SEEK!
発注者「ホームビデオで作れるような脚本が要るんだ。衣装とか凝ると大変だから
普段のカッコのまま撮れるやつ。オープニングは演じる奴のアパートではじまる。
部屋の中でじっくりと話し合ってるシーンが欲しい。車も登場させろよ。運転して
る所がいいや。ただしカースタントとか交通事故ネタは駄目だぞ。電話で話してる
シーンも出したい。空とか山とかを見てサッパリするシーンも。雨のシーンも欲し
いな。長いのは大変だから時間は10分以内で。キャストは多いと大変だから二人
くらいでいい。ただし老人や子供は駄目だぞ。それと、格闘とかスタントとか
危険なのも大変だからなしでいい。喧嘩とかも暴力は一切だめ。スポーツとかも
大変だからなしでいい。恋愛シーンは女優の確保が大変だからなしでいい。酒飲ん
だりメシ食ったりとかも大変だからなしでいい。大金かけると大変だから予算は
5万円以下でいい。それで、誰が見ても感動して、笑いと詩情があって、ちゃんと
ストーリーとヤマ場があって、これまでになかったようなドラマチックな話を頼む」
僕「…(絶句)…いったいどんなストーリーができるんだ、その条件で?」
発注者「アイディアは俺が出したんだから、ストーリーはお前が考えろよ。いいか、
パッパッと書いてくれ。」
僕「・・・・・(心の声:アイディアじゃなくて、制約というんだよ、そんは…!(涙))」
こんなイキサツで書いたものの、なんとか書きあがって渡してからまた
発注者「おばあちゃんとこたつでお茶を飲みながら話をするシーンも入れてくれ。
都電に乗るシーンも。川岸を散歩しているシーンも入れてくれ。それからロケは
大変だから温泉町はカット。最後の駅のシーンもカット。富士山もカット。それと
雨はやっぱりカット。etc,etc...」
という追加注文が来てキレてしまい、不採用になった物語です。すごく苦労して
考えたのに勿体無く、自主映画でなくてもいいから何かに使ってくれる人がいない
ものかと思っております。(^^;
(つか、なにも山梨や静岡にロケしなくても、見えるところに住んでる人や
現地に行く人に富士山と道路標識の映像だけ撮ってきて貰えば、温泉町や駅なん
かは看板と浴衣だけ用意すれば全部近所で撮れるようにと書いたのにぃ~……
低予算の自主製作ビデオをTVドラマよりコストのかかるオール現地ロケで作る
やつがあるかぁっ!(涙+絶叫))
<登場人物>
A
B
(1)アパートの部屋
壁に、富士山の写真。
AとBの二人。
A、TVを見ている。
B、富士山の写真を見ている。
B「富士山か…」
A「それがどうかしたのか?」
B「俺、直接見たことないんだよね。」
A「えっ? 見たことないの?」
B「うん。いつも運が悪くて。」
A「晴れた日には、首都高速とか荒川土手か
らでも見えるぜ?」
B「見える日に行けたことがないんだ。」
A「東海道か甲州街道を車か電車で行けば…」
B「それも、たいてい雨の日さ。」
黙ってしまうA。
B「見てみたいなあ、富士山…」
(2)タイトル
タイトル「SEEK!」
(3)アパート
A、電話をかけてる。
A「今日はよく晴れてるから、首都高速の荒
川土手あたりから富士山が見えるぞ」
Bの声「…今日、バイトでさ。」
A「…そっか。」
(4)アパート(夜)
A、電話をかけてる。
A「ちょっと電車で静岡まで行くんだけど、
付き合わねえか? 窓から富士山が見える
はずだ。」
Bの声「・・・行って見ようか。」
(5)都内の駅
水たまりにざあざあと吹き込む雨。
天気予報の声「日本列島を発達した低気圧が
覆い、全国的に雨模様となるでしょう。」
(6)都内の駅のホーム
天気予報の声でつなぐ。
ぼーーーっと空を見てるA、B。
(7)アパート
A「こうなったら、意地でもおめえに富士山
を見せてやる。」
B「大丈夫かよ、そんな約束して?」
A「おう。今度の週末、車で山梨に行こう。」
B「また雨が降るんじゃないかな」
A「天気予報だと、日曜日は降るけれど土曜
日は行楽日和だそうだ。」
B「よし、じゃあ行くか。」
(8)道路
渋滞中。
(9)車の中
ラジオの声「~より、渋滞20km。以上、道路
情報でした。では、音楽をお楽しみくださ
い。」
A「…渋滞かよ。」
B「夜までに着けるかね?」
(10)山梨県の温泉町(夜)
車が走ってくる。
(11)宿の部屋
A「せっかく来たのに、明日は早帰りか…」
B「明日も雨だっていうしな。」
A「やれやれ…富士山はやっぱだめか。」
B「もう、一生見れないのかなあ」
A「ま、温泉でのんびりできるだけでもよし
としろよ。」
黙ってしまうB。
(12)外(朝)
植木にふりかかる雨。
(13)運転席
A「忘れ物ないな。」
B「おう。」
A「じゃ、帰るか。」
(14)田舎の国道
田んぼ(または川)に雨が降っている。
(15)運転席
不機嫌そうなAとB。
A「こんなとこでエンコたあ…このポンコツ
め!」
B「JAF、早く来てくれないかな…」
A「もう一回電話してみろよ。」
B、携帯を取り出してなんどかボタン
を押すが
B「だめだ。電池が切れちゃった。」
絶望的的な溜息のA。
しばらく沈黙。
B「雨が…小降りになってきたのだけが救い
かな。」
(16)田舎の駅前の電話ボックス
B「はい、すみません。なんせ古い中古車で
すから、修理にまだ何時間もかかるそうで
して。電車で帰りますけども、ちょっと間
に合いそうにありません。すみません、す
みません(ペコペコ)
(17)田舎の駅前
A「地面も乾いてきたか…」
雨はあがってる。A、ぶらついている。
ふと顔を上げて
A「あっ!」
(18)田舎の駅前の電話ボックス
電話を終えて出てくるB。
B「どうした?」
(19)田舎の駅前
A、指差す。
B、そっちを見る。
(20)富士山の遠景
富士山の遠景。
(20)田舎の駅前
AとB、どちらからともなくパン!と
手を叩きあわせる。
ストップモーション
F.O.
エンデイング
-終-