第5話
新しいアジトに無事に着くことができたのは二日後のことだった。本当ならもっと速く歩けば一日で着くはずだったが、太ったコクジンが足が遅い上にごねてしまったので、休憩を多くとることになってしまって遅くなった。
前のアジトよりも小ぢんまりとしたアジトに着いて、逃げ切れたのがどのくらいか確認したが、子供たちは数人になってしまった。しかも、大人たちも今回の襲撃でほとんどいなくなってしまい、残り数人だ。もう『気高き戦士』は組織としてやっていけない。子供たちも直感的にそれがわかっているのか不安そうに周りを窺っているし、大人たちは顔面蒼白を通り越して死人のようだった。
それでも、これからの予定はこのアジトで翌朝まで待って、また別の場所へ移動する。このアジトは所詮人の足で一日でいける距離しか前のアジトから離れていない。翌朝まで仲間がここに来るのを待って、来なければ見捨てて行く。
私を心配してくれた男の子が来てくれたらと思った。彼はここにいない。それに襲撃があった時、彼は見張りだった。ここに来る可能性は低い。それでも来て欲しかった。とても優しい子だったから。生きていて欲しい。私を心配してくれた彼に受け継いで欲しかった。あの拳銃を。
翌日の朝、男の子は結局来なかった。起きてから子供たちの人数を確認したが変わっていなかった。もしかしたら外にいないかと外に出てみたら、でっぷりと太ったコクジンが死んでいた。
誰かわからないほど顔が腫れ上がっている。顔がわからなくても、これだけ太っていれば体格だけでわかる。
大人たちにリンチされたのかもしれない。なんでこの黒人をリンチするのかはわからないけど。
大人たちの行動は不思議だ。利益とか、信念というものが大事らしい。他にも政治とか経済も大事だと言っていた。私はその言葉は知っていたけど、それがどんなものかは知らない。でも、今のこの国はそれがうまくいっていないということを大人たちが言っているのを聞いたことがある。
私は黒人の服のポケットを探った。財布とかアクセサリーとかはなかったが、タバコだけは見つけられた。大人たちが見つけられなかったのか、それとも開いていたからお金にならないと考えたか。どっちにしろ、タバコを手に入れられたのは嬉しい。ちょうどタバコが切れていたのだ。今回の報酬も襲撃でうやむやにされてもいたのだし。
一本取り出して口にくわえる。ウエストポーチからライターを取り出してタバコに火をつけた。そのまま、でっぷりと太ったコクジンをここまで連れて来たのを無駄にされた鬱屈とした気分を入れ替えるために大きく吸い込んだ。肺の隅々まで行き渡るのを感覚して、勢い良くふぅーっと吐き出した。
気持ちいいーとぼんやりと朝焼けの空を眺める。あの子の姿はない。いたのは見張りをしていた女の子だけ。壁にもたれて、眠たそうにうとうとしている。本当ならば怒らなければならないけれど、昨日の事もあるから、このまま寝かせてあげようと寝床に運ぶために女の子をおんぶした。女の子はおんぶされるとすぐに寝入ってしまった。その様子に少し頬が弛んでしまった。
女の子を背負ったまま外の荒地へと目を向けるが誰も来そうになかった。あの子はやっぱり襲撃で死んだのだろう。なんの珍しい事でもない。
今も寝ている子供たちの中にあの拳銃を受け継いでくれる子はいるだろうか。それは私の決める事でもないのだが、誰かに受け継いで欲しいとは思う。心配しなくとも、きっと私が前の持ち主の女の子から受け継いだように誰かに受け継いでもらえるだろう。
女の子の寝息を聞いて、考えている事を中断する。今やる事はこの子を寝床に運ぶ事だ。荒地から目を離し、体を反転させて、女の子がずり落ちないように背負いなおしながら寝床へと戻った。