表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/317

後が怖い出世

 

 当然、俺はすぐに窓に飛びついて下を見たが……既に華麗に地上に着地して、どこかへ遁走とんそうしていく最中だった。

 しかも、その速いこと速いこと! 100メートルを3秒くらいで走ってないか、あの女。




「リベレーターか……嫌なヤツを逃がしたなぁ」

「ナオヤっ」

 感慨にふけっている俺の腕を取り、マヤ様が珍しくそっとこちらへ向ける。

「怪我をしているではないか、大丈夫なのかっ」

 やたらと不満そうに畳みかける。

 いや、これはもしかして……不満じゃなくて不安かな……まさかと思うけど。

「あ、いえ……こんなの後でエルザかネージュに治してもらえば」

「それより、カシムの配下にも魔法使いくらいいるであろう。カシムっ」

 マヤ様が呼ばわると、全身に返り血を浴びたカシムが飛んで来た。


「ははっ。すぐにナオヤ殿の治療を命じまする!」

 言うなり、配下に「魔法使いを連れてくるのだっ」と命じていた。

 ……おっさん、すっかりマヤ様を主君扱いだなぁ。

 まあ俺としてはほっとするけど……て、あれ……あれれ。

 俺はなぜか頭がくらくらして、そのままずるずると壁にもたれ、床に座り込んだ。

 慌てたマヤ様が、さっと同じくしゃがみ込む。俺の顔を覗き込み、うるさく騒ぎ立てた。

「どうした、怪我は大したことないと言ったではないか! まさか、急所をかすりでもしたか」

 大慌てで俺のシャツを豪快に破こうとする。


「いやいや、大丈夫、大丈夫ですからっ。つか、脱がさないでくださいよ!」


 て、貞操の危機みたいじゃないですかっ。

「姫様、これは違いますぞ。わしにも覚えがありますわい」

 カシムも俺に口添えして、マヤ様に申し出てくれた。

「生死の境を越えた時、よくこうなるのですよ。臨戦状態を抜けて安堵したせいで、身体がいきなり休息を求めているのでしょう」

 いや、この人も気を遣うことがあるんだなぁ。

 腰を抜かしたと言った方が早いのに、そんな言い方するし。


「そ、そうか、ではマヤが寝室まで運んでやろう。ちょうど、奥に父上の寝室もある」

「いえいえ、とんでもないっ」

 俺は焦って、無理して立ち上がる。マヤ様にお姫様だっこされるのとか、勘弁な。

 つか、足がふらついた。出血のせいもあるな、これは。

「ベッドくらい、その辺の控えの間にあるようなヤツで十分ですし」

 一般兵士の目もあるんで、気を遣ってそう断言しておく。今後、マヤ様は下手したら魔界の王者になっちまうかもしれないしな……皆に妙な噂でも立てられたら申し訳ない。


「カシムさん達はこのまま制圧を続け、魔王城を我々の手に取り戻してください」

 というわけで、断固として自分から部屋を出ようと歩き出した――が。

 たちまちカシムやマヤ様が追いすがり、俺を左右から引きずるようにして部屋から連れ出した。


 ……なんかもう、FBIが捕まえた宇宙人写真みたいな構図だな、これ。







 どうやら俺は、翌日の昼過ぎまで眠っていたらしい。

 というのも、次に目が覚めた時は、カーテン越しに外がすっかり明るくなっているのがわかっあからだ。

 城内のサロンに付属した寝室で休んでいたんだが、広すぎるベッドに起き上がった途端、ミュウが手で支えてくれた。


「まだご無理をなさっては」

 そういやベッドに倒れ込む前に、出荷場に潜入したはずの、ギリアムやミュウ達を出してくれるように頼んでおいたのだった。

 ……それはいいけど、なぜかミュウはいつものプラグスーツみたいな格好じゃなくて、ちゃんとコルセットドレスなど着ていた。

「ミュウがこっちの服を着ているのを見るの、初めてかもなぁ」

「彼女――いえ、ダークプリンセスが、普通の服装をせよと言われるので」

 どことなく不満そうにミュウが言う。

 いつも穏やかなこの子が、こんな顔をするのは珍しい。


「……てことは、もう魔王城はこっちの手に戻った?」

「はい」

 ありがたいことに、ミュウはしっかり頷いてくれた。

「わたしも後から伺っただけですけど、カシム戦士長がダークプリンセスについたことで、ファルシオン伯の部下達は全員が、逃げるか降伏したそうです」

「そうか……ちょっと安心したかな……て」

 それはともかく――ミュウが座る後ろの方に、メイドさんの格好をした誰かがひざまずいているのに気付いて、俺はぎょっとした。

「な、なにかな、あの人」

「それが……先程来たのですが、『ナオヤ様がお目覚めになるまで、お待ちします』と言って、動かないんです」

「ええと、なにか俺に用でも」

 謎のメイドさんに声をかけてみる。


「はい……伝言がございます、ナオヤ様。お目覚めしたら、すぐに伝えるようにとの、ダークプリンセスよりのお言葉です」


 やたらとうやうやしい態度で、彼女は言う。

 なぜか、顔すら上げなかった。

「マヤ様の……? 俺、また何かやらかしましたかね」

 恐る恐る訊くと、静かに首を振られた。



「おそらく、逆ですわ。ダークプリンセスがつい先程、臨時の軍議を開き、今回の帝都での戦いにおける論功行賞ろんこうこうしょうを発表なさいました。その結果、ナオヤ様は今後、戦士将に昇格となったよしにございます」

「へー……そりゃまた……急な出世……て」

 待て、ちょっと待て!




「戦士将! 戦士将って言いました!?」


 メイドさんが一層頭を下げて頷くのを見て、俺は肝が冷えた。

 戦士将ってあんた……確か俺の乏しい知識からすると、魔界の序列でも上から四番目くらいだぞ。その上と言ったらもう、大師と神将と魔神将しかいないし!

 もちろん、支配者である魔王陛下とマヤ様を除いて。

(マヤ様は次期魔王なのに加え、陛下ご本人の思し召しで、日頃から魔王とほぼ同格扱いである)


 途中の階級を……え~と……うわ、七階級くらい飛ばしてるよっ。


 軍曹がいきなり中将になったようなもんだっ。

 声もなくあわあわしている俺は、なぜか喜ぶ前に冷や汗がどっと背筋を伝った。

 ミュウなどは輝くような笑顔で、「ナオヤさんの立場が強化されて、嬉しいですっ」と子供のように喜んでくれたが。

 俺はひたすら焦っていた。


 いやだって……これは、各方面からガンガン苦情と嫉妬が寄せられそうやん?

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ