この感情は恋?それとも執着?〜気づいたら落ちているもの〜
――心臓が、うるさい。
ドクン、ドクン、と。自分の鼓動が耳の奥まで響いてくる。
布団の中、私はひとり。夜の静けさが、余計にその音を大きくしていた。身体は熱を帯びている。
そして熱を持ったスマホの画面には、あの人とのトーク履歴が光っている。
顔も、ちゃんとした名前も知らない。
ただ、最初は――私が困っていたとき、偶然声をかけてくれただけ。
それなのに、あの日からメッセージを重ねて、気がつけば一日の終わりは必ずこの人のことを考えている。
違う、日中もずっと考えて心ここにあらずの状態だ。職場の同僚からは心配されている。
「顔、赤いけど大丈夫?具合悪い?」って。
具合が悪い訳じゃない。言えない、そんなこと。
今日もまた寝る間に布団の中であの人を浮かべている。
「……ユキさん……」
そう呼ぶのも、スマホ越し。
なのに、名前をつぶやくだけで胸の奥がじわりと熱を帯びる。
あの人の言葉。笑い声。短い文章ひとつで、世界の色が変わっていくみたいだ。
恋なんて「もう二度とできない」と思っていた。
現実の男の人は威圧感があって、声が大きくて怖くて。
近づくだけで息が詰まる。過去の記憶が喉を締めつける。
だから、恋は私にとって“無縁のもの”だったはずなのに。
――なのに、どうして。
ユキさんと話すと、怖さが少しずつ溶けていった。
文字と声だけなのに、心が温まっていく。
笑い声が、私の日常を染めていく。
「好き……好き、なのかな……」
答えは出ない。
どうして?吊り橋効果?単なる執着心?
それとも……
わからない。けれど、胸の高鳴りは確かにここにある。
あの人を想うだけで身も心も蕩けてしまいそうな
ーーそんな高揚感に支配されている。
頭の中がまるでフワフワとしている。
それだけじゃない、ユキさんが悲しいと、
私も悲しくなってしまう。
叶うならスマホを越えて貴方の傍にいられたらと
願ってしまう。
もう、以前の私には戻れない。知ってしまったから
これはたぶん本当に――
「……恋、なんだ」
涙がひとつ、頬をつたって枕を濡らす。
この気持ちが報われることは多分ーーない。
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