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救出作戦発動




「今更、何を遠慮することがある? 言ってみるがよいぞ」

「では、お言葉に甘えましてっ」

 マヤ様が興味津々で答えてくれたので、俺は意を強くして言った。


「この際、レイバーグを救い出しましょう!」


 ……おろ。

 なんかこう、嫌な沈黙が。

 いや、沈黙だけならまだしも、カシムとマヤ様の表情がすげーこう……呆れたというか、絶望的なんですが。


「何が悲しくて、最大の敵を救い出す必要があるのだ」

 渋柿を囓ったような顔をしていたマヤ様が、やっと答えた。

「そこが間違いですよ!」

 俺はここぞとばかりに声を大にする。

「現状、我々の最大の敵は、レイバーグなんかじゃない。リベレーターですっ。あんなのが数を頼んできたら、さすがの魔界もヤバいですって」

「まあ、あの赤毛女がなかなかの実力であることは認めるが」

 マヤ様は渋々頷く。

「しかし、それとレイバーグ救出がどう繋がるのか」


「あいつは、おそらくリベレーターに関する何かを知っています。ベルグレム王から得た知識かもしれないけど、それでも多分、魔王陛下から聞いたばかりの俺より詳しいような気がします。となれば、ヤツらがどこからどうやって来たのか、知っている可能性もある。それさえわかれば、逆に対抗手段も見つかるかもです」


 ファルシオン伯の家臣のリューゲルや、間諜を使った諜報活動の時も、俺はリベレーターのことはマヤ様の耳に入れなかった。

 だからもちろん、この話もマヤ様は初耳のはずである。

 実際、少し興味を持ったらしく、やや身を乗り出した。


「すると何か、父上だけではなく、敵国の王もリベレーターについて知っていたのか。……なぜ父上はマヤにお話しくださらなかったのか」

 うおっ、なかなか鋭い質問がっ。

 もちろん理由はあるんだが……それは俺が勝手に話していい秘密でもないんだよな。口止めされてるし。リベレーターについては話しちまったけど、さすがにこれまで話すわけにはいかないだろう。

「まあ、それは魔王陛下が戻られてから、お尋ねください」

 しょうがないので、俺は素早く逃げを打った。

 鋭いマヤ様は不審そうな目つきで、何か言おうとしたが――。

 幸い、何やら考え込んでいたカシムが、タイミングよく割って入ってくれた。

「わしが把握したところでは、こういうことですかな? レイバーグを救い出し、リベレーターの秘密を聞き出して、ヤツらに対抗すると?」



「そういうことです!」

 俺は大きく頷く。

「今までの断片情報を総合すると、ヤツらも俺のように召喚されて他の世界から来ているらしいんですよ。となれば、逆にこちらへ来る手段を塞いでしまう手もあるかもしれない。レイバーグがその方法を知っていたら、大いに助かります」

「しかし、それはあくまで可能性の話だ。ナオヤの期待と違い、レイバーグは詳しいことは何も知らない可能性もある。違うか?」

「違いません」

 両腕を広げ、俺は哀愁漂う笑みを広げる。

「しかし、我々は最低でも、既に二人来ているリベレーターの相手をする必要があります。エスメラルダとやり合った俺だから言うんですが、もしヤツらと戦うなら、せめて少しでも対抗できそうな戦士でないと喧嘩にもなりませんよ。レイバーグは、その数少ない一人でもあります」


「そうは言うが、レイバーグは既にリベレーターの片割れと戦い、敗れているぞ。善戦して敵を追い払ったナオヤとは違う」


 マヤ様は絵に描いたような懐疑的な顔で言う。

 つか、俺は善戦したと言うよりは、時間切れで救われた感じなんだが。

「そんな男に頼るくらいなら、数を頼んで対抗した方がよくないか」


「こっちの動きが静止して見えてるような相手だと、向こうが先制してきた時に危険ですよ。敵が、俺達の戦術に合わせてくれる保証はありません」

 というより……実は俺はマヤ様が心配なのだな。

 この俺でさえ、なんだかんだ言って魔王城に潜入できたわけである。

 あんなとんでもない女がもしその気になれば……それこそ易々と入ってくるだろう。となれば、マヤ様の身が危ない。

 ファルシオン伯のように暗殺される危険を無視できないのだ。


「マヤは馬鹿イトコ殿とは違うぞ……簡単に殺されはせぬ」


 いきなり囁かれ、俺は飛び上がりそうになった。

「な、なんで俺が考えてることがっ」

 フォースの暗黒面でも使ったんですか!


「ふふ……ナオヤがマヤの心配をしている時は、顔に出るからすぐわかる。ナオヤの表情はわかりやすい」


 あんまり普段は見せないような微笑で、マヤ様が目を細める。

 そっと二の腕に触れてきたりして、妙に緊張する場面である。いや、俺が悪照れしてる方が大きいかな。

 あと、カシムが馬鹿みたいに口開けて、ポカンとこっち見てるし。

 そこまで驚くなよ……マヤ様だっていつも怒鳴ってばかりじゃないさ。

「そ、それなら話は早いじゃないですか。ここはぜひ」

「うん、わかった。ナオヤがそう言うなら、その策を採ろう」


「えっ」

「なんと!」


 俺とカシムの声がぴったり重なった。

 いや、なんかあっさり聞き入れられて、返って驚いたね! 最初の感触だと、だいぶ説得に時間かかりそうだったのに。

「レイバーグを救い出し、情報を得る。まあ、理屈としては合っているし、ナオヤの言う通り、リベレーターとやらの対抗策が見つかる可能性もある。何もせずに座して敵を待つよりはよい」

 ただし――とこの方は悪戯っぽい顔で続けた。


「その救出作戦にはマヤも同行する。これが条件だがな」


「むう」

 半ば予想していたにもかかわらず、俺は唸ってしまったが。


 しかし……今回に限って言えば、城で留守番してもらうより安心できる。俺が離れている間にあのクソ女がまた来たらたまらんからな。言っちゃ悪いが、魔王陛下が不在の今、この城にマヤ様を守れそうな戦士はいない。それなら、いざとなれば相打ち覚悟の俺といた方がまだマシである。

 というわけで、俺は恭しく低頭し、言った。


「わかりました。では、準備ができ次第、すぐに出発しましょう」



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