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運命の分かれ道――その13




「――え、ええっ!?」


 これもギリギリだった。

 エルザが頭を下げた途端、光の刃が彼女の頭上を通過し、背後のブラックウッドをあっさり両断した。

 少量とはいえ、彼女の黒い髪が舞うのがはっきり見えた。


「う、うそ……なんて威力っ」

 かしいで倒れた巨木を見て、頭を押さえたエルザが青くなっていた。

「エルザ、こいつは俺に任せて、ダヤンの治療を頼む!」

 俺は振り向きもせず、怒鳴った。

 ダヤン達の活躍もあって、既に戦場で動く者は俺達とリグルス、それにギリアムとヨルンの相手をしている奴らだけになっている。他の生き残りは、気絶した女戦士やら重傷を負った騎士やらばかりだった。

 ただ、ギリアム達はそれぞれ優勢に斬り合いを演じていて、不覚を取る可能性は少なそうだ。

 ……問題はこの俺だろう。



 油断なくリグルスを見やり、俺はこいつがさっきみたいに思わぬ攻撃に出ないよう、警戒していた。


「おまえ達のお陰で、今後がだいぶ楽になった……そこは感謝しないとな」


 リグルスはすぐに斬りかからず、目を細めて言った。

 奔放ほんぽうに伸びた黒髪を吹き荒ぶ風になびかせ、だらりと魔剣を下げて構えを解いていた。そのくせ、全く隙を見つけられない。

「どういう意味だ!?」

 やむなく俺は、会話に応じる振りをした。

 事実、興味もあったしな。

 こいつは明らかに俺達の奇襲を察知していた。なのに味方にそれを教えなかったのは、それなりに理由がありそうだ。


「どうもこうも……俺達も立場はおまえと似たものでな。一緒にいるからって、何も周りが味方とは限らんぜ。奴らは――」

 とリグルスは冷たい目で倒れ伏した元味方達を眺める。

「俺達をいいようにこき使うことしか考えてやがらねぇ」

 俺にしか聞こえないような声で言う。

「俺達? もしかして、他の仲間――勇者とたたえられるレイバーグや元仲間のことか? ていうか、おまえは俺のことを知ってるのか!?」


「顔は初めて見たが、名前を呼ばれるのを聞いてわかった。ナオヤなんて名前、滅多に聞かねぇからな。魔王が見境なしに召喚した戦士の中に、しぶとく肉の盾から生き残った奴がいりゃ、そりゃ話題にもなるさ。ほとんどはすぐに死んじまうからなぁ。魔界には間諜が大勢紛れ込んでるし、もう帝国側じゃ知る人ぞ知る情報だろうよ」


「へぇ? 俺、魔界じゃ全然目立たないと思ってたのに、敵側でそんなに有名だったとはね。まさか、おまえ達も異世界人だとかかすなよ」

 俺は刀を正眼に構え、じりじりと間合いを詰めていく。

 未だに隙が見い出せないが、いつまでも睨み合いを続ける気はない。まだ戦ってるギリアム達や苦しむダヤンのためにも、なるべく早く片を付けたいのにっ。

「いやぁ、俺は違うさ……ははっ」

 人の気も知らず、リグルスは陽気に笑った。

「しかし、レイバーグはよその世界から来たって点じゃ、おまえと共通する。あいつはすげーぜ。さすがの俺も、あいつだけは敵に回したくないね」

「おまえを見る限り、レイバーグってのもあんまり友達になりたいタイプじゃなさそうだ」

 まあどのみち、俺には友達いないけどな――という部分は言わずにおく。


「いやいや、あいつはまっすぐな奴だよ……だいぶ堅苦しいけどな。俺が闇なら、あいつは光だろう。奴に惹かれるのも、俺にないものを持っているからなんだろうな」

 リグルスは、憧れのスターを語る子供みたいに目を輝かせた。

「だからこそ、俺はただの流れ者だったレイバーグがどこまで上れるか、ぜひこの目で見てぇ。俺ぁ出世なんぞに興味ねーが、あいつの行く末は見届けたいと思う。……だから、その邪魔をする奴は許せんのさ」

 またざっと死体だらけの戦場を眺め、リグルスは唇を歪める。


 釣られて目をやり、俺はやっと気付いた……包帯だらけの怪我人が一人いたが、そいつの目が茫洋ぼうようと空を眺めている。それもそのはずで、いつの間にか喉を裂かれて死んでいた。

 あれは確か……ラミエルとかいう将軍だとヨルンが言ってたはずだ。


「おまえ、まさか――」

「なあ、小僧。おまえは知ってるか?」

 リグルスが露骨に俺のセリフを遮った。


「なぜ、魔王が闇雲に召喚術なんぞ使って、人を集めているかをさ」




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