それでも戻しますか?
「ほ、本当にミュウって、機械的な人なのね」
エルザが感心したように言うのを聞いて、俺は慌ててハエを追うような手つきをしてやった。
「しっしっ、来るなって! 今、ミュウを調べてるトコなんだからっ!」
「調べてるって……やっぱり、脱がすんですか?」
……ローズが大真面目に、しかも顔を赤くして訊きやがる。
こいつらは、それしか考えられんのかっ。
「いいから、寄って来ちゃ駄目だって。自分の立場になってみろよ。誰だって、あまり人に見られたくないことはあるだろ?」
俺がたしなめると、みんな顔を見合わせ、ようやく隅の方へ退き下がってくれた。なんだかんだいって、仲間にホントの意味での野次馬はいないのが救いだ。
多少は安心して、俺はなおも語りかけた。
「今のシステムを、全部再チェックできないかな? ここしばらく態度が以前と違うし、どうも口調まで幼くなってるんだ。故障してないか知りたいんだけど」
人間に話しかけるような言い方だったが、ちゃんと答えはあった。
「ひとまず、基本機能に問題が生じるような故障はありません。ただ、AIの方はさらに詳細な分析を必要とします。詳細な診断プログラムを実行しますか?」
「うん、それがよさそうだ。頼むよ」
「了解。しばらくお待ちください。診断プログラムを実行し、指摘された問題点を調べます」
そのまま、ミュウは固まってしまう。
瞳は開いているが、虚空を見つめたまま全然動かない。
感情がないと、本当に超高性能のビスクドールの瞳みたいに見えて、落ち着かない。これならまだ、元の年齢下がったようなミュウの方がずっとマシだ。
優に数分くらいは過ぎた後、ようやくまたミュウが言った。
「診断プログラムのチェックを終了しました。AIの感情及び倫理回路に、幾つかエラーが生じています。これが、一部の記憶障害と年齢設定が下がった原因となっています」
「ええと、意味がわからないけど」
「戦闘によるダメージを受けて自己修復中に、現在の問題が起きたと推測します。スリープ機能が働き、本機に搭載された自己修復プログラムが自動起動した結果、本来、弄る必要のない部分に手を加えてしまいました」
「と言いますと?」
うう……また敬語になってしまったじゃないか。
「つまり、普段から負荷がかかっていた感情回路と倫理回路に介入し、これ以上の機能障害を起こさないよう、一部の記憶を削除しました。これが遠因となり、AIの感情回路に混乱を引き起こしたと見られます。出荷時に十六歳とされていた設定年齢が変更されたのも、このことが原因と推測されます」
「戦闘によるダメージ……ユメと戦った時か? その後でずっと眠って自己修復中みたいな感じだったけど、あの時に問題が起きたってことだよな。年齢下がったように思えたのも、偶然じゃない? でも、まだ今一つ意味が」
「早い話、ナオヤが原因でしょう」
部屋の隅に立っていたはずなのに、相変わらず地獄耳のサクラが口を挟んだ。
「えっ」
俺が眉をひそめて振り返ると、ため息をついて言う。
「言っておくけど、わたしは部外者に過ぎないから、これは推測よ。でも、見ている限りじゃ、その子はナオヤが好きみたいじゃない? なのに、ナオヤにはマヤって子がいる(呼び捨てかよ!)んでしょう。混乱してるというなら、それが原因じゃない?」
サクラが言い聞かせるように俺を見る。
「本当にその子が超高性能のマシンなら、なおさらよ。ただでさえAIは矛盾を嫌うだろうに、好きなのにままならない立場でいる自分――これがよくなかったんじゃないの? 負荷っていうのは、おそらくそのことを指すのよ」
「なるほどぉ」
エルザまで納得した顔で何度も頷いた。
「辛いから、そういう記憶に触れないように消しちゃって、ついでに無邪気にものを考えられる年齢まで退行しちゃったのね。ミュウは、ナオヤとダークロードの関係に、普段からもやもやしてたものねぇ。ナオヤのいないところで、よく思い詰めた顔していたし」
「……えっ」
俺はかなりショックを受けて、エルザを呆然と見返す。
いや、ミュウにいろいろ不自由をかけていたことはわかっているが……マヤ様と俺の関係については、もうミュウの中で決着していたのかと思ってたんだ。
「ぬうう……俺の……せいか」
頭を抱える俺に、ミュウの機械声が冷静に宣告した。
「出荷時の年齢設定に戻して記憶を回復させると、おそらくまた同じ負荷がかかり、深刻なエラーをもたらす危険性があります。それでも戻しますか?」




