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こいつもか!


「驚いてるようね……まあ、君って普通の人間にしては反応が悪くないものね。でも、リベレーターと人間じゃそもそもの反応速度が」


「それがどうしたぁああっ」

 自慢話の途中で、俺は思いきって踏み込む。

 完全に相手を殺す気満々であり、最初から急所しか狙わなかった。

 しかし……これも同じだった。必殺の斬撃はあえなく空を切り、赤い戦闘スーツが一瞬ブレてその場から消える。

 そして次の瞬間、あらぬ方向から殺気を吹きつけてきた。

 正味、この「殺気」のお陰で、俺は辛うじて避けられたようなものだ。


「くっ」


 そっちを見もせずに気配と殺気のみに反応し、俺は床に身を投げる。下が絨毯敷きで、この時ほど有り難みを感じたことはない。

 二度ほど転がってソファーにぶつかり、そこで夢中で立ち上がる。


「うおっ、いないし!」


 ささっと見たところ、誰も周囲にいなかった。

 その割には背後にもいなくて――などと考えている途中で、俺は単なる勘でその場から横っ飛びに飛び退く。

 いや、別に深い考えがあってのことではない。

 短時間で姿が消えたってことは、上にいるんじゃないかと……勝手にそう思ったからだが。

 結果的に、このその場しのぎの行動が、また俺の命を救った。



「――! つうっ」

 完全に避けきれずに肩口を浅く斬られ、俺は思わず呻く。

 飛び退いたちょうどその瞬間、上から急降下してきたエスメラルダが半回転して豪快に斬りつけてきやがったのだ。

 つまり、このとんでもない女は、俺が転がってる間にホントに天井近くまでジャンプしくさっていたらしい。

 ここの天井、十メートルくらい上なのにっ。


「なんて跳躍力だよっ」

 左の肩口からだらだらと血を流し、俺は凄惨な笑みを浮かべる。

「ははは、こりゃだいぶ……ヤバい感じ――うおうっ」

 楽しそうにそのまま身を翻して斬りかかってきた彼女と、俺は慌てて斬り結ぶ。

 二合、三合、四合――襲いくる剣撃は鋭く、どうしても攻勢に転じる機会を掴めない。結果的に守勢に回ってしまった。


 広い室内に剣撃の派手な音が鳴り響き、魔法剣同士のせいか、激突する度に軽い閃光が走った。

 最後に横殴りに叩き付けられた剣撃に容易く身体が浮き、俺はまたもや室内を滑空してころころと転がる。

 受け身は取ってるけど……傷口がさらに大きく開いたやんけ、くそっ。


「いってぇ」

 こぼしつつもすかさず起き上がる俺を見て、エスメラルダは息を吐いた。

「あぁ~あ……人間としてはいい才能してるのに……もったいないわね」

 肩で息をする俺を見て、しかし次の瞬間、残忍な笑みを広げる。

「でも、そろそろ限界が見えたかな。というわけで、この辺りで終わりにしてあげましょう。多分、次のは避けられないわよ……本気で行くから」

「けっ。遊び半分で剣を持つヤツは、最後は必ず死ぬんだよ。肉の盾として初めて配属された時、俺の先輩がそう言ってたぜ」

 ――その先輩も半年後に戦死したけどな! というマジ話は言わずにおく。

 俺もこの調子だと、先が見えたか?


「でも……あんただけは、何が何でも道連れにしてやるっ」


 ていうか、覚悟はともかく、さっきまで聞こえていたドアをガンガン斬りつける音が今はしないんだがっ。どうなってんだ。

 などと気にしてるうちに、けらけら笑いながらエスメラルダが剣を持ち上げた。

「まあ、がんばってみなさいなっ」

 言下に、エスメラルダが駆け出そうとする。




 ――その時である、いきなり開いた窓からマヤ様が飛び込んできた。


 ロープが揺れるのが見えたんで、おそらくあれで屋根から強行突入してきたらしい。さすがはマヤ様、手段を選ばないっ。

 しかもすとんと音もなく着地した瞬間、もう自慢の大剣を手にしている。

「ナオヤ、加勢するぞっ」

 大喝して、いきなり超でっかい漆黒の剣をエスメラルダの頭上に振らせた。


「――っ!」


 惜しかった、実に惜しかった!

 つか、掛け声がなきゃ、決まってたかもしれないのにっ。

 せっかく有利な背後にいたのに、黙って斬りかかりましょうよ、黙って!!

 今度はエスメラルダが床に身を投げ、代わりに真紅の髪が何本か宙に舞った。ドガッと豪快な音と共に、床に大剣がめり込む。


小癪こしゃくなっ」


 その大剣をマヤ様が力任せに再度持ち上げるのと、後方回転して跳ね起きたエスメラルダがキッと睨むのが、同時だった。

「やったわね! おまえから死ぬがいいっ」

 その瞬間、またエスメラルダの真紅のスーツが霞む。

「させるか、ちくしょうっ」

 ここで黙って見てたら、ただの阿呆である。

 俺は何の策もなく、とにかくエスメラルダに突っ込む。

 しかしその瞬間、やっと……本当にやっと……あの待望の感覚が俺を支配した。マヤ様の危地を見て、どうやらようやく発動してくれたらしい。

 時が止まったような世界で、俺は一人で歓喜の声を挙げる。


「よしっ。見てろよ、このクソ女!」


 仕返しのごとく、相手の肩口に切りつけようとしたが……以前、あのレイバーグに斬りかかった時と全く同じだった。

 息を吹き返したように相手が反応し、俺の斬撃を見事に受けやがった! 

 俺の奥の手、使えるヤツ多すぎだろっ。

「誰がクソ女よっ」

「――やっぱり世の中、甘くないなあっ」

 俺は八つ当たり気味に喚き、そのまま体重をかけて相手を弾き飛ばす。

 無理な体勢で剣撃を受けたせいか、さすがのエスメラルダもよろめいて何歩か下がった。

 

「ナオヤ殿ぉおおおっ!」


 そこへ、今度は野太い声が部屋中に響いた。

 見れば、戦士長カシムがロープを使い、マヤ様がやったように窓から飛び込んでくるところだった。そして、他にも後続が次々に……全員、彼の配下の魔界の正規兵士だ。



「よっしゃ! て、待って待って!!」

 歓喜の声を挙げる前に、俺は慌ててマヤ様に飛びついて腕を引く。

 いやだって、この間にも斬りかかろうとしてるし、この人! 油断も隙もないなっ。


「ふん……寿命の短い人間のくせに、悪運の強いこと!」


 最後にエスメラルダが俺を睨み、唇を歪めた。そのまま身を翻して窓へと走る。

「あ、待てっ」

 ようやく彼女に気付いた一人が、逃走を阻止しようとした――が。

「邪魔!」

 叱声と共に剣撃が一閃し、不運な兵士は血飛沫と共に倒れてしまう。


 彼女はそのまま、一気に窓から跳躍した。


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