第15話 VSケレル やられっぱなしは、さすがにちょっと物申したいよな
周りではもう模擬戦を終えた者が、ちらほらと出ていた。
自然と、アディとケレルの模擬戦の観客になっている。
――Aクラスの後期入学組二人の模擬戦、だもんな。そりゃそうだ。
「……」
観客の中に、フィデスとルナを見つけた。
フィデスが険しい顔をして何か言いかけるのを、アディは無視した。
ルナはやはり責任を感じてそうだ。俯きながらのこちらを伺う様子は、さっきまでの不遜な態度とは大違いだった。
――ルナが悪いことなんて、ない。
だってそれが若さだろう。これからの将来、可能性に溢れているじゃないか。
公爵令息だからって、強者だからってルナに背負わせて、こちらを下に扱っている。
アディが勝手にやって、勝手に転けて、勝手に怪我をした。
アディが勝手に怪我を隠すことに決めた。
悪者がいるとすれば、それはアディでいいのだ。
――ケレルには悪いが、目立つのが確定なら、好きにやってやる。
アディは自分にないものを、それでも証明するために剣を構えた。
「ケレル、お前からで良いぞ」
「そう?じゃあーー遠慮なく!」
――利き足は左か。握りは右。
ケレルの踏み込んだ足、そして続く身体強化の流れをアディは読みとる。
例えるなら、サーモグラフィだろうか、魔力の強弱が色で認識出来る。
そして身体のどこをどう強化して動かすのか、本人の癖までをも、アディは見抜く目を持っていた。
普段は薄いカラーレンズの丸眼鏡をかけて、アディが意図的にぼかして見ている世界。
――チュートリアルのサポート力を舐めるなよ。
ゲーム開始前の攻略対象相手なら、アディが先読みをして身体強化を駆使すれば、十分やり合えるのだ。
「ケレル、振りおろすのに力み過ぎだ」
アディが正面から剣で受け止め、身体強化の掛かりが甘い方へといなせば、ケレルはやや体勢を崩した。
カウンターを危惧していないケレルの動きに、アディは声をかける。
――パワーじゃ、俺は負ける。けど素直すぎる剣捌きだよな。
そのままアディは背後へ回り、ケレルへと剣を向けた。
ケレルは身体を捻りながら、横なぎに剣を振って応戦しようとする。
「バカ、フェイントだよ」
アディは手首を捻って剣を持ち替え、ケレルの軌道から剣をなくした。
横なぎのケレルの剣が虚しく宙を切った。
「っ!」
「そら。前が、がら空きだぞ」
体勢を崩したままの強引な横なぎで、ケレルは隙だらけだ。
――地面に手をつき体勢を整え、からの足が来るか。
アディが思考誘導を誘えば、ケレルはまんまと引っ掛かる。
ケレルの片手と足の身体強化の流れが強くなったのを感じとり、アディはケレルの片足を重心とは逆方向に蹴りあげた。
「くっ!」
ケレルは地についた手を起点に、身体を支え転倒を防ぐ。ケレルは剣を握る余裕はなくなったようだ。
――身体強化便利だよなぁ。前世じゃあ、こうはいかない。
滴る冷や汗が地面をまだらに染めていく。アディはそれを黙殺した。
総当たりの最後として、ケレルとの試合は、本人には悪いが楽しい。
「これから対人戦を学ぶと、お前は伸びるぜ。モンスターにフェイントも心理誘導もなかっただろうからな」
アディはケレルの剣を踏んで抑え、そのまま低く身を屈めると、ケレルと高さを揃えた。
「明日のデザート。よろしく、っな!」
アディは剣を持ったままの左手を地面について、思いっきりケレルの背を蹴り飛ばした。
「うわ!」
完全にバランスを失ったケレルが、吹っ飛んで場外へと転がった。
アディは身体強化の流れを最後まで汲み、怪我が無いことを確認する。受け身はちゃんと取ったようだ。
「……フィデス様、右腕を使えないんじゃなくて、私は剣を左で使うんです。
実技で見たと思いますけど、右手は魔法メインですね」
――これでもう、ルナのせいにさせないからな。
ざわつくギャラリーにアディは意を介さず、代わりにフィデスにハッキリと事実を述べる。
模擬戦の総当たり、アディは五勝四敗の結果に終わった。
「誰が凡人だよ……神童。同期の癖に先輩風吹かせやがってー」
「お、ケレル。無事だったか。
お前の剣筋が素直で伸び代に溢れてるから、ついな。あと俺、四敗してるからな?
真の神童は完封だろ。俺じゃないね」
拳を突き出してきたケレルに、アディも左手を出してコツンと付き合わせた。
二人して、お互いに笑い合う。
ケレルにはこのまま、等身大の少年でいてほしいところだ。そして、願わくはルナもそうなってほしい。
――あー、疲れた。すんげぇ寝たい。
模擬戦が終わり、アディは前髪をおろしながらケレルと一緒に、クラスメイト達の輪に囲まれた。
「クストス君、容赦無さすぎ」
「いやいや、ウォレンティア君も強かったって、俺二人ともに勝てなかったー!」
「それ、アンタが弱すぎるだけじゃない?」
「なんだと!?」
「……ねえねえ、フェイントってどうやるの? 私にも出来るかな?」
ケレルと二人、顔を見合わせてアディは一つ頷いた。
「俺のことはアディって呼んで」
「俺も、ケレルでいいよ~」
入学二日目、実技授業前まではよそよそしかったクラスメイト達。
一戦を交えたからか、気軽に話しかけに来てくれた彼らを前に、アディはAクラスの仲間入りをした気がしたのだった。
滴る汗を、笑顔で隠してアディは彼らの質問に答えていた。




