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運命の分かれ道――その12

 




――その12





 素早く振り返った途端、嫌な光景を見て戦慄せんりつした。姿を消していたリグルスが、乱戦の隅っこにケロッとした顔で立っていたのだ。

 しかも、ミュウの方を見て詠唱に入ってやがる!

「ヤバいっ。ミュウ、よけてくれっ」


「――ブルーサンダー!」


 俺が怒鳴るのと、魔法の発動がほぼ同時だった。エルザの閃光魔法に匹敵する、まばゆい真っ青な雷光が目を灼く。

 魔力の激流とも言えるそれが、轟く雷鳴と衝撃波をともなってミュウに押し寄せていく。

 ホント、轟音で鼓膜が破れるかと思ったほどだ。

 敵味方問わず、方々で驚きの声が上がり、一瞬、乱戦が止んだ。


「え? きゃあっ」


 ミュウがらしくもない悲鳴を上げて、寸前で伏せた。その直後、ぶっとい雷光がさっきまでミュウの頭があった場所を通過していった。

 ぎ、ギリギリだった!

 ミュウの代わりに背後の森で大爆発を起こしたが、寒気がするような破壊力だった。



「おのれえっ」

 たまたまリグルスのそばにいたダヤンが遅れて気付き、剣を振りかざして奴に突っ込んでいった。俺はまずミュウに向かって「ミュウ、マヤ様を連れてここから脱出しろっ。後は予定通りだぞ!」と叫び、ダヤンの応援に駆け出す。視界の隅でミュウが要請通り、ぐったりしたマヤ様を胸に抱いて走り出すのが見えた。


 お得意のとんでもないスピードで、見る見るこの戦場から離脱していく。

 よしっ、もう大丈夫だろう――少なくともマヤ様は。

 あとは、俺達が残党を片付けられるか、あるいはこの場から逃げられるかだ。他の奴はともかく、問題はあのリグルスだろうな。


「はははっ。延長戦の始まりだなあっ」


 涙混じりでふらつく敵兵の中にあって、一人だけ元気満々でリグルスが叫ぶ。爛々《らんらん》と輝くその目は、今斬り合いの真っ最中のダヤンより、むしろ駆け寄る俺の方を向いていた。


 そのくせ、ダヤンが次々に降らせる剣撃を、楽々と受けてやがる。逆にダヤンの方は、たまにリグルスが斬撃を繰り出すと、その度に浅い傷を負っていた。

 あの野郎、もしかして遊んでやがるのか!

 ギリアムとヨルンも二人の勝負に気付いてはいるが、あいにく彼らは彼らで、斬り合いの真っ最中である。

 頼む、俺が駆けつけるまで、無事でいてくれ。


「くっ」

 リグルスがよろめいた隙に、唇を引き結んだダヤンが、大きく長剣を振りかざした。

 嫌な予感がした俺は走りながら、叫んだ。

「無理するな、ダヤン! 今行くっ」

「もう遅いっ」

 リグルスの叱声が響き、いきなり奴が怒濤どとうの攻勢に出た。

 身体と剣が一体化したような姿勢であり、輝く長剣が霞むような速さでダヤンを襲った。


「――っ!」

 その瞬間が、まさにスローモーションのように見えた。

 リグルスの剣が、狙い違わず彼の胸に吸い込まれていくのを、俺は絶望的な気分で眺めていた。

「ダヤン!!」

 思わず叫んだ。

 ダヤンが……あの歴戦の二等戦士が、無残に胸を貫かれている。力を失った右手から、刃こぼれした長剣が落ちた。

「か……は……」

「まずは一人目だな」

 あっさりとそうかし、リグルスが剣を引く。


 ダヤンは壊れた人形のようにがくっと両膝をつき、そのまま横倒しに倒れた。まだ生きてはいるが……致命傷のように見える。

 俺は激怒して、最後の数メートルを駆け抜けようとした。

 リグルスは凄惨な笑みを浮かべて待ち構えている。

 ところがそこで、思わぬ叫び声がした。


「ナオヤ、避けてえっ」


 森に潜んでいたはずのエルザの声だとわかった途端、俺は反射的に横っ跳びに跳んでいた。

 直後に、再びエルザの叱声が響く。

「行くわよっ、フレイムアロー!」

 言下に、文字通りの火炎の矢が俺の脇を通過し、リグルスを襲った。

 しかし、大男はほぼ同時に長剣を振り上げると、「俺のは特別製の魔法剣だぜ、嬢ちゃんっ」と朗らかに喚き、大きく刃を振り切る。

「クレッセントブレイドっ」

 途端に、三日月型をした光の固まりが剣から飛び出し、途上にあった炎の矢を迎撃した。そのままあっさりと魔力を粉砕し、炎を散らしてしまう。

 そして突破した光の刃はそのまま森へと――


「伏せろ、エルザあっ」


 気付いた俺は振り向いて怒鳴った。


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