ、背後に立てられた鉄棒に繋がれているのだ。

 本物の牢屋みたいに鉄格子こそないが、これではどのみち、眼前の通路まですら逃げられない。……つか、トイレはもしかして、脇に置かれた蓋付きの箱みたいなヤツか?


 女の子への扱いじゃないな、くそっ。


 一人で義憤に駆られていたら、ひそひそと呟く声が聞こえた。

 曰く、「新入りの人?」とか「男なんて珍しい」とか「あたしの隣は嫌よ。おトイレできなくなるもん」とか……そんな独り言だった。

 でもって、トドメに「なんでつながれてないの、あの人?」とか。

 自分が仲間の奴隷だと見られてることに気付き、むちゃくちゃショックである。いや、実際についさっきまで似たような立場だったけど、それでも。

 まあ、この地味な貫頭衣じゃ、無理もないけど。しかし俺は、昔っから女に縁がないな。ちくしょう、グレてやるっ。


 無駄に歯を食いしばって歩いていた俺は、しかし思わず立ち止まった。

 左手の仕切りに、一際、異様な女性がいたからだ。

 というのも、他の女性奴隷がだいたいにおいて、いかにも魔法使いっぽいローブやら黒いチュニックやらを着込んでいるのに、この女性はなんと、未来的な全身一体型のスーツである……それも、漆黒に白いラインの入った。


 某プラグスーツのデザインを変えて、白い飾りライン入れたみたいなの、と言えばわかりやすいかもしれない。

 実際、俺にはそう見えた。

 長い髪は白銀で、しかも瞳は真っ青である。洋風ではあるが、実際にはなかなかいそうにない。歳は十六、七歳くらいに見えるが、顔の造形があまりにも整っているために、余計に普通人には見えないのだ。

 オリエント工業の人型のアレでも、なかなかこんな美人には作れないだろうと思う。


「も、もしかして……サイボーグとかロボットとか、そういう人か?」


 俺が思わず独白すると、驚いたことに反応があった。

 それまで胡散臭そうに俺を眺めていた女性が、ぱっと顔を上げたのだ。


「貴方は、ロボットやサイボーグという語句が理解できるの? では、この世界の人ではないのですね!?」


「は、はい?」

 俺は阿呆のように訊き返す。

 というのも、女の子座りしたままの彼女がびしっと背筋を伸ばした結果、全身スーツの胸の辺りがピンと張り、微かに突起が確認できてしまったのだ。

 お陰で、思いっきり焦ってしまった。


 ち、ちゃんと下着つけてるんだろうな、この子!? 


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