第一話 不思議な少女
ある場所で、戦力差が絶望的な争いが起こっていた。
太陽神への信仰心が深い国、シャイン王国の総兵は一万人、対して世界一の国土を誇る国、バルーン王国は五十万人。
誰もがこの争いはバルーン王国が勝利を収めるものと信じて疑わなかった。
そう、シャイン王国の兵士たちさえも。
戦いが始まって十分ほど経過したころ、シャイン王国は戦力の二分の一を失っていた。
元々負け戦であったこの戦い、誰もが真面目にやる気などなく、シャイン兵たちは命からがら戦場から逃げ出していたのだ。
そんな中、逃げ遅れた若者兵が一名。
「ま、待ってくれ。命だけは、命だけはお助けを‥‥‥」
青年が怯えながら言うも、バルーン王国の兵士はそれを無視して剣を天高くに掲げる。
キラリと剣の刃が光り、無情にも青年の首を掻き切った―――かのように見えた。
青年はこの状況が全く理解できなかった。
自分の首のすぐそこに刃があるというのに、その刃は一向に動く様子がなく、ピタリと止まっているのだ。
訝しく思ってバルーン王国の兵を見上げると、その顔と腕、手は真っ赤になっており、明らかに力を込めていることがわかる。
(どういうことだ‥‥‥?)
頭で?マークが飛び交う青年の前で、さらに不思議なことが起こった。
ぐにゃりと、バルーン王国の兵の剣が曲がったのだ。
いよいよ恐ろしい事態である。
青年は、目の前で起こった摩訶不思議な現象に目を白黒させる。
そんな彼の横に、小さな人影が舞い降りた。
「彼に手を出すのは、やめてください」
凛とした声が響く。
いつの間にか、争いの音は無くなり、全ての兵士たちの視線が彼女に集まっていた。
「お、お主は誰ぞ! 名を名乗れ!」
バルーン王国の兵が声を張り上げると、兵士たちはゴクリと息を飲み、その場はシンと静まり返った。
不思議な少女はまるで花が咲くように笑い、胸元に手を当てる。
「これはこれは、とんだご無礼を。我が名は、英里と申します。そこの青年を助けるため、やってまいりました」
「う、嘘だ‥‥‥!」
思わず、青年の口から考えるよりも飛び出してしまった言葉。
「なぜそのようなことをおっしゃるのですか?」
「だ、だって‥‥‥」
ありえない。そんなことが、あってたまるものか。
青年は唇を噛み締め、少女を睨みつけた。
※ ※ ※
国からも見捨てられた、シャイン王国の兵士。
‥‥‥いや、もはや兵士とは呼べないかもしれない。
シャイン王国の我儘な王様は、大事な大事な王女のために、昔からの大国、バルーン王国の珍しい宝石がとれる山地を奪おうと企んだ。
それだけならまだよかったのだ。
シャイン王国の兵力は世界随一と呼ばれるほどで、バルーン王国にも余裕で勝てると思われていたから。
だが‥‥‥王様は、我儘なうえにけちんぼだった。
自国の兵力をたかが戦争のために使いたくないと言い、そこそこ頭がいい王様は、残酷な計画を立てた。
題して、 " 捨て駒作戦 "
国中から男だけを集め、武器を持たせ、兵士として戦争に送り出す。
そして、彼らに命がけでバルーン王国の戦力を削ってもらい、残った敵国の兵はシャイン王国の兵で倒すという、残酷で極まりない、情の欠片もない作戦だ。
もちろん、この残酷で国民の命をなんとも思っていない作戦には、城や町で多くの反対意見が出た。
だが、王様は捨て駒作戦に反対した者は反逆者とみなし、皆殺しにしてしまった。
作戦の反対者はいなくなり、城は完全に王様の独壇場と化した。
そうして、多々の犠牲のもと、 " 捨て駒作戦 " が幕を開けたのである。
凶悪な殺人犯から、罪のない農民、孤児院で育った子供たちまで。
集められた兵士、つまり捨て駒の彼らは、有無を言わさず戦場に送り込まれることとなった。
逃げ出したりしようものなら、身近な者たちを虐殺するぞ、という王様の脅迫を最後に。
だが、王様は肝心なところでダメダメだった。
集められた兵士たちの多くが、孤児や犯罪者だったことを忘れていたのである。
戦争がはじまると、孤児たちは互いに助け合い、犯罪者は一人で、戦場から逃げ出した。
だが、数少ない農民たちは、逃げることができなかった。
自分たちの家族が、シャイン王国内にいる。
それはつまり、王様の支配下にあるということ。
王様の命令一つだけで、命よりも大切な人たちが簡単に死んでしまう。
全ては、家族を守るため。
ただそのためだけに、農民たちは戦う。
青年も農民だが、家族を持つ彼らとは違い、大切な人がいなかった。
正確に言うと、『家族』はいるのだが、彼らを大切な人とは思えなかったのだ。
実の両親なはずなのに、妹ばかりに構い、青年を除け者にする家族。
好きになれるはずがないのだ。
そのため、青年は命を懸けて戦う必要など全くなかった。
隙を見て逃げようとタイミングを計ってるうち、慎重な性格が災いし、逃げ遅れてしまった。
‥‥‥当然のように、彼を助けてくれる者は現れなかった。
哀れな目で青年を見つめ、逃げていく孤児たち。
惨めな青年をせせら笑いながら、狂ったように兵士たちを虐殺する犯罪者たち。
申し訳ないと頭を下げ、敵の目をかいくぐり戦の場を去っていく、青年の仲間のはずの農民たち。
誰も、彼を助けてはくれなかった。
当たり前だ。
国から見捨てられた時点で、青年の命など塵よりも儚いのだから。
なのに―――なのに、こんな知り合いでもない少女が青年を助けてくれるわけがない。
そんなこと、あるはずがないのだ。
※ ※ ※
青年から怒りのこもった説明を聞き、少女はふむ、と頷いた。
「なるほどのう。じゃが、わっちも依頼を受けてお主を救いに来ただけじゃからのう‥‥‥。そんなに警戒せんでおくれ」
警戒しないでなど言われても、はいわかりましたと信じることなどできるはずない。
というか、先ほどの丁寧すぎる敬語はどうしたのだろうか。
「まあ、いきなり信じることもできないか。しょうがない、とりあえずわっちは依頼をこなすだけじゃ。ちと失礼するぞ」
そう言って、少女は青年の体を横にしひょいと抱え上げた。
世間一般で言うお姫様抱っこをされ、青年は頭が真っ白になるのを感じた。
人間、誰しも理解できる情報量には限りがあるというもの。
青年、完全にキャパオーバーだった。
そして少女は、気を失った青年を見下ろすと、にまりと笑った。
「わっちが美少女過ぎて気を失ってしまったか。やはり年頃の男はよいのう」
彼女はいまだにぽかんとしている兵たちを見回し、では失礼するぞ、と言うと地面を軽く蹴った。
トンッと軽やかに二十メートルほど空に舞い上がると、少女はピィーッと口笛を吹き、使い魔を呼び寄せた。
すぐさまどこからか黒龍が飛んできて、少女と青年を危なげなく背中で受け止めることに成功。
「よしよし、グレン。いい子じゃのう」
少女が優しく黒龍を撫でると、彼(?)は嬉しそうに尻尾をふったのだった。
もしかしたら、色々と矛盾があるかもしれませんが、作者はまだ未熟者なので、温かい目で見守っていただけるとありがたいです‥‥‥。




