運命の分かれ道――その8
――その8
「……どうせ今から戻れって言っても、戻らないんだろうしなぁ」
「そりゃ戻らないさ。なんのために来たかわからないじゃん?」
俺の独白に、ヨルンの馬鹿が即答しやがった。
非難しようと口を開けたが――結局は、諦めて現状の説明をすることにした。考えてみりゃ、俺を見捨てずに追いかけてきてくれたんだし、怒るどころか土下座したいくらいだよな。
ただし、身振り手振りでこれまで見聞きしたことを話すうちに、予想通りみんなの顔はすこぶる真剣になっていったけど。
全部聞いた後、なぜか半部外者のエルザが呆れたように吐かす。
「それなら、なおのことみんなの力が必要じゃない。ナオヤ一人でどうするつもりだったの」
今はもう縛られてないが、その分、態度もデカくなってる気がするぞ。
「一人じゃないっ、ミュウもいる! つか、なんでエルザまでいるんだよ」
ギリアムを見上げて尋ねたが、彼は苦笑して言った。
「我々が無理に連れてきたんじゃないですよ。この女奴隷がどうしてもナオヤ様の力になりたいと言うので――おまえもおまえだ、指揮官を呼び捨てにする奴があるか!」
最後はとってつけたような叱責だった。
「べ、べつに、ナオヤのためにどうとかって話じゃないわよっ」
あたふたと真っ赤になってエルザが言い訳する。
「助けてもらった借りがあるから、仕方なく来ただけだモンっ」
……あんたはいい年こいて、何をツンデレキャラみたいなセリフを吐いてんですか。おまけに、マントは羽織ってるものの、相変わらず例の下着みたいな格好だし。
もっと問い詰めたかったかったが、ちょうどそこで、ミュウが全力疾走で戻ってきた。
その速度にみんなたまげてたが、今更である。
無論、ミュウは追いついたギリアム達を見ても驚く様子はなく、「合流されたんですね」と頷くのみである。一応、申し訳なさそうな顔で俺の方を見たけど、俺も済んだことをグチグチ言う気はないので、ただ肩をすくめるにとどめた。
「……で、どうだった?」
「チャンスかもしれません。敵は仲間に怪我人がいるらしく、今は休憩中です」
「マジ? 人数は!?」
いきなりの朗報に、俺の声も弾む。
「十五名です。重傷の一人は、どうやら敵軍の要人らしく、見捨てられないようですね。それと姿は見てませんが、ダークプリンセスが捕らえられていそうな馬車もありました」
俺達は顔を見合わせた。
これは……本気でチャンスだな。
もちろん俺は、即座に言った。
「よしっ。ここからは森の中を通って敵に接近する。今度は、俺達がヤツらを奇襲するんだ!」
「ははっ」
「はっ」
「よっしゃあ!」
「まあ……うん」
「がんばりましょう!」
ギリアムを始め、ミュウに至るまで全員が声を合わせたが、見事なまでにバラバラの返事だった。まあ、ちぐはぐな混成軍に相応しいな。
ただ、士気がそれなりに高いことだけが救いだったけどさ。
◆
皆でゴソゴソと森を進むこと、数百メートル……俺達は簡単に敵の残党を見つけた。
全員が下馬して、道の端に固まってへたり込み、それぞれ肩で息をしている。一人、上半身が包帯まみれのヤツがいて、そいつを囲むようにして休憩してる感じだ。
馬にまじって二頭立ての馬車も止まってるが、ミュウの指摘通り、アレにマヤ様が閉じ込められているとみた。俺はブラックウッドの巨木の陰に止まると、口元に指を立てて振り返り、「静かにしろ」と合図する。一応の作戦は立てたので、あとは始めるだけだ。
ただ、ちょうど敵が会話を始めたので、盗み聞きしてみた。
「しかし、ダークプリンセスには参りましたな」
ブレスアーマーのみのおっさんが、汗まみれの顔を振る。
「まさかあれほどの化け物とは……ほとんど、彼女のせいで犠牲が増えたようなものです。敵の軍勢も必死だったし、砦に使いを出し、貴方にご足労願ったのは正解でしたな」
おっさんは、隣に足を投げ出して座す、偉丈夫に話しかける。
……砦だって? なんか嫌な予感が。
俺は暗がりで眉をひそめた。
「いいさ。リングマジックのお陰で、俺も稼げたしな。……ただ、危なかったのも確かだろう」
問題の、一際目立つそいつが苦笑した。
俺と同じ黒髪に黒瞳の傭兵風の男だが、こいつだけは、なぜかあまり疲弊した様子ではない。
年齢は二十代半ばくらいか? 日焼けした厳つい顔は傷だらけだし、いかにも歴戦の風格があるな。
『つか、リングマジックぅ? なんだそれ』
俺が思わず首を傾げると、背後にいたヨルンが呆れた声で教えてくれた……同じく小声で。
『なんだ、まだ知らなかったのか? 意味もなく、レベル表示とかあるわけないだろ。奴隷以外の兵士が填めたリングには、全てリングマジックってのがかかってんだよ。倒した相手の戦闘経験値を奪えるようになってる。俺達だって、今後は恩恵受けられるんだぜ?』
――ま、マジですかっ。
それで敵味方を問わず、リング填めてる奴が多いのか! それ、なんてRPGだよ!?
俺は、思わず叫びそうになったね。
すると、マヤ様がモゴモゴ呟いてたアレがそうかっ。私室に呼び出された時のことを思い出し、俺は呆然とする。
しかし、そんな魔法があるなら、奴隷のうちにかけておいてくれよっ。
俺の不服そうな顔を見て察したのか、ヨルンがまた囁いてくれた。
『奴隷のうちは、リングマジックは付与ナシで、レベル表示だけさ。だってほら、奴隷があんまり強くなりすぎたら……支配する側がヤバいじゃん?』
お……おぉ、なるほど。いやしかし、納得いかない話だなっ。
俺は一人で歯噛みした。お陰で、だいぶ時間を無駄にした気がするぞ。
もっと愚痴りたかったが、例の戦士の話が続いてたので、やむなくそっちに集中した。
作者はなるべく出しゃばらないようにしようと思ってますが……今回はちょっとだけ書かせてください。
ランキングは遠いなぁと思っていたのに、今回、日間ランキングに引っかかってました。
どうもありがとうございます。感謝!
(では、また引っ込みます……)