第2話
その日がなかなか来ないと思いながら、銃を担いだまま、ふぅっと白い煙を吐き出した。口にくわえたタバコを揺らす。この一、二年で男の相手をしてもらえる報酬を二回に一回はお菓子から煙草にした。初めて吸った時は咳き込んだものだが、薬と違って具合が悪くなることもなく、血管がきゅっと締まってじんわりと広がる感じが気持ち良くて吸うようになった。
タバコをふかしていると一人の男の子が来た。体に釣り合わない大きな銃を持ってふらつきながらも走って向かってくる。私の目の前で立ち止まり、見周りで異常がなかった事を伝えてきた。それに対して私はやさしく微笑んで交代して休むように伝えた。男の子は元気よく返事をして、小走りで去っていくのを見送りながら、その場に腰を降ろした。
このグループで子供の中ではもう私が年長者となっていた。他の子供たちをまとめる立場となっていた。私よりも年上の人は既にみんな死んだ。敵の弾をくらったり、爆弾と一緒に吹っ飛んだり、もしくはついていけずに勝手に死んでしまった。だけど、グループの人数は昔よりも増えていった。大人たちがいろいろな所から子供を連れてきた。どこからか拾ったか、さらって来たか、買ってきたか。たまに、子供を売り歩いている大人がこのグループにも立ち寄ってくる。そこで買っている時もあったし、子供の親から直接買っている時もあった。そして、大人もいろいろな原因で死んで少なくなってしまったこともあり、このグループは子供がほとんどを占めている。。
最近、私たちのグループは『気高き戦士』と名乗っている。何が気高いのかは知らないが、大人たちがそう決めた。
ここのところの私たち『気高き戦士』の仕事は物資の強奪だった。物資を運んでいるトラックを待ち伏せして、それを守っている兵を殺して奪う。とても単純明快な仕事。奪った物資は大人たちがさばいて、ダイヤモンドに変えていた。どうしてあんな透明の石っころが大人たちを喜ばせるのか分からなかった。道端に落ちていた似た様な透明の石を持って、大人たちに見せたが違うものだと言われて放り捨てられた。大人たちがいうことは難しくて分からない。大人たちが言うとおりにしてろと言ったので、そうする事にした。
タバコを一本吸い終わった頃、私たちのアジトに一台の車が来た。このところよく来る車だ。私はその車を確認して立ち上がる。プッとタバコを吐き捨てて、踏み潰した。
車からでっぷりと太ったコクジンが出てきた。大人たちは物腰低く対応している。そのまま、アジトの中へと入って行った。
その様子を見ていると後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、先程とは別の男の子が立っていた。交代して来た男の子だろう。私は男の子に見回る所を指示して、しっかりと見回るように言っていたら、大人たちの一人が私のところにやってきた。
男の子はその大人に緊張しているのか固まっている。大人は私に一枚のタオルを投げ渡してきて、「身体を洗ってこい」と言ってきた。私はそれに一つ頷いて、「はい」とだけ答えた。
大人は「あとでいつもの部屋に来い」と言って戻った。男の子の方は私を心配そうに見ていた。きっとこの後、私が何をするのか、また何をされるのかが分かったのだろう。男の子の頭をそっと撫でてあげて、心配ないとだけ伝えて見張りにつかせた。
タオルに水を染み込ませて、きれいに体を拭いた後、言われたとおりに大人たちが入った部屋の中へ足を踏み入れた。入ってみると、まだ大人たちとでっぷりと太ったコクジンは話し合っていた。私はそれを邪魔しないように部屋の隅へ移動した。大人たちが何を話し合っているのかはさっぱり分からない。大人たちが難しい事を話しているのを聞きながら、私はウエストポーチへと手を伸ばす。ポーチの中に入っている拳銃をそっと撫でる。これを使う日がいつになったら来るのか。今の私の関心事はそれだけだった。
そうやってずっと拳銃を触っていると大人たちの話が終わった。お互いに握手しているところを見ると、話はうまくいったようだった。大人たちの一人から顎で、太ったコクジンについていけと指示された。太ったコクジンは大人たちの一人に連れられて行く。私もそのあとについていった。
太ったコクジンが通されたのはアジトの奥に位置する一つの部屋。他の部屋とは違い、真ん中には大きなベッドがあり、周りは一通り家具が揃って整っている。大人は太ったコクジンに一つお酒を渡して部屋を出て行った。
部屋に残ったのは太ったコクジンと私。太ったコクジンはベッドに腰を降ろして、置いてあったコップにお酒を注ぎ、一口で呷った。コップのお酒を飲みきった後、太ったコクジンは私に目を向けてにやりと笑う。
私は太ったコクジン近づいて、ウエストポーチなどの身に付けていたものを一つ一つ取っていった。腰にぶら下げたナイフや、担いでいた銃をその場に置くと太ったコクジンは不快な顔をしたので、仕様がなく部屋の隅に置いた。でも念のために、拳銃の入ったウエストポーチはお願いしてベッドの上に置かせてもらった。
私が太ったコクジンの男の前に立つと、コクジンの男の手が私の体をなぞっていった。腕を掴まれて、そのままベッドに押し倒される。男は私の胸に顔をうずめて鼻息を荒くした。大きくはないが、最近女性らしさが出るぐらいまで胸が膨らみはじめた。その胸を、体を、男の手が、息が撫でまわしていった。
私はこの男のお気に入りらしかった。私にハクジンの血が混じっているという点で気に入られていた。だから、私はこの男に丁寧に扱われた。殺してしまわないように。できるだけ長く遊べるおもちゃとして。
私が相手する以前に相手をしていた女の子はこの男に殺された。男が出ていった部屋の掃除を任されたとき、部屋の中で女の子が死んでいた。頭と腕を失った状態で。これには大人たちもうんざりしている様子だった。自分たちはやりたくないからとまわしてきた仕事だった。
体を撫でまわしていた男の手が私の首の方へと伸びてきた。男の手が私の首に纏わりつく。
「っぁ、っが」
苦しい。男の手が私の首を締め付ける。助けて。男に向かって手を伸ばす。でも、男はただニタニタと笑い眺めるだけ。息をしたい。必死に空気を吸おうと肺が動く。空気を吸いたい。男の手から逃れようと手足をジタバタさせる。だけど、巨体にのしかかられて動くに動けない。手に力が入らなくなってくる。視界が暗い。最後に必死に男に手を伸ばして、私の意識は暗転した。