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出世を目指す――その1



その1




 ――この魔界というか、魔族の住む世界に飛ばされてから、ほぼ一年が経った。


 ちなみに、初対面のアレから、マヤ様とは一度も会ってない。

 所詮、遠い世界の人だ。親衛隊構想なんて、俺には縁が無かったんだな。

 それも含め、話が違うよっと思ったことはたくさんあるが、そのうちの一つは、この世界(今俺がいるのは、クレアル大陸という場所らしい)では、十年前から魔族と人間が何度目かの大規模な戦いを繰り広げていて、しかも魔族側はめちゃくちゃ押し込まれているらしいのだな。


 かつては大陸のほぼ全てを支配していたのに、今は実効支配しているのは、全大陸の半分以下に過ぎないとか……つまり、もはや魔族の方が不利なわけだ。

 そして召喚された俺のような奴らは、全員が雑兵として戦闘に参加させられ、奇しくも初対面の時に鬼共が言ったように、正規軍の「肉の盾」みたいな扱いをされている。

 要は、前線に追いやられてまず敵にぶつける、捨て駒である。


 いや、所属する部隊によっては普通に正規軍として扱われるらしいが、俺の部隊の将軍はかなりひでー奴で、召喚した異世界人なんかゴミ扱いなのである。


 この一年、よくぞ死ななかったと、自分を褒めてやりたいね!


 ……まあ、そのお陰で、俺の代わりに敵兵が大勢死んでるわけだが。最初は「戦争とはいえ、これって殺人行為だよなっ」とかぶるってたが、今やすっかり慣れちまった。

 殺し合いに慣れるなんて、褒められたもんじゃないよな……でも、そうしないと俺、死んじまうからなぁ。

 俺が殺した奴ら、迷わず成仏してくれ……ナマンダブ。


 ちなみに、この魔族軍の階級ときたら、恐ろしく細分化されていて、奴隷の中にも階級があるし、一人前の兵士になっても、さらに上もうんざりするほどある。

 俺の立場は奴隷だが――。


 奴隷長←奴隷頭←奴隷←盾……とあるうちの、今は奴隷長である。要は、盾から一年でそこまで上ったわけだ……全然嬉しくないが。


 そもそも、最後の「盾」ってなんだ、「盾」って。

 いや、意味はそのまんま、最初に敵にぶつける兵士ってことだが、あんまりじゃないのか。

 ……というわけで、俺は立場が上がっても、自分より下の奴隷達の扱いには大いに気をつけている。人間、相手のことを考えなくなったら終わりだよ……クラスでボッチだった俺が言うことじゃないけど。


 まあ、相変わらず奴隷には違いないし、立場が少し上がっても、偉そうにできるわけないってのもあるけどさ。

 今寝てる部屋だって、二段ベッドが三つも並んだ、タコ部屋みたいなトコだぜぇ?

 それもきっちり六人押し込められてて、たまらんよな、ホント。

 ……おまけに、俺以外の奴は全員が人外で、RPGでいえばモンスターみたいな奴ばかりなんである。さすがは魔界!


 もう慣れちまったけど、昔の俺ならモンスターと一緒に雑魚寝してるこの光景見ただけで、間違いなくパンツを濡らしてたね。

 それを思えば、俺もたくましくなった……実はかなり順応性あるよな、俺。

 などと、狭いベッドで考えていたら、いきなり横にでっかい顔が現れた。




「あ、あにぎぃ」

「おわあっ」

 俺は思わず、ベッドの上で飛び上がった。

 これが下の段じゃなくてよかった。さもなきゃ、天井に頭ぶつけてた。

「いきなりはやめろって! 心臓に悪いだろっ」

 俺はガミガミと文句を付けてやる。

 こいつはボンゴっていう巨体のモンスター(本人は獣人族と称している)だが、見かけはスターウォーズのチューバッカをさらにデカくして、毛並みを灰色にした感じなのだな。


 パンツだけは穿いてるけど、他は全裸である……まあ、全裸っつっても、毛むくじゃらで問題ないんだろうけど。あと、ご面相もチューバッカどころじゃない強面なので、正直、いきなり出てきたら寿命が縮む。

 ……余談だが、(休日なのでまだ寝てるが)この部屋にいるあとの四人もボンゴと同じ種族なんである。

 可愛い女の子っつーか、せめて人間はよっ。


「え、えへへ……ごめんよ、あにぎぃ。でもほら、今日はいい食い物が手に入ったから、あにぎの朝食にどうかなって。ほら、今日は戦闘もないって話だし」

 いやおまえ、そろそろ「あにぎ」じゃなくて「兄貴」と呼べや……と思ったけど、ブルドッグが満面の笑みを浮かべたようなボンゴの顔を見て、苦情は控えた。

 見かけはともかく、気のいい奴なのだ。少なくとも、俺を慕ってくれるのは間違いない……ここでは有り難いことである。

 加えて今日は、なんとでっかい葉っぱにおにぎりを乗せて差し出して来た。

「おぉー……これ、おにぎりじゃん? こんなのどこで手に入った? この世界に米なんてあったのかよ」

「あ、あるよぅ。なんか、エルフ達が木の実とか果物以外に、米食ってるそうなんだ。そんで、最近はエルフの奴隷も増えてさー」

「へぇええええ……俺、エルフの女の子とオトモダチになりたいかもな」

 心からの要望と共に、おにぎりを受け取る。トレーニングがまだだが……まあ、食べてからでもよかろう。なにせ、久しぶりの米だ。これが我慢できるか。

 即かぶりつこうとしたが、その前に半分割って、ボンゴに渡してやった。

「ほら、おまえも食え。どうせいつも腹減ってんだろ」

「おぉお、ありがと、ありがと!」

 ボンゴがまた、顔をくしゃくしゃにして笑う。

 顔はモンスターでも、笑顔は悪くないな、こいつ……まあ、慣れたせいもあるけどな。

 で、二人して笑顔でおにぎりにかぶりつこうとした時、いきなりタコ部屋のドアが開いた。



「わっ」

 入ってきたのは俺達奴隷を監督する二等戦士だった。

 俺は慌てておにぎりをボンゴに押しつけ、自分はベッドの上から飛び降りて相手を迎えた。

「な、何かご用ですか」

 一応、上手くやってる方だと思うが、奴隷は監督する二等戦士の気分次第で、いつ何時、上官に「あいつは怠慢だ」とか報告されないとも限らない。

 機嫌を損ねるとヤバいのだ。

 相手は、二等戦士にしては奇蹟的によい人の範疇に入るんだが、今日はまた、まじまじと目を見開いて、俺を見ていた。

 例えて言えば、特攻前の兵士を見るような目だ。


「おまえ……なにやらかしたんだ?」


「は?」

 俺が訊き返すと、相手は眉根を寄せて説明してくれた。

「ダークプリンセスが……マヤ様がおまえを呼んでる。えっ、どんな無礼を働いた? あの人が誰かを呼ぶ時って、大抵は厳罰で殺される時なんだぞ」

「い、いやぁ。特に覚えは」

 脅されて大いにびびったが、本気で覚えがない。


 前に会ってからもう一年……その間、戦いに明け暮れる日々だったし、機嫌損ねる暇すらあるかって!


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