第14話 VSウェルム くだらない御託より、突き通さなきゃいけない性根の方が大事ってこと
「……レクティトゥード公爵令息、その手はなんでしょうか?」
模擬戦があと二人というところで、アディは困惑した。
ウェルムからアディに差し出されたのは、手。
「私のことは、ウェルと呼んでくれるかい?私も君のことを、アディと呼ばせてほしい」
穏やかに、にっこりと微笑むウェルム。
いきなり互いの敬称について触れる。何か意図がありそうだ。
ゲーム設定にあった、カリスに合わせて学年をずらした二人。
一人がルナで年下だったのだ。彼がおそらくもう一人の年上だろう。
――フィデスは、こういっちゃ悪いが、年上にも年下にも見えないしなぁ。
「そう警戒しないでほしいな。模擬戦は私の不戦敗で、一緒に先生へ報告をしに行きたいだけなんだけど」
まさかのウェルムの差し出された手は、アディへの不戦勝のお誘いの手らしい。
「……それなら、私の不戦敗でお願いします」
ウェルムが、模擬戦をしない理由が分からない。アディは腰を折って代わりに願った。
彼からカリスとは違う怖さが、じわじわと来るからだ。
ウェルムの佇まいに隙もない、頭脳、策略家の攻略キャラとして君臨しているが、武もいけるのだと分かってしまう。
なら、アディが戦っても勝てるわけがないのだ。こちらの負けにしてほしい。
アディは周りの戦歴など知らない。後々、ウェルムの唯一の敗戦として上げられては困る。
――他の攻略対象三人からは、負けを勝ち取ったのに!
「カリスから忠告を受けただろう? 素直に受け取ってくれると、ありがたいね」
「その件でしたら、なおのこと。模擬戦をしたら、私では勝てません」
忠告とは、昨日の学年順位の謙遜の話だろう。
事実を述べるだけなら、忠告には当たらない。頭を下げたまま、アディは断言した。
「アディ君は真面目なんだね。
……これはルナの件での、私なりの謝罪の意として受け取ってほしい。
あとフィデスからのお願いでもある」
「私は模擬戦をしただけなので、ウェル様とフィデス様がお気になさることは、一つもありません」
思わずムッとして、アディは否定した。
知らない間に、ウェルムへとフィデスが何か吹き込んだらしい。
もしくはウェルムが、フィデスとルナから必要な情報を、抜き取ったのかもしれない。
――フィデスが教師ではなくウェルムを頼ったのかもな。はぁ、めんどうな……。
「……この模擬戦の趣旨は、後期入学者の実力を測ることがメインなんだ。
その後一学期間の、実技ペアを決めるためにね。
君のペアは特例で魔法実技ではルナが。それ以外の実技を、フィデスが担当することがほぼ決まったよ。
つまり、アディ君はもう、私と模擬戦をする必要がないんだ」
「……」
――今、ウェル様がさらっとすごいことを言ったぞ。ペアって一対一だったよな?
なんで俺は分かれてるんだ。しかも平然と、特例とか言いやがった。
目立ちたくないのに、目立つポジションに立ってる気がする。なんだこの外堀の埋められ感は。
アディは顔を上げて、ウェルムを見た。彼は笑顔を見せたままだ。その真意がアディには分からない。
――手のひらで転がされてる。気にくわねぇ、余裕の顔。
「それでも私の不戦敗を受け入れてくれないのであれば、仕方ないね。
私としては不本意だけど、正々堂々、アディ君を保健室送りにさせてもらうよ」
ウェルムが下ろして持っていた訓練用の剣の、その切っ先をアディに向けた。しかもそれは、アディの右腕をまっすぐに指している。
「……」
ピクリと、アディの右肩が揺れた。
表情には出さず、アディはじっとウェルムを睨んだ。
――やっぱりか。
「さっき私が手合わせしたのは、フィデスなんだよ、彼が言うんだ。
ルナとの模擬戦以降、足や左手は使っても、君は右腕を使ってないと、なんでだろうね?」
――バレた。
蹴り技中心のスタイルで、確かに攻守は左手。右腕をアディは使わなかった。
身体強化で痛みも全て誤魔化して、庇った動きは一度もしていないはずだ。
――ていうか、なんで攻略キャラは全員、周りを見る余裕がそんなにあるんだよ。強者の美徳だとでもいうのか?
「ルナは子どもっぽいところもあるけれど。実力は確かなんですよ。
模擬戦で相手を巻き込んで、転ぶなんてあり得ないのです。
様子がおかしいから、問い詰めさせてもらってね」
――けど、それはまだ一方的な主張と現状証拠だけだろ。
確定させなければ、全ては憶測のまま闇に葬れる。アディは、一つ意識を切り替えた。
「アディ君はどうしたいかな?」
「ウェル様のお望みのままに」
そうして、アディの八戦目は不戦勝になった。結果、四勝四敗。
残る模擬戦は一つケレルとだ。
最後の一戦であれば、あれこれ考えなくていい。
今日から邸ではなく学園内の寮、帰って寝れば良いだけだからだ。
ケレルも攻略対象ではあるが、後期入学組の同期。前期組に比べ、まだ能力的には飛び抜けているわけではない。
ケレルは、ヒロインと切磋琢磨する設定だったから。
「あれ。アディ、剣使うの?」
「ああ、眼鏡を忘れたことにも慣れたからな。
最後くらい、思いっきり模擬戦をしようかと思って」
左手に剣を持ったアディは、オリーブ色の前髪をかきあげて魔法で固定し、視界を確保する。
アディの実技ペアは攻略対象、目立つことが確定したらしい。
そしてフィデスは、怪我したアディが無理をしないようにと、根回しをしようとしたらしい。
ウェルムは、ルナが怒ったことの顛末を彼らの落ち度のように言った。
ウェルムの小出しにしていくやり方が、すんごく気に入らない。
正論であるがゆえにかもしれないが、アディを被害者といいながら、その意思を問うことはしないのだ。
――それはちょっと違うよなぁ?
一番の年長者として、意地を見せなくてはやってられない。
違うと言うのに外堀を埋めてくるのなら、こちらだって遠慮しない。
アディは、ちょっとムカついてきていた。
「ケレル。的当ては負けたけど、明日のデザート賭けてもう一度やらないか? 今度は俺が勝たせてもらう」
アディは陽の光を浴びて輝くダークルビーの瞳をギラつかせて、ケレルを見据えた。




