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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その3



「しかし、魔王陛下ほどのお人なら、いざとなれば敵対する馬鹿を皆殺しにできるんじゃない?」


「もちろんそのはずですし、だからこそ、彼らも不満があっても、最終的には陛下に従っていたのです。しかし最近、奇妙な噂を聞きました」

「というと?」

 自然と喉が鳴り、俺は身を乗り出した。

 別にギリアムはもったいつける気はないらしく、深刻そうに顔をしかめている。

「陛下の治世ちせいをよく思わない貴族の強硬派が、密かに同志に呼びかけて勢力を集めている、とか」

「おいおい、陛下が支配する、この魔界でかぁ?」

「そう、よりにもよってこの魔界で、です」

 彼自身にも信じ難いことなのか、細面ほそおもての顔に嫌悪を滲ませている。

「今は噂のみで、陛下も調査されている段階だそうですが、嫌な話です。ダークプリンセスの警護に神経を尖らせているのも、この噂と無関係ではありますまい」


「なるほど」

 俺は喉の奥で唸る。

 なかなか笑えない話だが、まぁまだ噂の段階だし、仮に一片の真実が含まれるとしても、どうせ最後は陛下によって潰されるさ。

 ……ヤバいとすれば、むしろ帝都の外に出るマヤ様本人か、あるいはマヤ様を預かった俺じゃないのか。どちらが狙われても、まっったく驚かんぞ。


 あるいは、主従揃そろって消されたりとかな! 

 まあ、難易度で見れば、


『主従暗殺>マヤ様暗殺>>>>>>>>>>>>>俺をぶっ殺す!』


 ……になるんだろうけどな。

「うわぁ、縁起でもないなっ」

 自分で想像して、自分で暗くなっちまった。

 全く、タダでさえ豆腐メンタルが抜け切れてないってのに。

 独白の意味がわからず、首を傾げるギリアムに、俺は首を振ってやった。臣下を不安がらせても仕方ない……どうせ心配したって事件が起きる時は起きるし。

「なんでもないよ。あ、そうだ! ちょうどよかった……ギリアムに渡そうと思って、ずっと忘れてたんだよ」

「な、何をでございますか」


「いや、大したモンじゃないけど、あのリグルスが使ってた魔剣をな。戦利品だけど、俺一人の力じゃないし、まあ一番世話になってるギリアムに贈るよ」


 ……本当は、以前から世話になってたダヤンに渡したかったけどな、というセリフは、もちろん口には出さない。 

「ええっ!?」

 ギリアムは彼らしくもなく、仰け反るような驚きっぷりを見せてくれた。

「……そんな驚くことかな? 俺はもうマヤ様から拝領した魔法付与の刀があるし、リグルスの剣はちょっと体格にあわない。恩賞だと思ってほしいんだけど」

「あ、ありがとうございますっ、ありがとうございます!」

 そこまで感激するかぁ? と思うほどの大感激ぶりで、ギリアムは顔を真っ赤にして涙まで浮かべていた。すっげー気まずい。

「とにかく、今持ってくるからさ」


 後で魔剣の相場とやらを聞いて、俺は飛び上がる羽目になるんだが……この時はいそいそと立ち上がった。

 知らないってのは恐ろしいよ、うん。






 さらに数日、奴隷や指揮のための二等戦士達をスカウトしまくり、俺はようやく準備を終えた。

 人数としては、以前の二倍を数える、総計二百名の軍勢である。

 当然、ヨルン達も前回通り、ついてきてくれる……ダヤンはもう、いないけどさ。

 ……それはともかく、人数が増えたとはいえ、まだこれじゃ全然足りないのも事実だ。

 俺も、あくまでも奇襲を想定した攻略であり、まともな手段で砦を攻略できるとは思ってない。その策も、到着するまでに何とか固めないとな。



 とにもかくにも、陽が昇ったばかりの今、帝都マヤの巨大な黒い門前に、俺の軍勢が集結した。

 人数が増えた以外で、前回と大きく違うのは、俺のレベルがいつの間にか20に上がっていたことと(リグルス効果かね?)――。

 そして、軍勢の後ろに大勢の侍女達が完全武装で集結していて、巨大な御輿みこしみたいなのを担いでいることだ。

 驚いたことに、マヤ様はあの中で寝泊まりするらしい。

 おまけに彼女達の一部は、真紅の生地に輝く二振りの剣とドラゴンの紋章……つまり、グリュンワルド家のでっかい旗まで掲げている。魔王直系の血筋がここにいますよと、大声で宣伝しているようなものだ。


「……せめて旗だけは、ここ出たら下ろしてもらわないと」


 馬上の俺は、並んだギリアムにため息と共に囁いた。

「そうですね」

 ギリアムも同情の目つきで頷く。

「魔王陛下のグリュンワルド家は、全世界の覇者たることを公に宣言しておられます。ですから、アレで普通と言えば普通なのですが」

「いやぁ」

 俺はさすがに顔をしかめた。

「俺、陛下は大好きだけど、過去はそうであっても、今は厳密には違うんだからさ。やっぱここは一つ、目立たないようにそおっと」


『――ふむ、耳の痛い諫言かんげんだな』


「ぐわあっ」

「ひっ」

 俺とギリアムは、二人揃って馬上で飛び上がりそうになった。

 もちろん、聞き覚えのありすぎる渋い声がしたからだ。


 慌てて馬上から飛び降りると、やはり魔王陛下その人が近付くところだった。颯爽たるスーツに黒マント姿であり、襟元に純白のクラバットもきちんと着けておられる。

 俺達の中で、お一人だけ劇画調だ。


 ていうかさっ! 俺、滅多に陛下への愚痴なんか言わないのに、何もこんな希少な時に来なくてもっ。


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