紛れもなく純愛
魔力がバチバチと軽く爆ぜたかと思えば、普段通りの表情に戻るロキ。
周囲は怖いもの見たさなのか、こちらをジッと見ている。
「どうやら、私をエスコートできなくなったとご伝言をされた理由は、そちらのご令嬢のようですわね?」
「あぁ。すまない、道中何も無かったか?」
「えぇ。何不自由無く、こちらに着きましたわ。」
「良かった。」
私を気遣う素振りを見せる彼に状況を把握すべく周囲を見渡す。
先程、私の聞き間違いでなければ私を愛していると言ったような気もしますが……。
都合の良い幻聴の可能性もありますからね。
「また私をイジメるんですか、エリカトレ様!!」
は?
っと、いけません。淑女らしくしなくては。
「何をおっしゃっているのかわかりませんわ。貴方誰ですの。」
「な、だ、誰って……!ひどい…!そうやってロックスの気を惹いてきたのね…っ!」
「…………。」
「ひぃ!?ほら、また私を蔑むように怖いお顔を……!!」
は?地顔ですが?
「気を惹くも何も、彼は私の婚約者ですが。婚約者の居る殿方に言い寄る貴方のほうが、気を惹いているのでは?」
「その婚約者だって、お家の権力で無理やりした政略結婚なんでしょ!?皆知ってます!そんなの、ロックスが可愛そうです…!」
「何を────」
「カティ。」
「……っ。」
落ち着け、落ち着くのよ、エリカトレ・ガーロ。
貴方は公爵令嬢でしょ。
「ほら、やっぱり公爵令嬢だから……。」
「キツイ顔してるわ……。」
「あぁ、あんなに泣いてしまって可哀想に……。」
「あんな目つき悪いご令嬢、望まれたってイヤだったでしょうに……。」
聞こえてきた声に感情が溢れる。
私だって……、私だって……!!
「カティ、外野の声に耳を傾けるな。聞くに値しない。」
わかってる。
そんなこと、わかってる。
この結婚が政略どころか契約結婚だってことも。
お互いの体質を補うためだけの、脆い繋がりだってことも。
それでも私は、貴方を……っ。
「カティ?大丈夫か?もしかして、魔力が────」
伸ばされた手を払いのける。
同情なんてまっぴらだ。
こんな体質になって、ロキという希望を見せられて、幸せな未来に夢見て。
これ以上、惨めな気持ちにさせないで。
「あぁ、ほらやはりイジメるだけあって醜いわ。」
「可哀想に。あんな淑女らしからぬ顔をしている婚約者に比べれば、あちらのご令嬢のほうが愛らしいに決まっている。」
「あぁ、ほら。何か同情を誘う気よ。」
ロキが珍しく、限界まで魔力をくれなかったから活動限界が近い。
でも、あそこで泣き崩れるご令嬢が噂になっていた人なら納得もする。
「……、失礼ね、私だって好きでこんなキツイ顔してないわよ!」
「落ち着け、カティ。」
「誰のせいよ!!貴方がこんな小動物みたいな令嬢連れてるから…!いくら私たちが利害の一致で結んだ婚約とは言え、こんな扱い、あんまりよ!!」
「違う、誤解だ。こんな女より俺はカティが良い。」
息切れを起こしながらまくしたてる私を、心底申し訳なさそうに支えてくれる婚約者に、唇を噛み締める。
私だって好きで魔力欠乏症になったわけじゃない。
好きで、こんな顔をしてるわけじゃない。
「この女はカティの悪い噂を流していた諸悪の根源だから、俺が卒業する前に消しておこうと思っただけだ。」
「そんな話、信じろと……?」
「俺の魔力を美味そうに食っておいて、信じられないと?」
「……っ。」
「安心しろ、エリカトレ・ガーロ。利害の一致は建前で、すでに俺はお前に惚れているから。」
「!?」
触れ合う箇所から魔力が波のように押し寄せてくる。
ロキからの譲渡はいつも一箇所からの供給だったから、全身で譲渡されると、魔力酔いしそう。
「何より、婚約を破棄するつもりならハッシュヴァルト侯爵邸から追い出している。」
「……それはそう、ですね……?」
魔力が体内に満ちたからか、ロキが抱きしめてくれているおかげか。
幾分か冷静になれた。
今にも心臓は壊れそうだけど。
「この女含めて関係者全員処分した後、殿下経由で陛下に婚姻の許可をもらう予定なんだ。だから、すまないが、ココは俺に任せてくれるか?」
「は、はい。わかりま……ん?」
「そうか、ありがとうカティ。控室を用意しているから、そっちで待っていてくれるか?処理を終えたらすぐに向かう。」
「あ、あのロキ?」
「心配するな。抜かりはないから。」
「いや、あの、私は別にそこは信じてると言いますか……。」
「そうか。それは良かった。では頼んだ。」
「はい。エリカトレ嬢は、どうぞこちらに。控室に案内いたします。」
「ま、待ってくださいな!話はまだ……っ。」
「あとでゆっくり話そうね、カティ。」
優しい笑みと触れるだけの口づけを贈られ、トンッと肩を押される。
目を白黒させる私を控室に案内する彼は確か、ロックスの従者兼悪友。
「こちらでお待ち下さい。」
通された部屋には、私の好きなお菓子が用意されていて。
「ま、待って!ロキは一体……!」
「俺の口からはなんとも。ただ、一つ言えるのは……アイツ、エリカトレ嬢のことめちゃくちゃ好きだぜ?」
「!」
「と、このことはご内密に。それでは。」
パタンと虚しく扉が閉まる。
私がパーティー会場を出ると同時に会場はロキの魔法により完全に孤立された。
そのために、私への魔力譲渡量を減らしていたのだとしたら。
「……私、なんてことを……。」
魔力過多症の彼に心配はいらないのだろうけど。
それでも私に魔力を譲渡した後では、求めていた出力よりも落ちるのは間違いない。
「……疑ったことは、一度もない。」
それでも、不安になるのは仕方がないでしょ……?
一人落ち込んでいると、ノック音と共に現れる婚約者様。
「カティ。」
「ロキ。」
「体調は?」
「大丈夫よ。ロキは?」
「心配いらない。カティに譲渡した後だったせいで生存を許してしまったが。」
それは完全に息の根を止める予定だったということでは?
「心配するな。数日以内にはカティの傍から消しておくから。」
「そ、そこまで望んでないわ…!」
「魔力欠乏症のカティを無実の罪で陥れ、俺から奪おうとしたんだ。万死に値するだろう。」
「私だって怒ってるし、消えてしまえって思ったわ!でも、そんなちっぽけな存在のことなんてどうでも良いの!」
「……ふむ。一理ある。確かにあんな塵芥、相手にするだけ無駄だな。」
ロキが抱きしめてくれる。
触れるところから、少しずつ魔力が溶けるような感覚。
「傷つけてごめん、カティ。」
「え?」
「学園での態度も利害の一致を明確にするために見せた契約書も。君を傷つけることしかできなかった。」
ごめん、と重ねて謝られる。
「…………それでも貴方を信じていたと言えば、呆れますか?」
「!」
「私は、貴方に捨てられれば死ぬ運命。常人に私が活動できるだけの魔力の供給を求めれば、廃人になってしまうことは、知っています。だかこそ、両親ですらも私の延命処置はできても、自由にはできなかった。」
健康的な身体も、出歩ける身体も。
全部、貴方がくれたもの。
「ロキが私を愛してくれているのは、日頃の振る舞いでわかります。ただ、色々な噂に振り回され、不安になったのもまた事実。」
「……ごめん。」
「ふふ。構いませんよ。まぁ、貴方に捨てられるのなら慰謝料がわりに魔力をたっぷりともらう予定でしたが。」
「それは怖いな。」
「でしょ?」
いくら魔力過多症のロキでも生死不明の取引になるのは目に見えていた。
だからこそ、切り札にして私からは何も言わないと決めていた。
「ロキ。」
「ん?」
「殿下経由で婚姻の許可をもらうつもりだったって言ってたけれど……。」
「あぁ。それなら、無事に許可が降りたぞ。書状はすでに邸に保管手配をとった。」
「……本当に、良いの?」
「…………。」
「私と違って貴方は魔力を外部に発散すれば、私が居なくても生きられる。私は、貴方の魔力がなければ社交界にもろくに顔を出せない。そんな不公平な事態、貴方はまだ、許してくれるの?」
「言っだろ、カティ。俺は、エリカトレ・ガーロという立派な淑女に惚れたんだ。同情だけで何年も誰かに費やすほど、俺は優しい人間じゃない。」
「利害の一致で私を婚約者にしてくれるくらい優しい人よ、ロキは。」
「だったらソレはもう、カティだからとしか言いようがないな。」
優しく微笑む姿は、逢瀬の時に見せてくれたものと同じで。
慈しむような、包み込んでくれるような。
安心感を覚える笑み。
「ねぇ、ロキ。」
「なんだ。」
「疑ってごめんなさい。それから、ありがとう。」
あの日、私と出会ってくれたから私は今、ココにいる。
私は、こんなに長く生きられると思って居なかったから。
「私、貴方が好きよ。」
目を見開いたかと思えば、強く抱きしめられる。
「カティ。」
「なぁに。」
「カティ。」
熱に浮かされたように呼ばれる名前に小さく笑い、抱きしめ返す。
ねぇ、ロキ。
貴方は私の命の恩人。
だから本当は、貴方が噂通りに私を捨てる予定だったならソレを叶えたいと思ったのよ。
「愛してる。俺の生涯、捧げるから。傍にいてくれ。」
「ふふ。私の願いを聞いてくれるのなら。」
「なんだ?」
「新婚旅行は遠出したいわ。」
「仰せのままに。」
大きな手のひらが頬を撫で、優しい指先が唇を撫でる。
「口付けても?」
「……ど、どうぞ。」
「可愛い。」
愛してる。
そう囁くと唇が重なった。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




