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ミュウを診る(点検)

「え、そんなのあるのっ」


 たちまちエルザが飛びつく。

「床に座るだけじゃなくて、ちゃんとした休憩場所?」


「それは……場所によって微妙に違うわね」

「どういうことだよ?」


 俺が尋ねると、サクラは珍しくきちんと説明してくれた。

 本人曰く、どうやらビバークポイントとは、この迷宮内で否応なく長時間過ごす必要があった抵抗軍達が設けた、いわば地下の宿泊施設のようなものらしい。


 ただし、俺達が泊まったホテルみたいな豪華な設備はあまり期待しては駄目で、大抵は雑魚寝はできてちょっとした水飲み場などがある場所なのだと。


「例外的に、指揮官クラスが泊まる専用のポイントなら……多少は設備もいいかもしれない。でも、数は少ないと思うわよ」


「どんな場所でも、肉の盾時代の俺が泊まってた部屋よりはマシな気がするなあ」

 一応、周囲を確かめつつ歩き、俺は上の空で言ってやる。


「あの時なんか狭い部屋に六名で、俺以外の奴は全員がボンゴみたいな獣人族だったし。別に獣人族に差別心なんかないけど、いびきがオーケストラみたいで、慣れるまできつかった。体臭すげーし」





「そ、そこと比べれば、確かにどんな場所でも我慢できそうですね!」


 目を丸くして振り向いた尻……じゃなくてローズが、気の毒そうに言ってくれた。

 貴族のご息女らしい感想である。今や俺の部下ってのが信じられんが。

「でも……のんびり休憩なんかして、大丈夫でしょうか。その間に、敵が神器を見つけたりしませんか?」

「それはまず大丈夫だと思うわ」

 これまた珍しく、サクラが保証してくれた。


「だって、隠し場所を開けるのに、ブレイブハートが発動コードを使う必要があるもの。まあ、それでもユメならなんとかしちゃうかもだけど」


「お話の前半でほっとしたのに、後半でご破算じゃない!」

 腹が減っているのか、エルザの口調には棘があった。

「どうしても腹が減ったなら、背中に背負ってる背嚢はいのうに食料が入ってるだろ?」

「そうだけど……どうせなら、くつろぎながら食べたいわ」


「いずれにせよ、疲労度が高い人が多いようだから、休む必要はあるでしょう……ちょうど、見つけたわよ」


 いきなりサクラが立ち止まり、俺達は顔を見合わせた。

 なにもない普通の通路だったからだ。

 しかしサクラは、壁の石を指差す。

「ほら、この部分だけ、他とちょっと色が違うでしょう?」


「……違うか? まあ、言われてみれば、多少違うくらい?」


 しかも、積まれた石の一つだけだ。

「はっきりわかったら、隠れて休めないじゃないの! 侵入した敵に見つかるもの。ネオンの看板みたいなのが、あるわけないでしょ」

 サクラは相変わらずの毒舌で言い返す。


「赤系の、よく見ればわかる程度の違いだけど、これが目印なの。……そして、そこを押せば」


 説明しながら、手でぐっと壁を押す――するとなんと!

 戸口くらいの大きさにわたって、壁が動いたじゃないかっ。

「おぉおお」

 俺は感動して呻いた。

 忍者屋敷の動く壁みたいだな。

 早速、皆でどやどやと中へ入ると、予想したよりは広い。


 八畳くらいの広さはありそうだし、金属製の二段ベッドが二つ並んでいる。おまけに、隅には水飲み場みたいな場所があって、小さな女神像をかたどった場所から、チョロチョロ水が流れていた。


 入り口を元通りに閉めたら、それで壁に魔法の明かりが灯るし、言うことないな。

 トイレみたいな場所もあるようだし、入り口は施錠可能だし。




「床に直座りなのがアレだけど、それ以外は安心できるわねぇ」


 と言いつつ、自分はちゃっかりベッドに駆け寄り、そこに座るエルザである。


「わ、私だってベッドに座りたいですっ」


 すかさずローズも二段ベッドの上に駆け上がりと、いきなり争奪戦が始まっていた。

 ただ、俺はみんなを無視して、ミュウを一番遠い隅っこに連れて行った。今こそ、この子を調べないと。

 そのために入ったようなもんだ。


 たまたま隅に薄いクッションみたいなのが放り出してあったので、ミュウをそこに座らせてあげた。すっかり幼女化しているせいか、ミュウはお尻の下にクッションを敷き、両足は左右に放り出しと、女の子が私室でくつろぐような座り方をした。


 白銀の髪が長いせいで、座った左右に綺麗な髪が散って、本気で人形みたいだ。

 しかも、俺を見上げる碧眼が、いつも以上に澄んでて邪気が全然ない。もう全くない。多分、赤ちゃんが見つめる瞳と似ている。


「マスターぁ?」


 あと、なぜかドキドキした表情に見える。


「ミュウ、ちょっとその……いろいろ見せてくれないか?」


 点検というのも気が引け、俺は控えめに頼んでみた。

 ミュウは、なぜか聞いた途端に頬がうっすらと紅潮し、ため息など洩らした。


「……みんな見てるのに、いいんですかぁ」 


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