ダークプリンセス、魔王に喧嘩を売る――その7
――その7
「お、お待ちください、陛下っ」
陛下の本気を感じ取り、クロードが慌てて叫ぶ。
「先程の罪状は撤回し、陛下の望み通りの罪状を申し渡しますっ」
他の三人も口々に同じことを喚いていた。
すると――陛下の薄赤い瞳が、マヤ様そっくりに急激に真紅に染まった。
「貴様達は予を本気で怒らせる気らしい……助命する気も失せたぞ、愚か者共っ」
いきなりさっと右手を伸ばした。
「予の眼前より消え失せよ!」
言下に、軍議の間を真昼のように照らし出す閃光が走り、直後に大音響がした。足下が揺れ、俺は思わずよろめきかけたが、マヤ様が支えてくれたお陰でみっともなくコケずに済んだ。
何とか姿勢を保ち、壇上の方を見たが――。
「う、うわぁ」
樽おっさん他四名がいた辺りが、でっかい長机ごと木っ端微塵に破壊され、巨大なクレーターみたいになっていた。ここの床、頑丈そうな石造りなのに!
つか、日本でこんなことすると人命軽視とか言われて、うるさ型の人権団体にボコボコに叩かれそうだが、いいのかこれ……いや、魔界は魔王陛下の独裁だから問題ないのか。
まあ、冷静に他者の裁きに任せる魔王ってのも、今ひとつ想像つかないけど。
しかしこの親子、たまに魔法の原則を無視してくれるよな。
以前、マヤ様も手を伸ばしただけで鬼みたいなごつい獣人を壁に叩き付けたものだが、父親の方は詠唱もナシにいきなり雷撃かー。スターウォーズの悪の皇帝もびっくりだ。
などと、いきなりの不意打ちにびびっていた俺だが、マヤ様は違った。すっかりさっきまでの険が取れ、俺から離れて笑顔で陛下の元へ駆け寄っていく。
あ……なんか感触が消えると寂しいな。
「お人が悪いですぞ、父上」
外国映画で見る女優みたいに、長身の陛下の胸に抱かれた。
「許せ、マヤ。あの愚か者共はもちろん、おまえとナオヤの反応も見たくてな」
親しく話しているところに、狼狽したような足音が幾つも接近し、ドアを開けて雪崩れ込んできた。もちろん、武装した衛兵達である。
「陛下、何事でしょう!」
「おおっ、こ……これはっ」
「大事ない」
魔界を支配する覇王は、落ち着き払った声で言うと、しれっと告げた。
「予が直々に佞臣共を片付けたのだ……後始末は任せた」
鷹揚に頷く。
基本的に豆腐メンタルの俺は、「そ、そんなんでいいんですかっ。人権団体とかねじ込んで来ませんか!?」と戦慄したのだが、驚いてたのは実に俺だけだったらしい。
衛兵達の方はすぐに仲間を集めて、本当に後始末を始めそうになっていた。
魔王陛下の権力ってすげーな! この人が全部断罪した方が早いんじゃないのかー。
「ナオヤ」
「うわあっ、すみません!」
声かけがタイミング良すぎて、飛び上がりそうになった。
「……何を謝っているのか?」
不思議そうな陛下に対し、マヤが未だに胸に抱かれたまま、くすっと笑った。
「よくあることです、ナオヤには。あの者は勇敢なのか小心なのか、さっぱりわかりません」
「決断すべき時に、戦士としての決断ができるなら、それでよいさ」
陛下は破顔して述べた。
「少し話そう、ナオヤ……おまえには礼も言わねばならぬ」
◆
つい十分前まで、死刑判決受けて世を儚んでいたのに、今や俺は魔王陛下の客人待遇である。
……機械式エレベーターで王宮の最上階まで上がった俺は、豪勢極まりない部屋に案内されていた。
床はくるぶしまで埋まりそうな厚い手縫いの絨毯だわ、天井までは十メートルくらいありそうに見えるわ、執務机は光沢有りまくりの重厚なヤツだわ……おまけに広さなんか部屋というより広間である。
なぜか純白のグランドピアノまであって、びっくりだ。
陛下が弾くのだろうか、これ。
俺は入る前に思わず靴を脱ぎそうになって、マヤ様からまた笑われたほどだ。
特に驚いたのは頭上のシャンデリアで、どう見ても純金にしか見えないのだな、これが。
そして電球や蝋燭の代わりに、それぞれ魔法の明かりが点って部屋を照らしていた。
陛下はマヤ様と俺を同じく純白の円形テーブルに座らせ、手を叩いて人を呼んだ。
「客人をもてなす用意をせよ」
すると……たちまち、どこからともなくメイドさんルックの女の子達が四~五名もわらわらと集まり、テーブルの上にお茶の用意を調えていく。
……つか、本物のメイドさんは実はスカートが長いと聞いたが、ここのメイドさん、全員フレアミニだな……エプロンがなきゃ、あんまりメイドさんに見えん。
もちろん、何の文句もないが! むしろ、俺と陛下は意外な部分で気が合いそうだ。




