砦攻略(の予定)――その4
「こ、こら。馬上で暴れるでねぇ! 尻をひっぱたくぞいっ」
エルザを乗せた馬の手綱を引いていたボンゴ(元の部屋仲間。こいつも連れてきた)が、毛だらけの顔を振り乱して注意する。パンツ一丁の巨体獣人にドスの利いた声で脅され、さすがにエルザは黙り込んだが、それでも恨めしそうに俺を見るのはやめなかった。
「ごめんよぅ、あにぎぃ。こいつがどうしても直訴したいって言うからさー」
どすどすと歩きつつ、ボンゴがいかにも申し訳なさそうに頭をかく。
「あー、まあいいさ」
俺は胸の先端がはっきりわかる、競泳水着みたいな姿から意識して目を逸らした。
つか、じっくり見てると股間にもうっすら縦筋が窺えたりして、むちゃくちゃヤバいな。俺の目には毒だ。
「……で、なんでエルザはこんなぎっちり縛られてんの?」
やむなく、そのままギリアムに振る。
言っちゃ悪いが、別に俺が命じたわけじゃないんだな。
「いえ、この拘束はヨルンの仕業ですが」
ギリアムは歯切れ悪く答えた。
「しかし、彼のやりようも頷けます。まずこの女、出荷の際にローブの中に武器を縫い込めて隠していたのが見つかり、不審に思ってさらなる身体検査をしたところ、他にも武器やら妙な小道具やらが衣服の中に見つかったのです。そこで、ヨルンがこうして厳重に拘束したわけでして」
「ヨルンの趣味もあるんだろうけど……なるほどな」
しんねりとエルザを横目で見ると、さすがの彼女も決まり悪そうに目を逸らした。
もっとも、それで黙り込むわけじゃなかったが。
「そ、それはそれとして! 今は腕に拘束リングも填められてるし、抵抗しようがないじゃないですかっ。服装整えてロープも解いてくださいよ」
「う~ん」
俺は少し考え、背後を振り返って大声を出した。
「ミュウ! こっち来てくれ」
例の、別な意味でヤバい格好のヒューマノイド少女を呼ぶ。
全身一体化のボディスーツか、プラグスーツもどきみたいな格好の彼女が、すぐに追いついてきた。正直、見た目のエロさと美貌においては、この子の方がエルザより上だろう……なにせ、オリエント工業も真っ青の人工美少女プラス、このエロスーツだからな。
ただ、本人が悪びれずに堂々としているので、俺もそう意識しないで済んでるだけだ。
……いや、やっぱり意識するか。
「なんでしょう、マスター?」
真横で見上げた白銀の髪の彼女に、俺はどぎまぎした。
動揺を悟られないように、意識して平静な声を出す。
「今からエルザに質問するんで、チェック頼むよ」
「お任せください」
「うん――じゃあエルザ、拘束解いてちゃんと服着せたら、逃げずにおとなしくしてるか?」
「もちろんです、ナオヤ様ぁ! 逃げようなんてこれっぽっちも考えませんわぁ」
無駄に明るい声でエルザが答える。
俺が聞いてもすげー嘘くさい……ミュウを見ると、案の定、彼女も首を振った。
「ネガティブ反応が出ました。嘘ですね」
俺はそのまましかめっ面でエルザの方を見て、申し渡した。
「あんた、当分そのまま」
「なんで! ていうか、そんな小娘の言うこと、そのまま信じないでよっ」
「いーや、信じるさ。ミュウには俺を騙す理由ないけど、あんたにはあるだろ」
「くっ」
エルザはさらに赤みを増した顔で今度はミュウを睨む。
「あんたも、いきなり奴隷にされた身でしょっ。一体、どっちの味方なの!」
「マスターですわ」
不思議そうな顔でミュウが即答して、エルザはがっくりと肩を落とす。
いやぁ、さすがに可哀想になってきたが、しかしあの拘束スタイルで馬に揺れられていると、馬の動きと合わせてロープで突き出たおっぱいが上下に揺れたりして、すげー。内心、そのままでいてほしいという気持ちも大いにあったりして。
とはいえ、エルザが肩を震わせて俯いてるのを見て、さすがの俺も少し譲歩することにした。
「ミュウ、俺のマントをエルザに羽織らせてやってくれ。それくらいは妥協してもいいだろう」
防寒というより、かっこつけのために纏っていたマントを脱ぎ、ミュウに渡した。
そもそも春みたいな陽気だし、マントなんか元々いらない。
「わかりました」
驚いたことに、ミュウがゆっくりと微笑してからマントを受け取り、エルザの馬の方へ行った。
わ、この子、こんな風に笑えたのか!
しかも、エルザの馬の横で嘘みたいに身軽に飛ぶと、鞍の後ろにぴたりと着地し、彼女に羽織らせてやっている。全てが自然な動きだけど、運動神経凄いな。
エルザ自身も驚いたと見え、小さく声を上げていた。
彼女に見とれている間に、ダヤンが急に注意を促した。
「ナオヤ様、ご覧を!」
「え?」
慌てて彼の指差す方を見ると、街道を逸れた北東の方角から、馬が駆けてくるのが見えた。乗っているのは真っ黄色な頭のヨルンだが、しきりにこちらに手を振っている。
あれは挨拶じゃなくて……なんか興奮してるみたいだな。
「何か怒鳴ってるようです」
「敵でも見つけましたか」
ダヤンとギリアムがそれぞれ首を傾げる。
「どうやら、敵と遭遇したようですね」
戻ってきたミュウが、一人だけ冷静に指摘した。
「怪しい奴を捕まえた、と叫んでます」
言われて俺達もやっと気付いた……鞍の後ろに、誰かを縛り付けて乗せてるようだ。