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『私はあなたが嫌い』  作者: Tone
本編
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第6話

 私たちはそれから転々とアジトを変えていった。変えていったアジトのなかにはアジトと呼べるのかわからないほど寂れた小屋や、雨風だけがなんとか凌げるくらいの穴の時もあった。大人たちは死人のような顔色がますます酷くなり、子供たちも疲労が溜まっているのが目に見えてわかる。最近はご飯もろくに大人たちに回して貰えない。こういう時に真っ先に衰弱するのは小さい子供だ。何度も何度もアジトを変えるほど、子供たちの足取りがふらついて定まらなくなっている。私はできるだけ多くの荷物を持ち、子供たちの負担を少なくしようとしたが、結局は私も子供で大した役にも立てなかったようだ。


 男の子が一人死んだ。


 やせ細って、腕なんて握れば折れてしまいそうだった。せめて、よく眠れるように他の子供たちみんなで地面に穴を掘って男の子を埋めた。できれば、埋めたところに名前を書いてあげたかったが、私を含めて子供たち全員文字が書けない。それにこの男の子は名前がない。仕方なく、男の子を埋めた場所がわかるように石を置いた。


 石を置いたとき、大人が私たちの下に来た。また、場所を移動するようだ。子供たち全員で荷物をまとめ始めた。


「がんばったね」


 最後にそれだけを男の子の埋まった場所に向かって言って、私も移動する準備を始めた。


 準備が整った後、また大人たちと一緒に移動を始めた。この移動がどのくらいかかるのか気になった。あまりにも長いのならば子供たちがもたない。子供たちの限界なんてとうの昔に過ぎているのだから。


 私は大人たちにこの移動がどれくらいかかるのかを聞いた。そしたら、大人たちは「すぐだ」と機嫌良さそうに答えてきた。あれほどまでに死にそうなだった大人たちの機嫌の良さを不思議に思うも、移動がすぐ終わるという事にほっとした。


 それから二時間ほどの移動した。着いた場所は一面鬱蒼と生い茂る草原だ。そこに待ち構えている者たちがいた。私たちと同じコクジンだが、私たちと違って清潔感のある小奇麗な出で立ちだ。そのうちの一人はスーツを着ている。また、彼らの隣には軍が使いそうなトラックまである。


「トラックの荷台に乗れ」


 それが大人たちの言葉だった。無感情に放たれた一言。子供たちはぽかんとした表情になった。どうして知らないコクジンのトラックに乗るのかわからなかったのだろう。


 そうか、私たちは売られたのか。


 子供たちとは違い、私はすぐに理解した。こんな状態で『気高き戦士』をやっていくなんてできないのだ。今となっては毎日の食事ですら危うい。子供は兵士としては安くて使い捨てできるが、それをしないならば、ただの金食い虫にしかならない。要するに、こんな金食い虫のお荷物を売って金にしようという事だ。


 私は呆けている子供たちに乗るように促したところ、荷物は置いて行けと大人たちに言われ、荷物をその場に置いていく。だけど、ウエストポーチだけは置かなかった。これだけは手放したくない。なかには、いつもどおりタバコ、ライター、そしてあの拳銃も入っている。大人たちに何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。何も入っていないと思っているのだろう。


 私たちがトラックの荷台に乗った後、大人たちはお金をもらったようだ。声からして思ったよりも多くもらえたみたいだ。取引を終えてスーツを着た男が乗り込んできた。


「君たちは私が買い取った。これから、君たちにはいろいろと協力してもらう」


 堅苦しい話し方だった。私たちに話すというよりも何かを声を出して読んでいるという感じだ。たぶん、このスーツの男は鼻から私たちを相手にしていない。このスーツの男にとって私たちは子供という商品なのだろう。


 子供たちがとても不安そうにしているのが目に映った。私は「大丈夫」と言いながら子供たちをなだめた。スーツの男は表情も変えずに私たちの様子を見ている。まるで物を見るかのような目だ。でも、そんなことはよくあることなので気にはしない。


「では、目的地に着くまで大人しくしていろ」


 そう言い残すとスーツの男は荷台から降りていった。代わりに、武装したハクジンが数人乗り込んできた。私はぎょっとして目を見開いた。子供たちも突然のことで脅えている。私たちが来た時には見かけなかった。どこかに隠れていたのだろうか。ウエストポーチに手を当てて身構えるも、ハクジンたちは何もせず荷台の降り口に腰を降ろしただけだった。ハクジンたちが何かしてくる様子はない。スーツの男の仲間であるようだ。ただ、私たちが逃げないように降り口を塞いだだけみたいだった。私は子供たちが少しでも安心できるように子供たちの前に出て座った。ハクジンはそれに動じることなく、チラッと私を見ただけだ。それからトラックが動き出した。


 私たちはどこに行くのだろう。また、場所を変えて戦うのだろうか。しかし、ここに武装したハクジンがいる。私たちよりはるかに戦えるだろうハクジンが。戦うしかできない私たち少年兵が何で買われたのかまるで検討がつかない。ただでさえ、スーツを来たコクジンと武装したハクジンという組み合わせに戸惑っているというのに。


 考えたところでわかるはずもなく、ただ今の状況を静かに見守ることしかできない。これからどうなるかなんて、私たちを買った者たちしか知らないのだから。私はいつものように流れに身を任せて、できれば前よりも良い環境になることを願った。


 トラックが着いた場所には大きな白い建物があった。とても広い敷地にたくさんの建物が並び建っていた。周りが草原であることから、ここだけ世界が違うかのようになんというか浮いていた。ここは何をする所なのだろうかと考えていると、トラックが止まり、スーツを来たコクジンに降りるように言われた。今まで経験したことないことに心の中では不安であったが、それを子供たちに見せないようにできるだけ堂々としてトラックから降りた。子供たちも私を見て、そろそろとトラックから降りる。


 全員が降り終えた所で、周りを見ると目の前にはひと際白くて大きな建物があった。周りの建物も大きいがこれだけは別格だと思えるほどだった。それに、他の建物より清潔感が漂う。


 建物の前には白い服を来た男たちがいて、コクジンとハクジンが混ざっていた。その光景だけでも違和感を覚える。私たちは白い服を来た男たちに連れられて、後ろには武装したハクジンに見張られながら、その白い建物へ足を踏み入れた。


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