意外と敏感
仲間と談笑して食事を共にしたりするうちに、夜になった。
早めに寝ておけとマヤ様から言われていたが……俺は休む時間になると、むしろ魔王城の上の階目指しててくてくと上がっていった。
別に階段使わずとも機械式エレベーターがあるけど、アレにはいい思い出ないからな。
当然、目的地は最上階――の一つ下の階にある、マヤ様の私室である。
階数で言うと十二階だ。
でもって、十一階まで上がるとそれこそ山のように護衛の衛兵がいて、厳重に警戒していた。
うむ、よしよし……こうでなくてはな!
いや、警戒度を上げるように指示を出したのは、実は俺なんだけど。
「ご苦労さん、異状ないかな?」
「ははっ」
声をかけた若者は、驚いたような顔で俺を見た。
おっと……この刀傷の若者はどっかで見たなと思ったら、魔王城の突入まで一緒だったヤツだ。
奴隷の護送中を襲って、俺が仲間にしたヤツだよな。
「戦士将様はどちらへ」
もう昇格の話が伝わっているのか、彼はやけに眩しそうに俺を見た。
「ああ……マヤ様に用事があってちょっと。それよりさ、当然ここだけじゃなくて、最上階の十三階にも護衛を入れてるよな?」
「もちろんです。ご命令通り、ネズミ一匹入れません」
「うん……ありがとう。それとご苦労様」
俺は笑って頷き、そのまま上がっていこうとする。
と、まだ名前も知らなかった彼は、いきなり呼び止めた。
「戦士将様!」
「……ナオヤでいいよ。どうかした?」
「いえその」
随分と言いにくそうに考え込んでいたが、やがて彼は決然と顔を上げた。
「ナオヤ様は、明日また、なにかの作戦に出立するそうでありますが……もしよろしければ、自分もお連れくださいませんか」
俺が首を傾げると、慌てたように言葉を費やす。
「いえっ。別に城内の警備が嫌なのではなく、つい最近まで、図らずも裏切り行為を働いていたのが心苦しく、できれば何かのお役に立ちたいのです」
また実に優等生的なことを言うヤツである。
手抜きが多い魔族軍の兵士にしては、得難いヤツかもしれない。
「う~ん……かなり危険な任務だし、死ぬかもしれないんだけど。いや、むしろ自殺志願も同然の気がするんだがな」
一応、どかんと脅しておく。
「覚悟の上です!」
即答かい。俺なら迷うけどなぁ……まあ、マヤ様関連「以外」の任務なら。
「わかった。ならついてきてもいいけど、マヤ様の許可が出たらね」
「いえっ」
若者は、なぜか嬉しそうに首を振る。
「実は数時間前、ダークプリンセスがここをお通りになった時、自分は同じことを申し上げたのです。するとあのお方は、『万事、ナオヤに任せてあるから、ナオヤに言うがよい』と仰いました」
「へぇ……マヤ様が? 俺に任せるって?」
「はい。それどころか、『将来的には、魔族軍の人事を含めてナオヤに任せるつもりでいるから、今のうちから慣れるがよいぞ』と申されていました」
「お、俺がかぁ?」
呆れて自分の顔を指差しちまったよ、俺。
いくら戦士将に昇格たって、単なる将軍格の一人だと思うけどなぁ、まだ。
だいたい俺、未だに下っ端気分が抜けてないし……あと、魔王陛下が戻ったら、この昇格だってどう転ぶかわからんのだ、真面目な話。
などとすかさずネガティブなことを考えたが、しかしマヤ様のご信頼は嬉しい。
というわけで、気前よく了承することにした。まあ、本当に危ない場面は他人任せにしないつもりだし、ついてくるくらい、別に問題なかろうさ。
「いいよ、じゃあ朝九時に魔界の門に集合だ。巡回任務が入ってるようなら、上官に断っておいてほしいけど」
「ははあっ。ありがたき幸せっ」
うわ、平伏しやがったぞ、こいつ。
やめてくれよ……気色悪い。
だいぶドン引きしたが……なぜか若者の後ろの方でこの様子を眺めていた他の衛兵達がどっとこっちに迫ってきたのは驚いた。しかも、みんな同じこと言いやがるんだな。
「ワタクシもぜひ連れて行って(以下略)」みたいな。
だから、死亡率高いっつーのに。
……いきなり立場変わると戸惑うよ、ホント。
それでも何とか自殺志願の若者達を宥め、俺はようやくマヤ様の私室がある十二階に上がった。
当然、この階にも護衛はいるが、階段の下の踊り場までなので、ただっ広い大理石張りの廊下には、もはや誰もいない。
どうせこの廊下には窓もないし、そこまで警戒する意味はないんだな……普通なら。
んで、俺は突き当たりのマヤ様の私室の前まで抜き足差し足で進むと、そぉおおっと音を立てずに座り込んだ。
……別に覗こうというのではない。
単なる護衛である。普段はともかく、今はなるべくマヤ様から目を離さない方がいい。
というわけで、ここで寝ずの番をするつもりだったのだ。
自分で言うのもなんだが、昔なら徹夜とか絶対にご免だったんだが……人間、目標ができると変わるもんだ、良くも悪くも。
もちろん、今の俺の目標兼最優先事項は、マヤ様の身の安全である。
というわけで、体育座りして刀を抱えたまま、静かに目を瞑った。
……待機して十秒で思ったね。
あえて言おう、ブランケット(毛布)持ってくれば良かったと!
忘れたものはしょうがない……今晩一晩くらい、気合いでがんばるか。
どうせ明日はまた帝都を出るんだし。
そう思って朝までの長丁場に備え、得意のエロ妄想など始めた俺だが……なぜか五分もせずに、どばんっとドアが開きやがった。
「無礼者めえっ、この夜更けに何者か!!」
「おわっ」
クソ力でドアが開いた弾みで思いっきり吹っ飛ばされ、俺は転がった。
おまけにいきなりドヤされて、チビりそうになっちまったよ!
しかもこの人、もう例のごっつい剣を振り上げてるし。
「お、俺です俺っ。二つ割りはご勘弁!!」
慌てて喚いた俺である。




