第10話 俺の噂、二極化が凄まじくって全部は把握してませんって
「《サーチ》」
備品庫から出て、アディは右手上に寮を含む学園の敷地をミニチュアとして、半透明の映像で生成する。そこに十個の点が表示される。
――探すのは、Aクラス全員の位置情報。
Aクラスには今、王族が一人。公爵家が三人、侯爵家が二人、伯爵家が二人、子爵家が一人、平民が一人。合計十人。
――うち六人は俺と攻略キャラだから。
授業中の今、教室にいないバラけている点は七つ。六つを除けば、残りは一つ。
ゲームスタート時、Aクラスただ一人の平民がヒロインだ。
今回、爆発が起きた模造剣を持っていたのは、ユニタス――平民だ。
ゲーム開始時の数と合わないのが、ただのバグなのか。それとも元々、編入までに帳尻が合うことになってるのか。
「……後者とか、笑えねぇ」
アディがユニタスの剣を弾かなければ、カリスが《イージス》を二人に出してくれなければ、あの爆発は――。
――ゲーム補正? ふざけんなよ。
前期入学組のユニタスを、今さら狙う理由はなんだ。
ゲームの強制力でなければ、残るは、アディへ直接向けられない八つ当たりとしか思えない。
サーチが指し示した場所へ向かうため、体操服姿で校舎の中を歩くアディ。
「おい、なんで怪物が一人で歩いてるんだよ」
視線を感じて、眼鏡越しにチラリとアディは見た。
すると、すれ違う生徒たちがあからさまに顔をそむけた。
――カリスの剣、教室だからな。
「あの子、後期入学組なのに、同級生をオーバーキルしようとしたんでしょ。怖っ」
「え、Aクラスにコネ入学の無能って聞いたぞ?」
「扱いに困るから、王子殿下が傘下にしたって」
「冴えないやつじゃん。中立のクストス家も、三男可愛さに落ちたな。
生徒会長が、ブラコンで贔屓かぁ。尊敬してたのに」
実技考査以後、一般生徒のアディを見る目はさまざまだ。
アディの家は侯爵家。王族、公爵家の次の家格でそこそこのポジションなのだ。
三男という立場の弱さはあるけれど、家格だけでみれば表立って対立は難しい。
結果、噂が一人歩きしている状態だった。
それでも剣を下げていれば、あからさまなものはかなり減っている。
口が軽い者は、アディが剣を下げていなければ、知らなかったで済むと思っているのだろう。
貶めるなら、アディだけにしてほしい。
カリスやセレーヌスといった、周りを巻き込まないでほしい。
――ムカつくよなー。寮の食堂で俺が甘えてるだけだろ、どう見ても!
ちなみに本人たちは、全く気にしていない。さすが強者である。
彼らは彼らで、噂はそのまま放置していた。
だからアディも、これくらいと気にしないで過ごせたら、それが最も良いはずだった。
誰も彼もが視線を投げてくることは、前世になかった分、チクリとアディの胸を刺すのだった。
――それなりの生活で良いのになぁ。
理由なんかどうでもいい。普通に生きれれば、アディには関係ない。
そうしたらきっと、この痛みにも慣れるはずで。
「言いたいことがあるなら、直接、俺を狙えってんだ」
爆発のタイミングは、コントロールに乱れが見られる弱い魔力操作で起きた。
コントロール出来る生徒には起動せず、強い魔力にもまた、起動しない。
二年生以上の生徒に、そんな初歩的ミスは発生しないだろう。
アディは寮にいて見ていない、一週間かけて行われる一学期の実技考査。
一人一回は模擬戦をせねばならず、実力が低い者から対戦相手を選べる。格上にも挑める下剋上システム。
攻略キャラたちは、羨望と印象作りで対戦希望者が多い。ルナは期間中、十戦したという。
逆にユニタスは、下位クラスからの僻みや妬みを一点に引き受ける形で、それなりに戦歴が多いそうだ。
その理不尽に対しても、実力を持ってユニタスは跳ね返しているらしい。
それはもう、一年Aクラスの前期入学組では見慣れた光景だとか。
以前ランチで、笑いながらユニタス本人が言っていた。
見える外傷は救護室で治してもらえるが、疲労はその限りではない。
実技考査後に、寝込んだアディがいい例だ。
一年Aクラスで今一番、立場も能力も弱いのはユニタスだった。
『過ぎた謙遜はやっかみを生む、気をつけなさい』
それは入学式後に言われた、カリスの言葉。
けれど、貴族社会だと実力があっても平民は無力だった。
――今日のユニタスの魔力出力の模倣で、試して爆発したからな。
今一番、生徒たちにとって面白くないのはアディのはずなのに。
人当たりよく過ごそうとは、アディは最初から思っていなかった。
目立ちたくない一心で、入学前からずっと手を抜いてきてるからだ。
それなのに、狙われたのはユニタス。
「あーもー。それより今は、アイツだよ。今度の実技考査からは俺も、どうせならヘイトを稼げたら良いなぁ」
アディは苛立ちを抑えずに自嘲気味に笑い、ぐしゃりとミニチュアを握りつぶした。




