スーパーガールな方
ていうか、四つん這いの姿勢で大胆に手足を動かして接近してくる様が、まるで獲物を狙う肉食獣みたいだ(あと、胸の谷間がヤバいっ)
しかも、唖然と眺める俺を力任せに押し倒すと、その腹の上に座り込んでしまう。
「ええと」
こっちが反応に困っている間に、マヤ様は上半身を倒して俺の両肩をぐっとベッドに押しつけてきた。
なんかこう、ヤバい体勢だよな、これ。
女性上位的な――いや、非モテの俺だけに、別に経験あるわけじゃなくて、あくまで薄い本とかで得た知識だけど。
「ナオヤは気の多い男で、見ていると腹が立つ。周囲に女が多いのも腹が立つっ。強くなったくせに、中身は相変わらず寿命が短い人間のままなのも腹が立つ! このままではマヤより先にナオヤが死ぬっ。特に、最初と最後が一番むかつくわっ」
真紅の瞳で俺を見つめ、恨み言を吐き出す。
しかも、段々声が大きくなるのが怖いぞ。
言ってる内容も、中身が支離滅裂だ。要するに、何もかも気にくわないと言うことだろうか。
じっくり考えたいところだが、お腹の上にマヤ様のお尻が乗ってるわ、眼前で胸が揺れてるわで、落ち着いて考えるのなんか無理だ。
上と下で見つめ合ううちに、マヤ様の身体がぶるぶる震え、なぜか瞳の縁に涙が盛り上がってきた。
「それに、ナオヤはいつも無茶をしすぎる。寿命も心配だが、そちらも心配だ。ナオヤは本当に駄目なヤツだ……マヤに心配ばかりかけて」
「す、すみません」
「悪いと思ったら、今すぐ不死身になって老化も止めて。十年後もマヤはこの姿とそう変わらないけど、人間はそうじゃない。だから、今すぐなんとかして」
据わった目つきでマヤ様が命じた。すげー真顔で。
それから眉根を寄せて少し考え、改めて付け足した。
「ついでに他の女も見るな。なぜか気分悪いから」
いや、それは無理! 最初から最後まで無理っ。無茶苦茶言われても困る。
目つきもおとろしいし、もう「お腹に乗ったお尻の感触がたまらん」とか考えてる場合じゃない。
仕方ないので、とりあえず宥めることにした。
「ええと……いや、お気持ちはわかりますが」
ここは一つ、落ち着いて――と言いかけた途端に。
マヤ様がくわっと目を見開いた……真紅に染まったままの瞳を。
至近から、魔王の直系に特有の攻撃的視線(色が濃くなるのは直系のみなのだ)で見られ、絶句しちまった。
肩に食い込んだ手が、ヤバいほど痛くなってきた!
この方、俺がご自身より遥かにヤワなのを、忘れてないか。
「な、ナオヤにっ」
「お、俺がどうしました。つか、痛いんでありますっ」
焦るあまり、言葉遣いが変になっちまったやん。
「ナオヤに、マヤの気持ちがわかってたまるものかーーーーーっ」
「うわあっ」
またしても腕を掴まれ、軽々と放り投げられた。
危うく窓をぶち破って飛び出すところだよ! ここ、十二階なのにっ。
壁に背中からぶち当たり、直後に無様に這ってしまう。その体勢のまま、俺は慌ててマヤ様を見上げる。
なんと、身軽にベッドから飛び降りたマヤ様は素早く腰を屈め、その巨大なベッドを力任せに頭上に差し上げるところだった。
な、なんという……非現実的な光景。このベッドのサイズと、規格外の重厚な作りからして、下手したら百キロくらいありそうなのに。
この方にかかると、ぜんっぜんっ重そうに見えない。
金髪ロングのスーパーモデルみたいな美少女が、自分の体重の数倍はあるブツを頭上に持ち上げているのである……人間、あまりにも驚くと、とっさに言葉も出ない。
「ナオヤのばかーーーっ」
しかも、豪快にぶん投げたぞっ。
「ちょっ!」
慌てて伏せたが、幸いにして最初から俺を狙ったわけじゃないらしい。
天蓋付きベッドはそのまま窓――どころか、その周囲の壁ごと破壊してのけ、そのまま私室を飛び出して虚空へ飛んでいった。
所詮は木製なのに、この方の投擲パワーが勝ったらしい。
しばらくして、遥か下界で壮絶な破壊音がした。
……割れたガラスが、粉雪のように部屋の中と外に落ちる音と、壁の石ブロックが落下して砕ける音も。
「う、うわあ……」
たちまち隙間風が入りまくりの部屋で、俺は震撼する。
つか、俺の頭上に結構、でっかい穴が開いちまった。どうすんだよ、これ。
人の気も知らず、マヤ様は憑き物が落ちたような顔でひたひたと俺に近付き、眼前にしゃがみ込んだ。
逃げるか宥めるか迷う俺の頬にそっと手を当て、こつんと額と額をぶつける。
「……ばか」
なんだか切なそうな声音でそう囁くと、そのままずるずると体勢が崩れ、俺の身体に倒れ込んできた。
「ま、マヤ様?」
そっと揺すって見たけど……もはやマヤ様は熟睡していた。俺に抱き付くような格好で。
正直、だいぶほっとしたな。
けど……当然、俺の今晩の受難はこれで終わらなかった。
今度は廊下の方から人の駆ける音がして、たちまちノックの音……どころか連打の音がしたからだ。
「マヤ様っ、ジャスミンですっ。今の音は一体――ご無事でしょうかっ」
「いや、問題ないです、はい!」
俺は慌てて叫び返した。
「ちょっとした事故でして、ええとマヤ様の身の安全には」
「どうしてマヤ様の声がしないのですっ」
おっかぶせるようにジャスミンの声が叫び返す。
「今すぐドアを開けますっ」
言うなり、鍵穴に鍵を差し込む音がっ。この人、鍵持ってんのか!
そりゃ不思議はないだろうけど。
万策尽きてあわあわするうちに、あっさりとドアが開き、真っ先に抜き身の剣を持ったジャスミンが飛び込んできた。




