兄の苦悩
それが本当なら、ある意味では尊敬できる子かもしれない。少なくとも、自分の駄目な面を知りつつ、何とかしようとしているわけだから。
あと、恥ずかしいと思ったことを告白する時は、いちいち真っ赤になるのな、この子。
「よくわかったよ。なら、試しに今回の遠征に参加する? 出陣はもう明日だけど」
「えっ」
驚いたように顔を上げた後、たちまちローズの顔に喜色が弾け、また見事な敬礼を見せてくれた。
「ありがとうございます、戦士将! 必ず、お役に立ちますっ」
「期待してるよ~」
俺が和やかに手を振ると、これも「機械人形かよ」と思うような回れ右をして、部屋から出ていったな。
いや、なんかやたらと早足だったのが気になるが、最初から最後まで折り目正しい人だ。
「あの、ナオヤさん」
「うん?」
笑顔でミュウを仰ぐと、彼女は深刻そうな顔でこう言った。
「あの人が正直な人なのは事実だと思いますが、少なくとも最後の部分は曖昧なところがありましたよ……全部本当のことを語ったとは思えない、ということですけど」
「え゛」
今更そんなことを言われ、俺は妙な声を洩らしてしまった。
「曖昧な部分ってどこ?」
「私の内蔵センサーがネガティブシグナルを検出したのは、この部分です」
ミュウはそっくり再現してくれた。
『私はあえてナオヤ様の指揮下に入り、自分の差別心が正当なものか、それとも唾棄すべきものだったのかを、自分で見極めたいと思ったのです』
「いや、反復する時に声まで同じにしなくていいから」
いつもながら、ミュウは限度を超えて有能すぎ。今の、ローズの声そのものだったぞ。
俺の呆れ声には反応せず、ミュウは憂い顔で続けた。
「この部分は嘘ではありませんが、あの人の真の目的は別にある……私はそう思います」
つまりアレか、細かい事実を白状する代わりに、最も大きな嘘を隠した――そういうことか。
「むううう……でも、もう採用しちゃったしなー」
頭を抱えたところで、今度はやたらせわしいノックの音がして、ギリアムが飛び込んできた。金髪を後頭部の方へとかしつけた、切れ者風の二枚目なんだが、今や顔中が脂汗に塗れている。
「ナオヤ様っ。まさか、ローズを採用したのですかっ」
「アンテナ高いな。なんでもう知ってるの?」
「私用で先程、家に戻りました時、『ローズもナオヤ殿に預ける』と両親に言われましたし――」
ギリアムは当惑顔で言う。
「それについ今し方、妹が私の部屋に来て、つんと顎を上げて、遠征の同行を教えてくれました」
「ほぉ~」
……ていうか、「つんと顎を上げて」ってトコ、まさに情景が浮かぶぞ。
「いやまあ、ギリアムに相談しようかとも思ったけどさ」
俺は我知らず言い訳口調で述べる。
別に、美人だから採用したわけじゃないんだと言いたい。
「あの覇気がありまくりの人なら、どうせどんな手段使っても、どっかの部隊に潜り込むだろ? なら、せめて俺やギリアムの目の届くところがいいと思ったんだよ。その方が生存率も高いだろうし」
魔族軍の実戦部隊は、おおむね生還を期さない作戦が多いからな。
「それで、採用されたのですね」
渋々、ミュウが頷く。
どうやらこの子は、俺に潜在的な反感を持つローズが同行するのは、反対らしいな……口にはしないけど。
「いえ、まさに仰る通りで、お気遣い痛み入ります。妹は、どんな手段を使っても戦闘に加わるでしょう。そういう子なので」
俺の言わんとするところはギリアムにも伝わったらしく、一応は頷いてくれた――が。
一方で、彼は呆然とこうも言ったね。
「しかし……何しろ思い込みの強い子なので」
やたら困ったように言いやがる。
……俺まで不安になるから、やめてくれよ。
レベルが上がろうと、俺は相変わらず豆腐メンタルなんだよ。
「ところで、本人に訊いたところで本当のところはわからないだろうから訊かなかったけど」
俺はふと思い出し、ギリアムを見る。
「あのローズって、腕の方はどんなもん? いや、実戦未経験なのはもう聞いたけど」
「剣技の実力のことでしたら」
ギリアムは苦い顔でため息をついた。
「私はもう敵いません。幼少の頃から、師についてひたすら剣技の道に励んでいた子なので」
「へぇえええええ」
ギリアムだって、そう悪くない腕なのにな。
「いやぁいるんだよなぁ、そういう優等生タイプ。そういう子って、実際努力も人一倍するから、だいたい何を始めても上達早くて、劣等感をつつかれまくりだー」
「いえ、妹の場合、所詮は訓練のみの経験なので」
身内のためか、ギリアムの言い方は厳しかった。
「実戦でローズの実力がそのまま通用するとは思えません。盾の奴隷を経験したナオヤ様には言うまでもないことですが……その、戦は剣技場の練習のようにはいきませんから」




