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望まぬ出会い――その7




 ――その7




「ナオヤ、レイバーグとは何があっても戦わない方がいいよ」


 既に散々びびってる俺に、ジェイルが心配そうに言った。

「勇者と呼ばれるのは伊達じゃない……事実、今の彼は龍殺しでもあるんだ」

「邪龍を倒した昨年以来、ドラゴンキラーと呼ぶ方もいます」

 兄妹揃って、口々に言いやがった。


「――で、出たよっ」


 俺は思わず、口走ったね。

 出ました、ファンタジーの定番、龍殺し! 

 ネタが古いっちゅーか、そんなのは昔の漫画だけにしてくれよ。いや、別にこの世界にいてもいいんだけど、俺を狙うヤツがそうだってのは、全く笑えんっ。

 お陰で鳥肌立ったぞ、くそっ。


「本当かい!? そんな話、こっちじゃ初めて聞いたけど」

「本当だとも」

 ジェイルは嫌すぎるほど自信たっぷりに保証する。

「レイバーグは名声なんかには無欲な人で、あまりそういうことを広めようとしないんだよ。だから、知る人ぞ知る事実だね」

「……龍殺しというと、強い以外に何か特別な力でも備わっているわけですか?」

 黙って聞いていたミュウが、興味深そうに尋ねた。

「ええ、ええっ」

 お星様みたいな目をしたセシールが、嬉しそうに何度も頷いている。

 うお……この子、レイバーグのファンか。

 くそー、いきなり敵対ポイントアップだな。

「ルクレシオン帝国では、龍は神の使いとされています。しかし、人に害をなす邪龍は別です。我らの大神は、公平を期して、よほどでなければ自ら邪龍を倒すことはしませんが……その代わり、人が邪龍を倒した時には、ご褒美を下さいます。どんな願いでも、一つだけ叶えてくださるのです」

「で、レイバーグは叶えてもらった? おそらく、自分の力を強化する方に」

「よくおわかりですわ」

 目を丸くしたセシールに、俺はただ苦笑を向けた。

 そりゃまあ、勇者なんて呼ばれるヤツは、たいがいそういうことに願いを使うだろうなと。


「でも、彼の願いはなんていうか……ストイックだよ」


 うん? なんか今、翻訳が妙なことになったな。

「ストイック? 控えめな願いなのか」

「う~ん、どうだろう。おそらく、リングマジックとそう変わらない効果だと思うんだけどね。どうやら、人間の限界を取っ払ってもらったらしい」

「えっ」

 不審顔になっていたのか、ジェイルは補足してくれた。

「つまりさ、自分の努力でレベルアップしても、普通、いつかは肉体の限界が来るじゃないか。レイバーグはその拘束を取り除いてもらったんだよ。だから、レベルが上がるにつれて、有り得ないような実力がついてくるわけさ」

「へぇえええ」


 ていうか、魔界のリングマジックも、魔王陛下のおぼしでその辺の拘束はかなり緩いとヨルンに聞いたが。

 う~ん、今度、詳しく訊いておくか、リングマジックは帝国にもある(兄妹も白いのをつけてる)けど、こっちとは違うかもしれないしな。



「お話を戻しますが、本当にお気をつけくだしまし」

 お姫様そのものの格好をしたセシールが、碧眼をうるうるさせてのたまう。

「もしも帝国に戻れたら、わたくしたち兄妹がレイバーグさまをお止めしようと思いますが、あのお方はどこまでもまっすぐです。おそらく――」

「うん、同感だ。おそらく彼は、仲間を殺したナオヤを許さないだろうね」


 最後は、二人して諦めの声だった。

 君ら、若いのに諦めるの早いよっ。「人の命は地球より重い」って言葉があるの、知ってっか!?

 ……などという不満は押し殺し、俺は表面上はあくまで笑って答えた。

 俺にも見栄くらいある。


「は……はは……まあ、もし遭遇するとしてもまだ先のことだろうし、その頃には俺ももっと強くなってるるんばっ――ちちっ」

 ちくしょう、舌を噛んじまった。

 おまけに笑顔も引きつったし、散々だな!






 心底震え上がっているくせに、数日もするとそれも薄れるのが俺の長所である。

 まあ、クラスのボッチで自殺志願者だったせいもあるだろう。死ぬ気になりゃ、何ごとも大したこたぁないさ……多分。


 気分以前に、そもそも例の砦攻略アゲインの話が進んできて、また部隊の編成やらが忙しくなってきた、というのもある。

 マヤ様にも経過を報告しないといけないし、階級が上がった俺は、それなりに忙しかったのだ。


 私室がある王宮を一晩空けて、ボンゴ達がいる地下の奴隷街にも顔を出したりしてたほどである。なにせ、戦の中心はまだ奴隷がメインなので、今回は奴隷の監督官も腕の立つヤツをスカウトしたかったし。

 ダヤンみたいなのが、そうゴロゴロいるとは思えないけどさ……。


 だが――この一晩の留守が、だいぶまずかったのかもしれない。特に、ヨルンとギリアムに後を任せ、ミュウを連れ出したのがすっごいまずかった。

 というのも、深夜過ぎにギリアムから使いが来て、こう告げたからだ。


「戦士将グレイルが、あの兄妹を連れて行こうとしてます!」


 もちろん、聞いた瞬間に俺は青ざめた。 




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