運命の分かれ道――その9
――その9
「――(途中聞こえず)手柄は途中で亡くなった魔法使いにあるさ。彼女が、隙をついてスリープの魔法であの方を眠らせなければ、今頃俺達の方が全滅してたかもしれない。感謝しないとな」
黒髪の偉丈夫は、のんびりと答える。
「その代わりあの魔法使いも、あのお方のとっさの反撃で殺られたけどな。眠らせるためだけに相打ちになっちまって、気の毒した」
「やっぱり、さっさと殺しておくべきだったんじゃないですか?」
怪我人の包帯を替えていたまだ年若い従者みたいな奴が、うんざりしたように述べた。
「命令は、捕虜として取るのが無理な場合に限り、殺してもやむなし……でしょ? 今回は十分、その『やむなし』の場合だったと思うんですけど」
「命令を曲解し、暗殺が任務だと思っていた者が多いが、それは違うぞ」
最初に話しかけたおっさんが、きっぱりと述べた。
「なぜだか知らぬが、陛下はいたくあのダークプリンセスに関心をお持ちのようなのだ。死体を持ち帰ったら、我らは不興を買ったであろう。おまえもリグルス殿を見習って、あまり愚痴を言うものじゃない」
最後にそのおっさんは、一人だけ元気な偉丈夫を皮肉な目で見た。どうもこのおっさん、丁寧な口調の割に、実はリグルスとやらが嫌いらしい……て、ちょっと待てよ?
――おいおい、リグルスだとぉおお!
思い出した俺はその場で凝固したし、俺の背後に従っていた仲間も同じである。平然としていたのは、例によってミュウくらいだ。
リグルス……それは、俺達が攻略するはずだった国境の砦の守将であり、勇者と称えられるレイバーグの元仲間でもある。
くそっ、道理でただならぬ威圧感があると思ったぜ。
この襲撃部隊の奴ら、念を入れてリグルスに応援頼んでやがったのか!
『うわぁ……どうするよ、ナオヤ』
ヨルンの情けない囁き声が、背後からした。
『あの有名なレイバーグの盟友だぜぇ?」
『……仮にレイバーグ本人がいたって、やるしかないだろ。ここまで来て、このまますごすご引き返せるもんか』
もはや覚悟を決めた俺は即答した。
『――あの』
とそばまでにじり寄ってきたミュウが耳元で囁く。
『武器こそないですが、私なら』
『いや、あらかじめ決めた予定通り、運び役で頼むよ』
俺はきっぱりと首を振る。
『確か、レイバーグを初めとして、彼らの仲間は魔法を使える奴が多かったと聞く。リグルスも使えるかもしれない。ミュウはまだ知らないだろうけど、魔法だって飛び道具と同じくらい危険なんだ。……仮に電撃みたいなのを食らったら、さすがにミュウも安全とはいえないだろ?』
今のは大げさに言っただけで、実際はミュウなら何とかなるかもしれないとは思う。
しかし、やはりここは一番危険な役は俺が引き受けないとな。言い出しっぺなんだし。
リグルスの相手は俺がする! 密かにそう決めていた。
『それは……確かに』
ミュウが不承不承納得してくれたところで、俺は仲間を振り返って囁いた。
『エルザ、本当にいいんだな? 例の魔法はスタンバイ中か?』
有能な魔法使いなら、発動寸前で魔法を(一定時間までなら)待機させておけるのだ。
それを踏まえての質問である。
『うん』
エルザは暗がりで目を見張って頷いてくれた。
『大丈夫、今もスタンバイ中だから。殺されるトコだったのに、忠誠心なんかもう無いわ』
『よしっ。ミュウも、馬車に誰かいるのは確実なんだろ? なら後は俺達が暴れてる間に頼むから』
『わかりました』
『ヨルンとギリアム、それにダヤン! 付き合わせて悪いが、俺と一緒に暴れまくる役を頼む。魔法で敵が混乱してる間に、どれだけ数を減らせるかで奇襲の正否が決まるからな』
『お任せください』
『全力を尽くします』
『わかったっ。もうやるしかないな!』
ギリアムとダヤンに続き、やや元気を取り戻したヨルンが囁く。
いよいよ襲撃の合図を出そうと手を上げた俺だが――そこで、リグルスのセリフに凍り付いた。
「しかし実は俺達も、いろんな意味でヤバいかもしれないな」
あいつが愉快そうに言って、ちらっと俺達がいる森の方を見た。
そう、偶然にしてはやたらと正確に、こっちが潜む辺りを見やがったのだ!




