慎重な敵
なんでかはわからない。たまに俺が激戦の中で感じることがある、ある種の勘みたいなものかもしれなかった。
ただ、この勘のお陰で助かったのは、これまで一度や二度ではない。
だから俺は、こういう時は素直に勘に従うことにしている。
今も後ろに庇っていたミュウを抱き締め、そのまま大地に身を投げた。
「全員、伏せろぉおおおおおっ」と、あらん限りの声で喚きながらっ。
視界の端で、はっと俺の方を見たレイバーグが、声に応じて伏せるのが見えた。それと、同じく何か感じたのか、マヤ様は殺戮騒ぎを中断して、さっと片手を前方に伸ばす。
これは多分、マヤ様独自の能力で防御しようとしたのだろう。
しかし、俺が見られたのはそこまでだ。他のみんなの安否を確認する前に、思わぬ衝撃波が襲ってきた!
ホント、まさに衝撃波としか言いようがない攻撃で、ドォンッと内蔵に突き刺さるような轟音とともに、そこら中の樹を容赦なく積み木のように薙ぎ倒し、衝撃波が広がっていく。
腕の中に庇ったミュウの無事を確かめ、俺はそっと顔を上げてみた。
幸い、俺が喚いたのは無駄ではなく、大半は伏せていたし、剣で防御しようとしたマヤ様も、一応はガードに成功したらしい。
だけどダメージは受けたのか、しきりに首を振っている。
――その先に、あのレイモンがいた。
マントを脱ぎ捨て、憤怒の表情で手を突き出している。
しかも、今度こそまともにマヤ様の方を見たので、俺は思わず飛び起きた。ミュウが「マスタぁ?」とか、なんだか舌っ足らずな声を出していて気になるが、今は目先の危機の方をなんとかしないと。
「ネージュ、エルザ、ミュウを頼む!」
ようやく起き上がりかけたらしい二人に叫び、刀を握ったまま駆け出す。
「まず俺が相手だあああっ」
「ほざくな、人間!」
増悪に染まったレイモンの顔が、さすがに俺の方を見た。
「ならば、おまえを先に――」
言いかけた時、また俺の視界に長い黒髪が舞うのが見えた。
「このわたしを忘れるとは、いい度胸ね!」
どうやって今の衝撃波をかわしていたのか、サクラはぴんぴんしていたし、むしろ絶好調に見えた。レイバーグも遅れて走ってきているが、今は俺達の方が速い。
まず、サクラが放たれた矢のごとくレイモンに襲いかかり、雷光にも似た輝く斬撃を浴びせる。
「レイモン、覚悟っ」
「――くっ」
さすがにあっさり殺られるほど弱くなかったが、腕を剣撃が浅くかすり、レイモンは顔を歪めた。それでも真横に大きく跳んで避けようとしたが、あいにくまだ俺がいる。
着地地点を予測し、俺は自分も渾身の力で跳んだ。
「マヤ様とミュウを狙う奴は死ねっ」
完璧なタイミングだったし、避けられるような間合いじゃなかった。
しかし、俺と目が合ったレイモンの瞳が光った途端、俺の身体は吹っ飛ばされていた。
「うおうっ」
とっさにマヤ様の真似をして刀を立てて、正解だった。
何も見えなかったが、とにかくなんらかの衝撃がその刀にぶち当たり、俺は空中で後方回転して降り立つことができた。
「ま、魔法とか汚いぞっ」
レイモンは俺の弾劾を聞いてなかった。
こいつ、ただのプライドが高いだけのイケメンじゃなかったらしい。その場で舞い上がると、たちまち夜空に吸い込まれるように飛び去ってしまったのだ。
つまり……トンヅラこきやがった!
一瞬、むっとしたが……いや、でも俺があいつでもそうするか。
なにしろ、俺とサクラに加えて、復活したマヤ様とレイバーグ、それにさらに後方にはネージュ達魔法使いやローズまで立ち上がろうとしているしな。
「ナオヤ、無事かっ」
駆けつけてきたマヤ様が、焦った顔で俺の肩に手を置く。
……ていうか、いきなり首を無理に自分の方へ向けるの、やめてほしいかも。危うく、ぐきっとなりかけたですがな。
「だ、大丈夫ですっ。それより、他のみんなは?」




