第21話 子どもは子どもらしくていいんだよ。だから俺は譲らない
なるべく目立たないようにと、アディは早めに登校して席につく。
しばらく寝たふりをしていたアディが、攻略キャラ達が登校してきたことに気づいた。
向こうも気づいたのだろう。フィデスがルナを連れてこちらへとやってきた。
アディのことをそっとしておいては、くれないらしい。
「よう、久しぶりだな。アディ」
「おはようございます。フィデス様、ヴェネラティオ公爵令息」
さも寝起きのように、アディは起き上がって挨拶をする。一方のフィデスは声が固く、目が笑ってなかった。
――てっきりカリスかウェルム辺りが、ルナの保護者ポジションかと思ってたんだけどな。
「……でいい」
「あ、すみません。なんでしょうか。ヴェネラティオ公爵令息」
意外だなとアディが考えていたら、フィデスの後ろに隠れるルナが何か言ったらしい。
アディは、ルナに謝罪して聞き返した。
「だから、ルナでいい!敬称も敬語も要らない、許す!」
「こら!そこじゃないだろ!」
「……」
叫ぶようにいうルナの頭を、フィデスが軽く叩いた。
ついでに後ろに隠れられないようフィデスは、アディの前にルナを押し出している。
――悪さをした子どもとその保護者だな。
前に出されたルナはうつむきがちに、チラチラとアディを見ている。正確には包帯を巻かれたアディの右腕だ。
――やっぱり気にしてる。違うのに。
「フィデス様。私は違うと言いましたよね?」
――先に話をつけなければならないのはルナじゃない、フィデス様だろ。
アディは、フィデスをまっすぐに見た。
「アディはそういうと思ってた。けど、そうはいかねぇよ」
アディはルナに触れず、まずフィデスに話をしかけた。けれど、フィデスも折れてはくれないらしい。
数日経っているんだ、蒸し返さなくていいだろうに。
――真面目め。
学校を休んだ数日間、ルナは絞られたはずだ。その証拠に、アディが休む前にはあったはずのルナの腰に剣がない。
『アディ。寝込んだ原因はおそらく、骨折だけじゃない。お前の目は昔から、いろいろ見えただろう?
眼鏡に負担軽減のための認識阻害を掛けてあるから、今後忘れないようにしなさい』
――アディウートルのキャラ特性を、セレ兄さんが知ってるのには驚いたけど。
たぶん俺が小さい時に、何かをやらかしたんだろうなぁ。
「いいえ、違います。私が学校を休んだのは、目に身体強化を使いすぎたからです。眼精疲労。
お疑いでしたら、家に聞いてみてください」
今朝の登校でセレーヌスから、アディの目について聞いた時、これは使えると思いついた言い訳だった。
「……は?目に身体強化?」
「はい。私は目で相手の行動を先読みして、模擬戦をしてました。見えているから、合わせて動くのは容易なんです」
厳密には違うし、兄の口ぶりから、彼は眼鏡を掛けていれば見えてないと思っている。
実際は眼鏡をかけていても、アディは見えてはいる。精度に違いがあるくらいだ。
――まぁ見えづらくなるから、眼鏡の効果はあるんだろうけど。
だから嘘と本当のことを混ぜて、アディは話せばいいだけ。
今のこの状況は、アディの望んだ結果ではないから。あそこまでやってもダメなら、妥協案はアディの言いたいことを言ってから探ろう。
――見るのが目の酷使しに繋がるなら、それこそ目に身体強化かけて、カバー出来ないか、試してみたら良いよなぁ。
余計なことをチラリと考えてしまったアディは、今度やってみるかと区切りをつけた。
理解の追いついてないフィデスに、さらに言い訳を続けた。
「なので、腕の怪我も見た目こそ目立ってますけど、全て私の自業自得なんですよ。
医師からも身体強化を全身にかけず、けちったせいだとそれはもう、注意を受けましたから」
ドヤ!と胸を張ってアディは言ってみたが、二人の反応は返ってこなかった。
――あれ?思ってたのと違う?
「……アディ。身体強化でそんなに器用なことが出来るのは、国で探しても一握りだと思うよ」
いつの間に来ていたのか、カリスが笑いを堪えながら、会話に混じってきた。
アディは疑問符を浮かべたまま、カリスと目があった。
――え、一握り?
「……ふ……」
――ふ?
「うぅ……」
小さな声が聞こえて、ルナを見ればポロッと涙が溢れた瞬間を見てしまう。
「ヴェネラティオ公爵令息?」
「っーー」
アディが小声で問いかければ、ルナはさらにボロボロと涙を流してうつむいてしまった。
もうすぐ朝礼だ。その後は授業が始まるわけで――。
――いやいや、こんなところで泣かせたら、ルナがさらに立ち直れなくなるだろう!
「私たちの欠席は、カリス様が責任持ってくださいね!」
アディはルナを怪我とは反対の左肩に担ぐと、一番の権力者に全てを押しつけて、返事を聞くことなく教室を飛び出した。
アディの予想通り、途中で担任とすれ違ったが、無視だ。
パタパタと左手しか袖を通していない半分着ただけの上着がアディの駆け足に合わせて揺れていた。




