魔力欠乏症 Sideエリカトレ
私は、顔つきがお父様に似て怖いとよく言われた。
勝ち気な目元、涼やかな目元……。
色々と言われたけれど、“鋭い目つき”というのが総意だ。
あと、ガラが悪く見える。
などなど。
あげればきりがない。
だからこそ、体型維持に尽力し、少しでも女性らしいと思ってもらえるように努力した。
努力してきた。
「……、失礼ね、私だって好きでこんなキツイ顔してないわよ!」
「落ち着け、カティ。」
「誰のせいよ!!貴方がこんな小動物みたいな令嬢連れてるから…!いくら私たちが利害の一致で結んだ婚約とは言え、こんな扱い、あんまりよ!!」
「違う、誤解だ。こんな女より俺はカティが良い。」
息切れを起こしながらまくしたてる私を、心底申し訳なさそうに支えてくれる婚約者に、唇を噛み締めた。
ソレは、デビュタントを終えた私が王太子の婚約者候補に名前を連ねたと発表されて間もない頃。
「……はぁ、はぁ……。」
「どうしたの、エリカトレ?」
「おか…さま……はぁはぁ…。なんだか、今日は、疲れちゃったみたい……。」
「あら、すごい熱。早く部屋で休みましょう。お医者様も呼ばなきゃね。連日のパーティーで疲れが出たのね。しばらく、ゆっくりしましょう。」
「はい、おかあさま。」
私の体調不良に医者を呼び、薬を処方される。
だけど私の症状は一向に良くならない。
「どうなってるの?本当に、異常はないのね?」
「はい。ただ……、お嬢様は、魔力欠乏症です。」
「……なんですってっ?」
私が魔力欠乏症だと聞いた両親が絶望の縁に立たされたのは、言うまでもない。
魔力欠乏症とは、いまだ解明されていない不治の病とされている。
体内で生成、蓄積される魔力が枯渇されているため上手く循環できない状態だ。
「応急処置として他者の魔力を吸収するのが魔力欠乏症患者の共通点です。ただ、触れる相手から自分の魔力を補充するために際限なく吸収されるので、触れる際は気をつけてください。」
「わかったわ。エリカトレは魔力量が多いから、きっと私たちの魔力補給じゃ、半日動けるようになるのがやっとかもしれないわね。」
「他者から魔力をもらう……、最適解は無いのかい?家族から毎日少しずつ渡すのが最適なのかい?」
「いいえ。魔力過多症の方から魔力をもらう。ソレが、今現在判明している最適解です。」
「魔力過多症……聞いたことがある。確か、定期的に魔力を放出しないと、魔力暴走をすると。」
「はい。ですので、お嬢様には際限なく魔力を補給できる相手……魔力過多症の殿方を見つけるのが良いかと。」
「なるほど、わかった。参考にしよう。」
私が魔力欠乏症になったことにより、社交界は遠のき。
王太子殿下の婚約者候補からもはずれた。
「ごめんなさい、お父様、お母様。私、殿下の婚約者になれなくて……。」
「いいのよ、エリカトレ。」
「そうだぞ、気にしなくて良い。」
優しい両親や使用人たちから、日々少しずつ魔力を分けてもらい、数時間だけ動く。
本を読んだり、庭に出て花を眺めたり。
だけどソレも、私が十二歳になるまでが限界だった。
「エリカトレ、聞いてくれ。知り合いの子が魔力過多症らしいんだ。一度、会ってみないか?」
「魔力過多症……?本当に……?」
「あぁ。会ってみないか、エリカトレ。」
気遣わしげに聞いてくれる両親に、会いたいと答えた。
それからは早かった。
私が返事をした二日後には、魔力過多症の子が会いに来てくれた。
いや、立派な青年男性だ。年は私より少し上だろうか。
顔色が少し悪そうに見えるのは、暴走寸前の魔力のせいだろうか。
私は、年々ひどくなる魔力欠乏症のために、ベッドから起き上がるのも一苦労で。
「エリカトレ。こちらがハッシュヴァルト侯爵だよ。」
「お見苦しい格好で申し訳ありません。ガーロ公爵が娘、エリカトレです。」
「ロックス・ハッシュヴァルトです。早速ですが、手を貸していただけますか?」
「……よろしいのですか?」
「もちろんです。」
差し出された手を掴もうか悩んで、チラリと後ろに控えるお父様たちを見る。
そうすれば、笑顔でコクコクと頷くから。
意を決して、手をつなぐ。
「「!!」」
濁流のような魔力の波が押し寄せ、身体がぐらりと揺れる。
慌てたように傍に居た侍女が支えてくれたけれど。
「……う、そ…。」
「エリカトレ?どうだい?」
「嘘、嘘、嘘。」
枯渇していた魔力が体内を巡っているのがわかる。
試しに手のひらサイズの魔法を展開してみれば、ちゃんと魔法は発動して。
「私、魔力を感じるわ!!こんなに満たされたのは久しぶりよ!!」
身体が軽い。
息苦しさもない。
「ありがとうございます、ロックス様!この御恩は忘れません!」
「……こちらこそ。ありがとうございます。」
今にも溢れそうな魔力量だったロックス様も落ち着いた魔力量になったのか、顔色が良い。
「ガーロ公爵、少しよろしいか。」
「ええ、ええ。もちろんです。エリカトレ、動けるようなら庭に行っておいで。君の愛する母が、今頃お茶をしているから。」
「はい、お父様。」
お父様がハッシュヴァルト侯爵と部屋を出て行くのを見届け、簡単に身だしなみを整えてもらう。
「お嬢様、本当にお一人で歩けますか?」
「えぇ、大丈夫よ。筋力は少し衰えたけれど、ちゃんと歩けるわ。」
「倒れる時は後ろにお願いしますね、お嬢様。私がしっかりと支えますので。」
「ありがとう、頼りにしてるわ。」
何年ぶりだらうと言うくらいに、元気に外を満喫する。
私が姿を見せた時、お母様は泣いてたわね。
それから、あれよこれよと話が進み。
「俺が婚約者として君に約束するのは最低限の生活と魔力補給。」
「私が婚約者として貴方に約束するのは公爵令嬢としての最低限の役割と魔力吸収。ええ、異論はありませんわ。」
私たちは婚約者になった。
デビュタント以来公の場に姿を見せなかった私は、色々と言われているようだけれど。
本調子ではない私は、鈍った身体を再び無理のない範囲で鍛え上げる。
婚約者様は学園へ通いつつ、私に魔力を分け与えるために三日に一回、帰宅する。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。魔力で満たされているから、とても身体が軽いの。」
「それはようございました。」
些細な日常を過ごし、日々を重ね、私が彼をロキと愛称で呼ぶようになり、彼が私をカティと愛称で呼ぶようになって数ヶ月。
いよいよ、私の入学。
「……緊張しますわね。」
「大丈夫だ。カティなら心配いらない。」
「ふふ、ロキがそう言ってくれるのなら、安心ね。」
「無理はしないように。学年が違うから、すぐに駆けつけてやれない。」
「えぇ、心得ておりますわ。倒れる前にお暇させていただきます。」
「…………。」
「何よ。」
「いいや?矜持の高いカティが、弱みを見せてくれるようになったのは、進歩だなぁと。」
「…………婚約者とその他諸々の区別くらい、私だってしますわ。」
「ククク…あぁ、そうだな。それでこそ、俺のカティだ。」
楽しそうに笑って馬車に揺られる。
二人仲良く登校する。
下校は時々一緒。
ソレ以外は彼も他学生と同じように寮で過ごす。
私は特別待遇で毎日ハッシュヴァルト侯爵邸へと帰らせていただく。
ただ、それだけなのに。
「なぜ、私が名も知らぬ女子生徒をイジメる必要があるのです?」
皆、私が嘘をついていると言う。
私はどうやら、名も知らぬ女子生徒をイジメた主犯格で、イジメの理由は嫉妬。
バカバカしい。
「話になりませんわ。」
父譲りのこの顔のせいで、何をしてもビビられる。
何を話しても恐怖が上回るのか、聞いてもらえない。
私の“したこと”は、学園中の噂になっているらしく嫌煙される。
それでも構わなかった。
学園生活に支障はない。
ただ、ロキ以外と過ごす時間が得られないだけで。
「笑いすぎでは?」
「すまない。怒っているカティが可愛くて。」
「……絆されませんわよ。」
「それは残念。」
そんな日常が守られれば、私はそれだけで良かったのに。
「…………いつかこんな日が来るとは思っていましたわ。」
名も知らぬ女子生徒がロキにまとわりつき、二人で一緒に過ごしていることが増えた。
そんな悪意ある噂は私の耳へと届いていて。
それでも彼が、利害の一致で結んだ婚約者である私を大切にしてくれているのが唯一の救い。
「カティ?」
「!」
「魔力が不足しているか?他に悩み事か?」
「ううん、なんでもないの。ありがとう、ロキ。」
「何かあるなら言ってくれ。俺は、そこまで有能では無いから、言ってくれなきゃわからない。」
噂になってる女は誰?
そう、尋ねる勇気があったなら。
どれだけ良かっただろう。
「ふふ。なんでもない。いつもありがとう、ロキ。お陰で最近は魔力切れで倒れることも減ったのよ。」
「それは良かった。元気になったら、遠出しような。」
「うん。」
あぁ、なんて。
優しい走馬灯。
それもこれも、私が学園に入学して二年、彼が卒業するというこの集大成とも言えるイベントに、泥を塗ってくれたご令嬢のおかげ。
私のエスコートが急にできなくなったと伝言された時から嫌な予感はしていた。
「こんにちは、お二方。コレは一体どういう状況なのか、説明してもらえるかしら。」
「カティ……。」
「私たち愛し合って居るんです!」
「…………は?」
勢いよくその腕に抱きつくご令嬢を問答無用で魔法で弾き飛ばし、見下ろす婚約者様は私よりもお怒りで。
「ろ、ロックス……?」
「俺が愛しているのも、俺と気軽に腕を組んで良いのも、カティただ一人だ。」
絶対零度の視線と魔力を持って、その女子生徒を見下ろす姿に目を瞬いた。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




