【第13話 俺の名前は佐村井武士、職業リーマン】&【第14話 【人間便器】女子高生と女教師と御不浄】
【第13話 俺の名前は佐村井武士、職業リーマン】
スーツ姿の佐村井武士はスマホで呼び出していた。何度メッセージを送っても、返信がなかったからだ。
このバーで待ち合わせるはずだったのに、御手洗花子は現れない。何か事故かトラブルに巻き込まれていたら大変だ。
つながった。彼女が通話に出たのだ。
「花子、何してるんだ? ずっと待っているんだぞ」
「ごめん……」
「何? もう少し大きな声で」
「それが、その……」
店内が騒がしい。救急隊が到着したようだった。
先ほど、佐村井がトイレで大きいほうをすませたら、二人の下半身丸出し男に遭遇した。一人は中腰状態のよく分からないポーズ。もう一人は床でうつ伏せになっていた。中腰男が何やら言い訳をしていたが、佐村井はその場しのぎでいろいろ口走りながら、トイレから逃げ出したのだった。
「まだ会社にいるのか?」
「今日、逢うのやめよう」
花子はデートのキャンセルを申し出てきた。
「何、言ってるんだよ。約束してただろ。大事な話があるって」
「ちょっと風邪をこじらせちゃって。ゆっくり休みたいの」
「じゃあ、家にいるんだな。ちょっとだけでも会おう」
花子が何か言いかけていたが、佐村井は背後を通りかかる救急隊に押されて、通話を切ってしまった。
野次馬たちが群がって見学している。中には撮影する者も。
担架に乗せられて運び出されてきた男は、まだ意識を失ったまま、お尻を全開にしていた。
【第14話 【人間便器】女子高生と女教師と御不浄】
草井香織はクラスメートの小楢風奈、そして担任の先生と一緒に女子トイレへ逃げ込んだ。
いったい、この学校で何が起こっているのか? 不気味な影や音が存在する。校舎の外へ出られず、連絡もつかない。そして、生徒や教師たちが死んでいく。みんな、パニックになり、逃げ回った。一人減り、また一人減り……。
三人は片隅に寄り添って、うずくまった。
「ここまで来れば、もう安心よ」
先生は自分に言い聞かせるような口調だった。安心のはずがない。
「どうして、外へ出られないの? まるで学校全体が生きているみたい……」
泣きながら、風奈がつぶやいた。
「あっ……!」
香織が個室のドアを指差す。
無人のはずの戸が自然に開き、洋式便器が三人と向き合う姿で現れた。蓋や便座がカッタンカッタンと上がり下がりし、勝手に水が流れる。まるで、笑ったり、泣いたり、怒ったりしているみたいだ。
香織はハッとなった。
「このトイレ……そうよ! このトイレで彼女は死んだのよ!」
半年前、一人の女子生徒がこの個室で首を吊って自殺した。ひどいいじめを受けていたのだ。
そして最近になって、加害者グループの女子たちが次々と怪死していった。きっと怨霊となったいじめられっ子に、復讐されたのだろう。
突如、便座だけが本体から分離し、ブーメランのごとく襲いかかってきた。間一髪、三人は頭を下げ、便座はタイルの壁に突き刺さった。
「早く逃げなさい!」
先生は香織と風奈を先に行かせようとした。足がもつれた風奈が前のめりに倒れた。先生が必死に助け起こそうとするが、風奈はもう力が入らないようだった。
「香織さん、先に!」
香織だけ廊下へ押し出されて、ドアが閉まった。香織はドアを開けようとするが、中で先生が寄りかかっているのか、ビクともしない。
「先生、開けて!」
「いいから、助けを呼んできて!」
中にいる先生と風奈はドアの前でへたり込んでいた。
便器が……便器が床から外れた。そのまま、ゆっくり前進してくる。
腰を抜かして、身動きの取れない風奈。
「先生……今さら遅いよね。ゴメンって謝ったって」
「私だってそうよ。いじめを、ずっと見て見ぬふりをしてきたんだもの」
先生はそばにあったモップを手にし、片膝をついて身構えた。
「さあ、かかってきなさい」
便器は二人の目の前で停止した。まるで鮫や恐竜が大口を開けるかのように、うなり声を上げながら蓋が開いた。




