第11話 VSルナ 目がいいので、いろいろ気づいちゃうんですよね
広い運動場にはすでにラインが引かれており、そのます目に仕切った枠の中で模擬戦が行われる。
その一つに、アディとルナが向かい合って立った。
――実際に前にすると、とても小柄だな。
「アディウートル、剣は」
「ヴェネラティオ公爵令息、お気遣いありがとうございます。
私は身体強化が使えますので、お気になさらず」
ルナが剣先を向けて、アディに問う。
アディはそれに形式通りに、返答した。
こちらは彼を知っている。けれど向こうはアディのことをどこまで知っているのか。礼儀は必要だろう。
――で、なんでか始まる前から怒ってるよな。
上下ジャージの袖を、足首手首までしっかり伸びているかアディは確認する。
身体強化ついでに、服が軽い防具代わりになりますようにと期待してだ。
眼鏡を教室に忘れたから、アディは剣を持つ気はなかった。七つの頃から眼鏡をずっとかけていたからだ。
今は裸眼だ、慣れないことはしないに、越したことはない。
――痛くなく終わりたい。
総当たりと聞いた瞬間から、攻略対象とは場外負け、もしくは降参だとアディは決めていた。勝って目立つのは、嫌だった。
「ほぉ?では遠慮なく行かせてもらうぞ!」
「っ!」
剣を構えてのルナの加速。アディの目の前から一度姿が消えた。
屈んでからの突進と気づき、アディは横に姿勢を反らし硬化した左手で、ルナの切り上げた剣をいなした。
避けられたのを気づいたルナが、すかさずアディの体勢を崩そうと足で払ってくる。
アディはそれを跳んで後ろへとかわす。
ルナの突き出した剣先を、アディは再び左手で払いのけた。
――重さが無い分、痛くはないけど、速いな!
ルナの小柄な身体を利用しての切り返しに、アディは手と腕を使って、剣の力を逃がして対応した。
「なぜ返してこない!」
「いや、リーチが違うから無茶言わないで下さいよ」
「……お前も、僕が小さいとっ!」
――被害妄想!?
ルナのボソリとした呟きを、アディはハッキリと聞き取ってしまう。
そして顔すれすれに剣先が迫って、アディは身をよじって避けた。
体格は小柄なルナと比べれば、アディがやや勝つが、こちらは拳で、相手は剣だ。
単純な獲物のリーチの話だったつもりが、なぜこんなことに。
それに、そもそもアディは勝ちを狙っていない。
――めちゃめちゃ探ってくる感じがする。なんで!?
場外には行かせまいと、ルナは巧みにアディを中央へと戻そうともしている。
ちなみにアディが口を開こうものなら、顔を狙ってくるので迂闊に降参とも言えない。
ルナの熱意と模擬戦を長引かせるとこの意味が、アディには分からない。
――ちょっと一発受けて、降参するか?
痛いのは嫌だがそれしかないだろと、それた思考に眼前に迫った剣筋。
アディは思わずルナの剣を左手で受け、動きを止めてしまった。
ギリギリと抑えつけつつ距離を詰めて来たルナが、アディにだけ聞こえるように口を開いた。
「……なぜ手を抜く。的を壊せるほどの実力で!」
「え?」
――しまった。
アディは聞こえないふりをすれば良かったのに、もう遅い。素で声をあげてしまった。
午前の魔法実技でのことが、ルナにバレている。そしておそらく、アディのことを強いと思っているのだ。
ルナは真実、アディの実力を測ろうとし、また偽ったとしてアディに怒っているのだろう。
――ただの試験向きな実力ってだけなのに。俺は威力も、スタミナとかも、全部皆より劣ってる。
間抜けな声をあげて固まったアディの反応を見たルナは、歯ぎしりをすると後ろへと後退する。その目は怒りに染まっていた。そして再び、アディへと突進してくる。今までで一番速い。
ルナが蹴った地面に、はっきりとした窪みが出来たのを、アディは気づいた。
――身体強化のかけすぎで、過剰負荷がかかってる!
素早く視線を走らせ、剣を持つ彼の手元を見た。
耐久に限界が来つつあるのだろう、柄にヒビが入っている。受けてもいなしても、このままでは壊れるだろう。
模擬戦の範疇を越えている。教員は、まだ気づいていない。
――怒らせたのは俺だ。
「ああもう!」
アディは小さく吐き捨てて、躊躇いなくルナの懐へ飛び込み、剣を手ごと掴む。
ルナの身体を抱え込み、斜め後ろへと地を蹴った。進行方向を強引に変え重心を低くし、ルナの勢いを殺す。
「っ!」
そのまま地面へと滑るように落ちる。ルナを抱えた腕と反対の右手を地面につき殺しきれなかった勢いを止める。
二人でぶつかって転んだように、アディは見せかけた。砂埃が舞い、辺りに立ち込める。
「――っ!」
アディはルナが土煙を吸わないように、ぐっと左腕で抱えこんだ。
「おい、そこ。大丈夫か!」
「大丈夫ですー。すみません」
――おせぇ。
転倒の派手な音に気づいた教師が近寄り、声をかけてきた。それに、アディが返事をする。
「怒らせてしまい、すみません。手を抜けるほど強かったら、こんな受け止め方してません。もっと上手に出来るはずです」
アディはルナにそう小声で言って、彼を立ち上がらせる。ルナの着衣の汚れを払い観察した。
――怪我はなさそうだな。
剣が破損して、破片が周りに飛ぶのも危ないから嫌だ。
ルール違反で、ルナが負けるのも嫌だ。
身体強化のかけすぎで、ルナの成長期の身体に悪影響を及ぼすのも嫌だ。
アディが避けて、ルナが怪我をするのも嫌だ。
殿下の年齢に合わせて飛び級したのは誰だったか、それは小柄なルナで間違いない。
前世で例えれば、周りは皆中学生、ルナは下手したら小学校高学年かもしれないくらい小さい。
子どもなら、カッとなって当然だろう。
「手合わせ、ありがとうございました」
アディは中身が大人なのだから、もっとうまく立ち回れたはずだ。
アディはルナに礼を取ると、次の相手を見つけるために、その場を離れた。
――目立ちたくない。けど、それで誰かを傷つけたいんじゃない。




