人質としての意味なし
「マヤ様っ」
俺は他の連中は放置して、マヤ様に即、抗議した。
「俺に任せてくださるはずではっ!?」
「そ、そうは言ったが」
さすがにバツが悪かったのか、マヤ様の歯切れは悪かった。
「しかし、それは一番呑みにくい条件ではないか! せめて金では駄目なのか」
「わたしはいいのよ、別にきっぱり拒否してくれても」
地獄耳のサクラが口を出した。
「そしたら、今ここで暴れまくってやるわ」
有り得ないことに、完全に本気の口調だった。
「ちょうどこの場に、この世界で屈指の凄腕が揃ってることだし、それはそれで楽しみねぇ……」
濡れたように光る黒い目を細めて、俺とレイバーグを交互に見やがる。一番、腕が立つのが俺達だと見定めたようだ。
な、なんというイケイケねーちゃん!? 俺が出会う美人って、こんなのばっかだな!
「いやいや、そんな昔のアメリカ映画であったラストシーンみたいな展開、絶対にごめんなんでっ」
俺は慌てて手を振りまくり、マヤ様にも強く言った。
「とりあえず、俺に話させてください。いいですね?」
「……わかった。ナオヤに任せる」
既になにか言おうと口を開きかけていたマヤ様は、肩をすくめて黙り込んでくれた。
そこで俺は、サクラに恐る恐るお伺いを立てた。
「サクラの要求はわかったが、ちょっと考えてみてくれよ? レージを押さえてるからこそ、俺達は砦でもユメを退けられたんだぞ」
「人質にとったわけね」
即座に言われて、今度は俺がバツの悪い思いを味わった。
「う……まぁな。とにかくだ、レージを押さえていれば、さすがにユメも迂闊な行動は取れないわけで。俺達としては、なかなか簡単に解き放つっていうのは」
「あんた達、致命的な勘違いしてるわよ」
サクラが人の主張をあっさり全否定してくれた。
「なにが勘違い!?」
「レージに人質の効果があるように見えるのは、ただの幻想ってこと。実際は、ほとんど意味なんかないに等しいわ」
「おい待てっ。そりゃなんでだよっ!?」
当人のレージが、びっくりしたようにサクラを見た。
……おいこら?
さすがの俺も、顔をしかめちまった。レージ本人が、悲壮な顔つきで訊いてるやん? 俺達が訊き返すより、こいつの抗議の方が早かったぞ。
「まだ仲間になるかどうかわからない人達の前だし、迂闊に理由は言えないわねぇ」
気のせいか、実に意地悪な口調でサクラが答えた。
さらさらの長い髪を背中に払い、相変わらず他人事みたいに俺達を眺める。
「今わたしが言えるのは、前に脅しの効果があったように見えるのは、根本的にナオヤ達の勘違いってことだけ。ユメが本気で覚悟を決めれば、レージを押さえていようが、全然関係なくなるわ」
「意味がわからないぞっ」
「戦士将!」
堅苦しく階級で呼ぶローズが、我慢できなくなったのか、俺に囁いた。
『彼女は、あのレージを解放させるためだけに、わざと無茶な条件を出しているのでは』
「――大外れ」
サクラ本人が答えた。ホントに内緒話しにくいなっ。
「そのつもりがあるなら、わたしはそんな姑息な真似はしない。いきなり暗がりからナオヤ達に襲いかかってる。だいたい、今だってもう少しマシな嘘つくわね」
むう……確かにこの危ない女なら、そんな奇襲をしそうだ。
俺は腕組みして考え込んでしまった。
レージを解放すれば、わたしが仲間になりますから~……なんて条件、普通は絶対に考えない。こっちが断るに決まっているからだ。
となると、あえて呑めない条件を出しているのかと思うが、その割には、サクラの顔はすげー本気に見える。
俺が条件呑んだら、ホントに仲間になりそうな気がするのだな。
なんでレージに人質の価値がないんだ? 砦じゃ、立派に人質として使えたじゃないか。




