第12話 VSフィデス 中身が老けてると若者を見た時、眩しく感じるよね
――あと八人かぁ。
黙ってしまったルナを置いて、アディは逃げてきた。
これ以上どうしたらいいか、気まずくてしかたなかったのだ。
――あれってこう、少年漫画的な展開だったのか?友情の芽生える瞬間みたいな?
前世持ちとして、アディは小さい頃からすでに、同世代と純粋に付き合えてない。
――うん。距離感分からねぇ。
そもそも身分も違うのだから。普段から関わることはないだろう、学園だけの関係だとアディは割りきることにした。
「手、空いてるなら、やろうぜ?」
「アルドール公爵令息。よろしくお願いいたします」
フィデスに誘われて、アディは枠の中に入る。彼は模擬戦の最初からずっと、五つあるうちの一つの枠から動いていない。
終わって手の空いた生徒を、順に呼びつけていたのを、アディはルナとの模擬戦中に見ていた。
――道場破りの逆。もしくはボス的な感じ?
「フィデスで良いぞ。堅苦しいのは嫌いなんだ。アディウートル」
「では、私のこともアディとお呼びください」
自己紹介を済ませると、フィデスが仕掛けて良いぞと合図を送ってくる。
フィデスが、自分の剣術に絶対の自信がある証拠だった。
――胸を借りるのが、道理だよなぁ。
「では、行かせていただきます」
「おう。どっからでも良いぞ!」
ニカッと笑う彼は、アディから見て模擬戦を楽しんでいるのが丸分かりだった。
そこそこの広さの枠に対して、中央にいるフィデスの周りの地面にだけ、足跡が集中し乱れていた。
おそらく彼はそこから動かずに、相手をのしているのだろう。
自分で、独自にルールを追加して科していそうだ。体育会系キャラらしいというか。
――まぁその希望には、答えないんだけどね。
アディは身体強化をかけて、フィデスをまっすぐ狙う。彼の正面、跳躍してからの大きな回し蹴り、フィデスは避けることなく剣を構えている。
足がフィデスの剣に触れると同時に、アディは剣を掴んで足場にし、再び跳躍した。
着地と同時に、ずさっと足を滑らせ後退する。砂埃がわずかに舞った。
「……ちょっと、飛びすぎてしまいましたね」
後ろを確認して困った顔で笑いながら、アディは汗を拭った。
足が止まったのは枠の外、アディの場外負けだった。
もちろんわざとである。正々堂々とした、フィデスにだからこそ出来る作戦だろう。
「へぇ。お前、面白いな?」
アディの一連の動きを、静かに見ていたフィデス。その彼が目を細めて笑った。
消化不良だろうに気分を害した様子は全くない。
それどころか場外のアディに、なぜかフィデスが近寄ってきた。
――なんか、またまずった?
アディはそれを、不思議そうに首をかしげて見る。
「ルナと楽しそうにしていたから、期待してたんだが……次の機会にするわ。
万全のアディと遊びたいな」
フィデスはそういうと、アディの肩に腕を回した。声を潜めて、アディに確認をする。
「……顔色が悪いな。どこか怪我しているのか?」
「お気遣いありがとうございます。少し、寝不足なだけですよ」
フィデスが声を潜めたのは、アディだけでなく、先の相手であるルナを気遣ってだろう。
だからアディも、フィデスに笑って嘘をついた。
寝不足なのは本当だ。けれど、怪我をしているのも本当だ。
ルナを庇った時に、アディは受け身のつもりで右手をついた。身体強化を手のひらに掛けていたから、擦り傷などはない。
けれどその時、嫌な音を耳が聞き取ったのだった。
怪我をしたのはルナのせいではなく、受け身が下手だったアディのミス。
けれど先ほどのルナの様子ではおそらく怪我を知れば、自責の念にかられてしまうかもしれないと思った。
だからアディはそれを、最後まで隠し通すことに決めていた。
――身体強化で誤魔化してたんだけどなぁ。さすが、剣術に長けたフィデス。
「終わったら、ちゃんと休むので」
そう、アディはフィデスに念押しした。
肩に回された彼の腕に左手でポンポンと軽く叩いて、離してくれと促した。
「……お前、けっこう頑固なのな」
じっとアディの顔色を至近距離で見つめていたフィデスは、最初と変わらずニカッと笑うとアディを解放した。
――ヒヤッとした。というかバレるかと思った。
フィデスは教師に、アディのことを言わないでいてくれるのだろう。
どうかそのまま最後まで、軽い怪我や寝不足だと信じ、フィデスが気づかないでくれるようにアディは祈った。




