第4話
耳に残るような乾いた銃声と水を撒き散らすような音が部屋に浸透した。私は兵士の手が落ちるのを気にせず兵士の覆面を剥ぎ取り、ハクジンである事を確認して立ち上がる。
すぐさま、ベッドの横にあるタンスを開く。タンスから現れたものはありとあらゆる銃火器。この部屋がアジトの奥に位置しているので立て篭もりなどを考えて武器が溜め込んである。
そこから、小型の空中散布地雷を一つ手に取って、急いで部屋の真ん中に設置して、兵士の体を引っ張ってきて地雷の上にかぶせた。
コクジンの男は「早くここから逃がせ!!」と喚いている。私はそれを無視しながら、荷物を置いた部屋の隅に行き、一枚服を着てから、小銃、ナイフ、ポーチを装備してから信号拳銃を取り出す。
部屋の窓から信号拳銃を放つ。信号弾がきれいに夜の空に撃ち上がった。この信号弾は撤退して次のアジト予定地に集合という指示だ。子供たちの間だけで決めた私から他の子供たちへの指示。信号弾を見た時は可能な限り行うように言ってある。ただ、その場に大人がいる場合は大人たちの指示に従うという事になっているが。
先ほどの兵士がハクジンという事から、今回の襲撃はハクジンによるものとわかっている。ハクジンの兵士は一様に強い。特に襲撃してくる兵士の強さは私たちの比べものにならない。洗練された動き、銃撃の腕、小隊の連携のどれを取っても、私たちより上だ。そんな兵士に私たち子供が太刀打ちできるはずがない。まともに正面から撃ち合えば、必ず負ける。
だからこその撤退の指示。無線機を配布されていない子供たちが生き残る事を願って。
信号弾が撃ち上がったのを見て、コクジンの男が「何をしているんだ!!」と怒鳴り声を出した。さっきから煩い。少しだけ苛立ちが募る。
これからの逃走経路を考える。とりあえずはこの部屋を出なければならない。外に出さえすれば、いくらでも逃走ルートは用意されている。兵士が入ってきた扉と信号弾を撃った窓は使えない。もう一つ、兵士が入ってきた扉とは逆方向に扉はあるが、ハクジンの部隊がこのアジトの間取りを把握してないとは考えられない。
兵士が持っていた小銃を拾う。それを構えて、弾装に残っている弾を全て床板に向けて撃った。男は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。ぼろぼろになった床を踏み抜いて、でっぷり太ったコクジンでも通れるような穴を開けた。
「穴に入って・・・・・・」
言葉短く、男に言った。立場が逆転している事から男が不服そうな表情になったが、「敵が来る」と一言付け加えるとたちまち恐怖に縮こまり、素直に穴に入っていった。
床下から逃げる。それしかなかった。もし、これで敵と鉢合わせしたら終わりだ。だけど、それはないだろうと踏んだ。正面からやればハクジンの勝ちなのだから、わざわざ床下を張るとも思えない。
穴の周りに簡易地雷を二つほど置く。ベッドからシーツを取って、私は注意しながら穴へと足を踏み入れ、シーツが穴と地雷覆い被さるように広げた。シーツの下に地雷が仕掛けられているのが丸分かりにする。それだけでも足止めになり、地雷がここだけだと注意を引くことができるかもしれない。完全に穴に身を沈める前に、ちらりと部屋に突撃して来た兵士を見た。
あの時、兵士の頭に銃口を突き付けて引き鉄を引こうとした時、私は二人目の兵士に撃たれて死ぬと思った。だけど、実際は引き鉄が引けてしまった。二人目の兵士は現れなかった。
ありえないことだ。たった一人で突撃するなんて。それも訓練されたハクジンの部隊の兵士が。
それではあの兵士が素人だったのか。ハクジンの部屋に入ってきた時の動きからしてそれはないと考えを捨てる。何でという疑問が付きない。
最初に真正面に対峙して拳銃を構えた時もそうだ。私は引き鉄を引くまでに一拍遅れた。その時点で決していたんだ。
せっかく使ったのに・・・・・・。
肩を落として穴へと身を投じ、シーツで穴を隠した。暗い穴の中で、手に持つ拳銃を握り締めて、安全装置をカチリとかけてポーチへとしまった。
カチリという音がやけに耳について離れなかった。
その音を嫌で頭を振り払い、男を連れて急いでその場を後にした。