第9話 食堂のランチってコスパ最高でうまいのが定番だよな。それ以外は認めない
「……うまぁ」
食堂でケレルと二人、昼食を取った。
魔法実技の授業だけだった、アディたちのクラスが一番早かったらしく、食堂は空いていた。
アディはチキンを口に入れると、その顔を至福に染めて、声が漏れた。
魔法実技が楽しすぎて、ややはしゃいでしまったのと育ち盛りなのもあり、すでに空腹でペコペコだった。
アディのトレーは日替わりランチ。グリルプレートにはチキンと野菜が色鮮やかに乗っていて、パンがついている。
ケレルのトレーはパスタセット。カルボナーラにサラダの小皿だ。賭けの戦利品である日替わりデザートは、プリンだった。
「アディ、魔法実技もやるじゃん」
「混合魔法の方がすごいだろ、ケレル」
お互いにお互いを褒めたら、どちらともなく笑いが漏れた。
ああ、この特別でもなんでもない会話がいい。安心できると、アディは思う。
――これぞ、スクールライフ!
「混合魔法は、領地でモンスター狩りをする時に役立つんだよ。親に教わった。
土魔法は攻守で便利だぞ。まぁ普段使うのは別々だな。
道端の石を投擲して、そん時に風魔法を使う」
――ケレルのウォレンティア侯爵領は確か、ダンジョンがあるんだっけ。
アディはゲームの知識を思い出す。
この国の侯爵家は、国境もしくはダンジョンの守護を担ってる。
特にダンジョンを放置すると、モンスター氾濫で市井に被害が出るから、定期的にモンスターを駆除しなければならないのだ。
「なるほど、実戦で鍛えたから強いんだな。てことは、午後からはケレルの得意分野か。見るのが楽しみだなぁ」
それぞれに食事を進めながら会話をしていると、アディの発言に、ケレルは呆れたと肩をすくめた。
「……魔法実技は一人ずつだったが、午後は総当たりだぞ。見てる暇ないだろ。
アディ、昨日の話、全然聞いてないのな?」
「いや、聞いてたけど聞いてなかったというか……総当たり?」
聞き捨てならない単語を耳が拾って、アディは復唱した。
「詳しい注意事項は、また授業で先生がするから聞いとけ。とりあえずAクラスの十人、全員とやるんだってさ。
はぁ、意外と抜けてるというか不真面目なんだな、アディ?」
「え、俺を美化するなって最初から言ってるじゃん」
ケレルは意地悪く笑って、アディを見てきた。
その軽口を否定せずに、アディも笑って返した。
しかしそうか、総当たり。異世界ならではのバトルが見られると思ったけど、のんびりは出来なさそうだった。
他人の武術に関して、兄たちの訓練以外は実際のところ馴染みがないのだ。
――痛いのは嫌だなぁ。
魔法実技での、半ば徹夜明けみたいなテンションと探求心も重なり、加減を忘れたことを思い出す。
ノーマルレアで平凡な魔力量のアディ。
けれどそこに前世チート知識、サポートキャラ特性を合わせたらなんと、無駄のない凄まじい精密操作が出来るようになった。
攻略対象たちのように、広範囲かつ高火力や圧倒的な攻撃力、スピードなどの派手さはない。
けれどアディは極小範囲に限り、高出力が出せるようにはなった。
「俺、これからサークル加入届け出しに行くけど、アディはどうする?」
あっという間に食べ終わったケレルは、プリンをつまみながらアディに尋ねた。
もう入るサークルを決めたらしい。行動力に溢れている。
――若いって良いなぁ。
そのケレルの人懐っこい笑みに、アディはとても癒されていた。心境は、近所の子を見守るおばちゃんだ。
「そうだなぁ、午後に備えて教室でちょっと寝ようかな」
昼休みに、十分程度の睡眠を取るのは身体に良いとは前世知識だ。
昨晩寝れなかった分、やらかし防止をかねて、アディは授業前に寝ておくべきだろう。
「あー。それは良いな。寝ぼけたアディに勝っても面白くないしな」
「そうそう。というか寝ぼけてなくてもケレルが勝つよ。俺、体育会系じゃないし」
比較的伸び伸びと育ったアディだが、その身体は細い。
筋肉とは無縁のようで、鍛えても結果が伴わなかった。
しょせん、初期強化要員か! と、アディは己のキャラ設定に自嘲したこともあるほどだ。
「アディって、魔法実技の時といい、なんかずれてるよなー。まぁ面白いから良いけどさ。
じゃあ俺、ちょっと加入届け出してくるわ。プリン、サンキューな」
「え、ちょ、待って。俺、さっきなんかした!?」
――うまく平凡路線、狙えてただろ!?
ケレルがてきぱきと片付けて、食堂を出ていく。
その背に、アディは思いっきり疑問をぶつけたが、返事が返ってくることはなかった。




