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運命の分かれ道――その11

 




――その11





 考える暇もなく、抜刀した俺は夢中で刀を振るった。


 まずは、涙を流しつつも腰に手を掛けて立ったブレスアーマー姿のおっさんに飛びかかり、横殴りの斬撃を叩き込む。

 喉を裂き、相手がるのを確認もせず、そのまま返す刀で横にいた従者らしい男の首筋を襲う。赤く光る刀身は狙い通りに首筋に吸い込まれ、半ば首が分断された男がくずおれた。


 瞬時に三人をほふると、身をひるがえして馬車の方に駆け出し、手元に置いたままだった剣を探そうと手をまさぐっている奴を斬ってのける。



 俺の背後では、他の敵兵の悲鳴も随分聞こえていた。ギリアム達ががんばってくれてるみたいだ。

 この時、俺は既に返り血をだいぶ浴びていたが、気にしている余裕はなかった。

 ここまでほとんど抵抗らしい抵抗に遭わなかったものの、まだろくに目も見えないだろうに、早くも武器を手に反撃してくる奴が増えてきたからだ。

 大多数の敵はまだ地面で目を押さえてのたうち回っているが、熟練兵士の何名かは涙を流しつつも、すかさず反撃に移ろうとしている。


「ひ、卑怯なっ」

さっきのおっさんと同じく、頬を涙で濡らした敵兵が、顔を真っ赤にして襲いかかっていた。


「女の子を拉致する奴らに言われたくないねっ」


 こいつもあいにく、動揺が抜けきってない。渾身こんしんの力で振り下ろされた剣撃を、俺は身をさばいて楽に避け、逆に相手の胴を肩口から斬り下げる。いつ味わっても嫌な感触だが、魔力付与のこの刀のお陰で、いつもより全然力を必要としなかった。


 エルザの魔法のお陰で造作なく敵兵を倒していったためか、俺の周囲が一時的にぽっかりと空白になっていた。

 そこでちょうど、ミュウが馬車に取り付き、警護についていた兵士をあっさり持ち上げて地面に叩き付けたのが見えた。

 俺は反射的にそちらへ目をやった。



 敵にとって不幸なことに、ロボット法三原則などのかせは、ミュウには全く備わってないようだった。

 ほっとした俺は、襲って来た次の敵兵と斬り結んだ――が。

 次の瞬間、そのまま凍り付いた。

 ミュウが馬車の扉を開けた途端、いきなり黒髪の女性が飛び出してきたのが見えたのだ。


「プリンセスだと思った!?」


 喚くと、手にしたダガーでミュウを襲いやがった!

「残念でしたあっ」

 いきなりでもあり、まともに彼女の胸に刺さった――ように見えた。

「ミュウっ」

 思わず叫んだが、今の俺は駆け寄るどころではない。


「死ね!」

 鍔迫つばぜり合いの最中だった敵兵が俺を死に物狂いで押し戻し、その場で剣を横薙よこなぎにしたのだ。

 ――くそっ。


「おまえこそ、邪魔だよっ」

 完全に不意をつかれるところだったが、幸い、俺は上半身を反らしてギリギリで剣撃を避け、お返しに体勢の崩れた敵兵の胴を斬り下げた。骨を断つ嫌な感触がして、敵兵は悲鳴も上げずにその場に倒れる。

 すぐに鮮血が大地を染めていった。

 いつもは心を殺して何も考えないようにしてるが、今は気ばかり焦っている。


「ミュウっ」


 もう一度彼女を呼んだ時、後退ったミュウめがけ、潜んでいた女がさらにダガーで追撃しようとしていた。

「なによこいつっ。刃が通らないじゃない!」

 ミュウは俺の方を一瞬だけ見て微笑み、そのまま彼女の腕を無造作に掴み、気安くぶん投げた。

「いやっ」

 潜んでいた女は嘘みたいに軽々と滑空し、元いた馬車に叩き付けられ、ドアを粉々に破壊して中に飛び込んでいった。馬車が大揺れに揺れた。

 ……うわぁ、まっったく心配することなかったか。


 じゃないっ――馬車にいないんだったら、本物のマヤ様はどこだ!


 慌てて周囲を確認しようとしたが、ミュウの方が俺よりよほどしっかりしていた。

 飛ぶような勢いで駆け出し、ちょうど乱戦の横を通り抜けようとした騎兵に向かってジャンプする。その騎兵も、ご多分に漏れずに頬を涙で濡らしていたが、なぜか乱戦には目もくれずに戦場から逃げだそうとしていた。

 見れば、そいつの後ろに大きな荷物が二つ、ロープで左右に分けて積んである。

 地味な色のでっかいトランク……みたいに見えるが……まさか!

「うわっ」

 ミュウが飛びかかって体当たりしたお陰で、騎兵が馬上から跳ね飛ばされ、代わりにミュウが鞍に収まった。彼女はそのまま馬から降り、二つに分けた荷の片方を外し、中を改めた。


「いました!」


 すぐに、俺の方に手を振った。

「すいません、エルザさんの魔法の前に、念のために熱源探知で他の場所も調べてみたんです。ここに反応があったのを見つけたんですけど……先に馬車を見ようと」

 な、なるほど……それで直前で呟いてたわけね。

 しかし、敵はあの中に押し込めてやがったのかっ。魔王陛下の一人娘になんて扱いだ! 

 義憤ではらわたが煮えくりかえったが、まあ奪還できたなら―― 


「――! なんだっ」

 

 俺はふいに、背後にぞくりとする殺気を感じた。



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