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逆転の後の逆転

 


 勢いよく相手のふところへ飛び込むと、向こうはちょっと驚いた顔をした後、にんまりとほくそ笑んだ。


「ぐははっ。逃げずにかかってくるだけ、褒めてやろう、小僧!」


 偉そうにかすと、長剣を叩き付けてきた。

 これがまた受けてみてびびったが、その場で膝をつきそうになる剛力で、実際、俺の体勢は崩れてよろめいた。


 ただし、カスムのスピードは剛力ほどには傑出けっしゅつしてないので、俺はそのまま素早く回り込んで死角から攻撃しようと――



「甘いわっ」


 別に目で追っているわけでもないのに、こいつがいきなりぐわっと向きを変え、また俺と斬り結んだ。

 臭い息を吐きながら、ぐいぐい押し込んで来やがる。

「小僧にしては筋力もあるようだ……しかし、まだまだわしには及ばなかったな!」


「馬鹿力の自慢されてもねえっ」

 憎たらしく言い返し、俺はあえてふっと力を抜く。

 何も考えずにクソ力で押し込んでいたカシムは、当然、その場でよろめいた。俺はこの隙にさっと横に避け、すかさず刀を振り上げると――て、うわっ。

 倒れそうな体勢のくせに、カシムは風切り音と共に剣を振り抜く。

 でもって俺が飛び退いた隙にすかさず利き足で踏ん張り、倒れるのを防いでしまう。

 その場で、またニヤッと笑った。


「わしが戦場慣れしているのを忘れているようだぞ、小僧。貴様はなかなかの腕前だし、ちょこまかとよく動く。だがしかし、その程度の剣技を見せるヤツは、これまでにもゴロゴロいたわ!」

「ちぇっ、これがレベル二つ上の差かよ」

 思わず舌打ちして、フェイントの失敗を嘆いていると、ネージュの緊張した声がした。


「ナオヤ君、急いでっ」


 慌ててそっちを見ると、固まっている彼らは、既に敵の包囲が完了しつつあった。ギリアムやヨルン達が、ネージュの魔法援護を受けつつ奮闘しているが、人数差を覆すところまではいかない。

 これはいかん。時間をかけて勝負してる場合じゃない。


 おまけに頼りのミュウは俺のそばで、こっちをガン見してると来た!


「ミュウ、ギリアム達の応援を頼むっ」

「でも、ナオヤさんが心配で」

「大丈夫、俺は大丈夫だ。このおっさんに負けるもんか」

「わ、わかりましたっ」

 ようやくミュウが身をひるがえしてくれたのと、怒ったカシムが突っ込んでくるのが同時だった。

「小僧、その程度の腕で、わしをあしらえると思うかあっ」




「いやぁ、仕方ないなぁ、もうっ」


 俺は完璧なヤケクソで叫び、何も考えずに相手に向かって突っ込んだ。普段慎重な俺は、まずそんな真似はしないが、しかし今は勝負を急ぐ必要がある。そもそもこいつだって、いつめんどくさくなって一騎打ちをやめ、配下に勝負を任せて下がるかもしれない。


「ならば、この場で死を覚悟してやるさっ」


 殺気だったカシムの目が、残酷な喜びに光るのが、はっきり見えた。

 もちろん、無茶な踏み込みを見せた俺に対し、すかさず剣撃をお見舞いする気だからだ。事実、俺が下方から振り上げる刀より、既に上段に構えた剣を振り下ろすカシムの方が、ごくごくわずかに早かった。


 避けられるタイミングではないし、このままでは最低でも大怪我は必至である。 

 その時ようやく……本当にようやく、俺が待ちに待っていたあの感覚が来た、来てくれたっ。



 カシムのイノシシじみた突進がふいにがくっと静止したように見え、そして周囲の兵士達の濁声だみごえですら、きっぱりと消えてしまう。

 完璧なる静寂の中、俺のみが正常な動きをしている。



 ちょいと無茶だったが、自分を追い詰める作戦は成功したっ。

「すいませんねぇ! でもこれも、俺の力の一部だしぃいいい」

 おざなりに喚くと、俺はのろくさく動く巨体めがけて、遠慮なく横殴りの斬撃を叩き付ける。ただし、いわゆる峰打みねうちの要領で。


 どうもこのおっさんはタフそうなので、この際は遠慮なく全力でやらせてもらった。

 その瞬間――わけのわからん加速の恩恵は消え、世界が正常な動きを取り戻す。




「ぐあっ」


 途端に、カシムが一瞬、巨体を浮かせた後、地面に叩き付けられたのがわかった。

「ぬぬ……どういう……ぐうっ」

 顔をゆがめながらも起き上がろうとしたが、あいにくレザーアーマーの下であばらが折れたらしく、また呻いてべしゃっと潰れた。


「無理しない方がいいですよ」

 俺はカシムの剣を素早く取り上げ、代わりに刀を突きつける。


「全員、見ろっ」


 敵兵達が動きを止めるのを見て、すかさず継ぐ蹴る。

「勝負はついた! 指揮官はもはや、戦闘不能だ――」

 ……ぞおおおおと喚きかけた途端、カシムが叫びやがった。


「皆の者、気にせずこいつらを倒せっ。わしは元より、死など恐れておらん! わしの命と引き替えに、こヤツらの首をもぎ取って恩賞とするのだ!」


 戦闘を中断していた兵士達が顔を見合わせたのを見て、すぐに続けた。

「嘘ではないぞっ。マヤの直臣とその家臣の者を倒したとあれば、もはや最終的な勝利は疑いないっ。首を獲った者は、死ぬまで贅沢が」


「うるさいんだよっ」

 そこでやっと俺は、カシムの頭を蹴飛ばして気絶させた。

「ったく、負けた後で余計なことをべらべらと……て……あれ……」

 しーんと静まり返った周囲に目をやった瞬間、俺の頬に冷や汗が浮いた。

 なんか皆さん……すっごく殺気だった目で俺達をご覧になってますが……ま、まさか。

 喉が鳴った途端、敵の誰かが喚いた。


「恩賞首は俺のだあああっ」


 それが合図だったかのように、一斉に斬りかかってきた。

 ちょ、ちょっとちょっと!?


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