第24話 お約束が並びます。俺は気づいてないけどね
二時限目の終わりの休憩時間。
ガラッと扉を開けて、アディとルナが教室に戻った。
教室奥、自席に座るカリスを囲うように立つフィデス、ウェルムといった攻略キャラたちと目があった。
「もういいのかい?」
「はい、カリス様におかれましては、寛大なお心で無礼を許していただき、感謝申し上げます」
「いや、これくらいなんてことないよ。
それに新学期も始まったばかりだからね。
二人のわだかまりが解けて、なによりだ」
アディが彼らの前に赴くと、机に手を組んでたカリスが訊ねてきた。
アディも教室を飛び出す際に、カリスへと教師の対応を押しつけたことを謝罪する。
「なんでさっきと逆になってんだよ。しかも目、赤いぞ」
「うるさいな! フィデスは見てたんだから、わざわざそこを触れるなよっ」
アディの後ろにいるルナを見て、フィデスがからかいの言葉をかけた。ルナはムッとして、フィデスに食って掛かっている。
――ああ、この二人はこれが平常なのか。
ルナとフィデスは、仲のいい兄弟のような気安さが見える。同じ公爵家同士、その付き合いが長いのだろう。
「ルナ、なんでも良いけど、俺の席はここじゃないからな?
俺は席に戻るから、ここでお別れだぞ」
「僕も席替えする!」
アディは周囲の目を気にして、暗に自分の服をつまむ手を離せと、ルナに告げた。
その理由の一つには、カリスが会話の最初からアディの後ろへと、視線を固定していることもあった。
――なんでそんな射貫くような目、ずっと向けてんの? 言動が合ってないんだけど。カリス様。
対するルナは、アディから離れる気がないらしく、訳の分からないことを言い出した。
「アホか! お前はなんで、そんな極端な態度になってんだよ。違うだろ!」
「……フィデス様。私とルナとで、もう済んだことです。これ以上はご遠慮願います」
そういえば、そこの話がついてなかったなと、アディは思い出した。
ルナに注意するフィデスに、ハッキリと断りの意をアディは告げた。
「フィデス様、何もなかったですよね?
でしたらこれより先は、大変不本意ですが侯爵家として、再介入の苦情を申し入れさせていただくことになります」
カフェテリアでルナとアディが和解した際。腫れた目をルナが冷やしている時に、アディは休学中のことを聞いたのだ。
模擬戦は問題なく終了し、アディの病欠は別物として扱われていることになってる、と。
つまりそれは、誰の責任も問えないということだ。
――フィデスの騎士道に合わせてあげる気は、俺、ないんだよね。
「フィデス、もう受け入れなさい。アディ君がそれでいいと言ってるんです」
フィデスが眉間に皺を深く刻み、納得のいかない顔をしていた。
それを横からウェルムが、アディに助け船を出してくれる。
「ウェル様、ありがとうございます」
「礼には及びません。事実の話をしただけですから。
ああ、フィデス。思うところがあるのであれば、アディ君が全快した時になさい。実技ペアでしょう。幾らでも機会があります。
貴方のお好きな方法で、対話をするといいですよ」
「ああ! それもそうだな! アディも約束を忘れるなよ」
アディは、ギクリと硬直した。
そっちの返事はしていない。けれど約束として、いつの間にか決まっているらしい。
――ウェル様、味方じゃないのかよ。
ウェルムを見れば、爽やかな笑みを返された。アディは表情を取り繕って、笑みを返す。
いや、一応全快した時にと言うのが、ウェルムなりの温情かもしれない。
けれど、体育会系が好む対話方法など一つしかないだろう。
これはアディにとって嫌な予感が、ひしひしとする。
――んでもってカリス様、なぜかさっきより笑顔が怖い。喋ってないのに圧がある。なんで?
「あ、もうすぐ次の授業が始まりそうですね!
皆様、御前失礼します」
「お前はこっち」
「ヤダ。僕も、アディと一緒がいい!」
礼を取って、逃げるように早足で自席へ向かうアディ。そこに、ルナとフィデスの掛け合いが重なった。
「ルナに先を越され、いつの間にか、私が最も遅れているようだね?」
ボソリとしたカリスの呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。
その目は冷ややかにウェルムへ向けられる。ウェルムはカリスへと目元を緩め、笑うだけだった。




