【第9話 ヤーさんと川屋勉とヅラ】&【第10話 川屋勉とケツ出し人間】
【第9話 ヤーさんと川屋勉とヅラ】
コンビニ脅迫犯の男によって人質にされた俺は、路上ですぐに解放された。男はおばちゃんが乗った自転車を強奪すると、全力で走り去った。俺も巻き込まれないよう、反対方向へ逃げた。
児童公園の公衆トイレを見つけた。でも、きっとまた何かあるんだろうなと、不吉な予感がした。
中に入ると、いかつい男たちが七、八人ほど寄り集まって、奥の個室を覗いていた。どう見ても、カタギではない。アニキ格の男が俺に気づき、鋭い視線を向けてきた。アニキといっても、おっさんだ。
「すみません、ちょっといいでしょうか。すぐにすみますので……」
俺は愛想笑いを浮かべながら、手前の個室に入ろうとした。だが、子分がさえぎった。
「アニキ、何か怪しいっすよ」
俺は無理やり、奥の個室へ連れていかれた。そこには髪も服もビショビショでボロボロの男が、顔面を醜く膨れ上がらせて、床にグッタリとなっていた。
アニキがボロボロ男に問いかけた。
「これが例の仲間か? 俺たちを裏切ろうとした……」
もはや口を開く力もなく、ボロボロ男はうっすらと目を開けるだけだった。
「誰かと聞いてるだろ!」
アニキの蹴りが入った。ボロボロ男は子分たちに起こされると、強引に便器に顔を突っ込まれた。さらに便器に押しつけたまま、便座の蓋でガンガンと挟む。
それでも、ボロボロ男はしゃべらない。しゃべれないのか。
「じゃあ、本人に聞くしかないな」
アニキはビクビクしている俺をにらみつけてきた。
「何をたくらんでいた? 俺たちをサツに売る話か? それとも、組の金を横取りする話か?」
「違います! 私はただ、ウンコがしたいだけで……」
「ふざけるな!」
アニキは俺の首根っ子をつかむと、ボロボロ男と同じように便器に顔を押しつけ、水をじゃんじゃんと流した。
俺は苦しくて、手足をバタバタさせた。
「さあ、吐け! 吐きやがれ!」
俺は無我夢中で何かをつかんだ。同時に、アニキが離れた。
見上げると、先ほどまでフサフサだったアニキの頭はツルツルのテカテカに光っていた。そして、俺の手にはフサフサの髪の毛が。
アニキはうろたえながら手で頭を隠し、周りの子分たちはあまりの突然のことに固まってしまっていた。
俺は汚い物を振り払うかのように、そのヅラを隣の個室へ放り投げた。
「早く取ってこい!」
アニキの怒声に、子分たちは一斉に隣の個室へなだれ込んだ。
俺はその隙を突いてアニキを押しのけると、一目散に出口へ向かった。その刹那、隣の個室の便器内にヅラが浸かっているのが垣間見えた。
【第10話 川屋勉とケツ出し人間】
ヤクザの追っ手を撒き、どうにか命拾いした俺。ちょうど目の前にバーがあった。休みがてらに、一杯だけ引っかけるか。目当ては当然、トイレだ。
店内は意外に広く、客で賑わっていた。カウンターのバーテンダーに注文してから、化粧室の場所を聞いた。
男子トイレの床に、人がうつ伏せで倒れていた。ズボンもパンツも足首までずり下ろした、尻丸出し状態で。
「大丈夫ですか?」
反応はない。意識がないのは、酔いつぶれているせいだろう。
一つだけある個室を見ると使用中。この男は小便がしたかったのか、大便がしたかったのか。
親切心からとりあえずズボンとパンツを上げてやろうと思ったが、その手が躊躇した。ずり上げようとした瞬間、ケツからムニュムニュと身が出てきたら。かといって、あお向けにしてイチモツを目の前にするのも、ゴメンだ。
その時、小康状態だったお腹に、再び激しい波が襲いかかってきた。ケツ出し男をそのままにして、俺は小便器で大便をすることにした。ズボンとパンツを下ろし、立ったまま尻を突き出して、便器に触れない程度に。なかなかタイミングが難しい。
すると個室の戸が開き、用をすませたばかりの男性がさっぱりした表情で出てきた。
「……!」
男性が目の前の光景にギョッとした。
一人はケツを出したまま倒れているし、もう一人も下半身をさらけだして、中腰になっているのだ。
「失礼しました! どうぞ、ごゆっくり」
男性は引きつった笑みを浮かべながら、倒れている男を避けるようにして注意深く壁沿いに横歩きした。もちろん、俺からも離れるようにして。
「いや、これは違うんです」
俺は弁解したが、理解してもらえただろうか。
「別に構いませんよ。私は差別はしない主義でしてね。男と男が愛し合うなんて、今ではごく当たり前ですから」
男性は逃げるようにして出ていってしまった。誤解は解けなくてもいい。個室が空いたのだ。
俺は中に入り、便座に腰かけた。悲鳴とともに飛び上がった。熱い。暖房便座が熱すぎる。
いったい、何度に設定してあるんだ? きっと、俺の尻は便座の形に赤く火傷の痕が残ってしまっているだろう。
温度を下げようと、ウォシュレットのスイッチを操作してみる。洗浄水が俺めがけて勢いよく発射してきた。
素手で、さらには上着を脱いで防ごうとするが、どうやっても温水は止まらず、俺も周囲もびしょびしょになってしまった。
俺はあきらめて、噴水状態の個室を出た。ケツ出し男はまだ寝ていた。




