目つきが犯罪
ちなみに、ミュウのそばに寄ってどうするかは、まだ全く思いつかない。
思いつかないが、このまま放置して自分達だけ中へ入るのは駄目だ、絶対に。他の仲間はまだしも、俺が入る時はミュウを連れてだ。
しかし、もはや状況は絶望的だった。
今やレイモンはもちろん、傭兵も順番待ちの列などそっちのけで、ぼおっと立つミュウを囲んでいる。
もちろん、一番胡散臭い目で見ているのはレイモンで、「どうした、答えろ! どういうつもりで出てきたっ」などとガミガミ問い詰めている。
無理もないだろう……ミュウを前に見てるなら、勘違いする余地などない。それでなくてもこの子は、マヤ様並に目立つわけで。
しかし……ミュウは全然答えない。
まだ夜が明けてないので断言できないが、どうもその視線は俺を見ている気がする。
「センサー……に反応あり……反応あり……」
「なにを言ってるのだ?」
レイモンが苛々と吐き捨てた。
「それにしても妙だぞ。さっきから、微かに魔力も感じる」
長い白銀の髪を苛立たしげに掻き上げ、ミュウを睨む。
「まさか、おまえが原因なのか?」
ヤバい。原因はもちろん、透明化の魔法をかけられている俺だろう。
これは早くなんとかしないと、にっちもさっちもいかない。
しかし、レイモンはもちろん、傭兵のおっさんどももミュウの周囲をびっしり囲んでいて、割って入る隙もないという……。
「冷静に見ると……すげーねーちゃんだな、おい。ある意味、最強に色っぽいぞ! この子、いくつに見える?」
「えー、十代なのは間違いないんじゃね?」
「しっかしこの子、なんだか俺達の後ろの誰かを見ている気がするが」
「馬鹿言え、他に誰もいねーよ。それよりすげースタイルだなおいっ」
人が悩んでいるのに、傭兵どもが勝手なことをわいわい言い合っていた。おおよそ全員が、ズボンのベルトに手をかける五秒前といった感じで、俺の頭にふつふつと怒りが込み上げてきた。
そのせいか、手まで震えてきた。
こいつらレイモンがいなければ、もっと近付いていたに違いない。
見られているだけで、ミュウが汚される気がするしなっ。
「しかもよう、たまんねぇ衣装だなアレ? 肌に張り付いてるんじゃないかー」
「ていうか、美人なのに寝ぼけたような顔だぞ……この際、尻をちょっと撫でたりしても、全然バレないかも(はあっ!?)」
なんか呼吸を荒くしたおっさんが、手の指を妙な具合に動かし、じりじりとミュウの背後に迫っていた。
そいつの周りにいた野郎共も、示し合わせたように頷き合う。
「野郎、名案を出しやがるぜ……よ、よし、なら俺は、いっちょ胸の方を揉んで――」
あ、駄目だ……悪いが俺は、この辺で盛大にぶち切れた。
もうホント、ついさっきはみんなに散々落ち着くように合図を出してたけど、自分が真っ先にぶち切れたね!
「ふざけんなああああっ」
喚くなり、俺はミュウの後ろから迫ろうとしていたヤツに駆け寄り、思いっきり尻を蹴飛ばしていた。
「うごうっ」
あまり手加減をしなかったせいか、そいつは万歳の姿勢で見事に吹っ飛び、たまたまさっとこちらを見そうになったレイモンに激突した。
しかし俺はもう見向きもせず、次にミュウの胸がどうとか吐かしやがった奴の股間を蹴り上げている。
そいつは声も上げずにびっくりしたように目を見開き、前屈みのまま横倒しになってしまった。泡吹いてるし、当分は起きないだろう。
ただし、俺の悪運はどうやらここまでだったらしい。
というのも、二人を蹴倒したところで、ちょうど俺にかかっていた魔法が解けたのだな。
たちまち全員が俺を見て、口々に喚いた。
「な、なんだああっ」
「ガキがいつの間にか!」
「おい、今二人を倒したのもこいつかっ」
「……や、ヤバっ」
上った血が、一瞬で引いてしまった!
後先考えずに暴れちまったぞっ。
とっさに、ムンクの叫びみたいなポーズになってしまったが……周囲の喧噪の中で、ミュウだけがなぜか笑顔になった。
ゆっくりと男共を掻き分けて無理に包囲の外へ出ると、そのまま歩いて俺の胸に抱きついてきた。他は全然見てない。
「やっぱり……マスター……です」
「……は?」
なんか、反応がおかしくない?
俺が慌ててミュウの肩に手を置いたその時――倒れた男の下で、レイモンが怒鳴った。
「なにをしているっ。そいつらをさっさと斬れえっ」




