疑惑
「ミュウ、サクラはっ」
思い出して、息せき切ってミュウに訊くと、彼女は可愛らしく小首を傾げた。
「あの人なら、ミュウがマスターに飛びついた直後、耳元に『一人の方が早そうだから、先に行くわね』って、平板な声で言いましたぁ」
「えぇえええええっ」
「見捨てられたぁ!」
「なんということでしょうっ」
俺自身はもちろん、エルザとローズが一斉に声を上げる。
「お、落ち着け、いいか、落ち着けけけっ」
やたらと手を振る俺が、一番うろたえていた。
舌が回ってないし!
しかし、誰が俺を責められよう。なにしろ、サクラはユメ攻略のヒントを握る人物なのだ。四つあるという神器の場所だって、本当はちゃんと知っているかもしれないし、それに神器を入手した後の使い方だって、あいつがいないとわからない。
だが俺は、そういうネガティブな発言はせず、引きつった笑顔で言った。
パニクっても、いいことはないからな。
「まあほら、先に行くって言うんだから、本当に先に行ったんだろ。なら、後から追いかければいいさ」
「えぇーーーっ」
エルザが実に疑い深そうに、しんねりと俺を見た。
「あたし達がひどい目に遭いかけてるタイミングで、助けもせずに、計ったように先に行くかしら? だいたい、待ち合わせ場所だって決めてないのに」
「確かに、大いに怪しいですね!」
うう……ローズまできっぱりと断言しやがるしな。
「あと、いま思ったのですが」
さらにローズは、ひそひそと主婦の井戸端会議みたいな声を出す。
「これって元々、最初から我々を嵌めるための計画という可能性はありませんか?」
一人で戦慄している俺に、追い打ちをかけてくれた。
「最初から神器なんてないか、あっても場所すら本当にわからなくて、ただ単に戦士将と我々をこのダンジョンに誘き寄せ、あのユメにぶつけるつもりだったのでは?」
「うわぁ」
エルザが早速本気にして、頭を抱えた。
「それだと、もうモロに死地に入ってるじゃなーい!」
「い、いやいや……そんな」
口をパクパク動かしている俺の横で、ローズは深刻そうに腕を組む。
「考えてみたら、元々あの人は敵側の人間でしたものね。ちょうどユメがこの場に来ていることも、よくよく考えれば怪しく思えます」
「い、いやいやっ。そんな馬鹿な! そんな殺生な!!」
俺はあたふたとミュウを見やり、肩に手を置いた。
さっきから二人の会話に参加せず、ニコニコと俺を見たままだが、この際は優秀なミュウが頼りだ。
「な、なあミュウ」
「はいっ」
元気のいい返事に少しだけ安心して、俺はゆっくりと尋ねた。
「ミュウに素早く伝言残した時のサクラ、本当のことを言ってたかい? ミュウなら、真偽がわかるだろ?」
俺の渾身の質問に、ミュウの笑顔が消え、申し訳なさそうに眉が下がった。
「な、なに?」
「ごめんなさい、マスター」
ミュウが両手を合わせて俺を拝む……上目遣いに。
「ミュウはその時、マスターの方ばかり注意してて、センサーを作動させてませんでしたぁ」
「なんですと!」
さすがの俺も、今度こそ頭を抱えた。
これは……笑えない事態かも。




